Cクラスはメルセデスの挑戦の歴史待望の新型Cクラスが発表され、いよいよステアリングを握る日がやってきた。私はスイスでジュネーブショーを取材した後、チャーター機で新型Cクラスの国際試乗会が行われている地中海の交易港として知られるマルセイユに飛んだ。 新型Cクラスを理解するには、1982年に登場した「190」の時代からどのように進化してきたのかを知ることが大切だ。実際のインプレッションをレポートする前に、Cクラスの歴史を振り返ってみたい。 Cクラスのルーツが1982年代に生まれた190クラス(W201)であったことはもはや昔話かもしれない。全幅1700mm以下のボディサイズだったので、日本では5ナンバーで市販されたメルセデス・ベンツであった。高級車メーカーとして知られるメルセデスが5ナンバーで乗れると聞いて、多くの人が190オーナーに志願した。高級車しか作っていなかったメルセデス・ベンツがなぜコンパクトな190を開発したのだろうか。 その理由はオイルショックにあった。70年代に生じた石油危機が世界中の自動車産業に意識改革を促した。石油に対する危機感から、アメリカ政府はメーカーの平均燃費を義務化することになった。燃費の悪いクルマは「ガスガズラー」と揶揄され、決して良いイメージではなかったのだ。こうした時代背景が、メルセデス・ベンツに燃費の良い2リッターエンジン中心の190の開発を決断させたのだ。 190の開発コンセプトはアメリカなどの世界市場で燃費の良いメルセデスを作ることにあった。190のチーフデザイナーであったブルーノ・サッコはコンパクトでも存在感があるメルセデス・ベンツをデザインしたと言っている。ちなみにブルーノ・サッコは1997年に登場したAクラスを最後に現役を引退したが、人生でもっとも情熱を注いだのは190とAクラスだったと後に語っていた。190もAクラスもメルセデスにとっては偉大なチャレンジだったのだ。 190はW201とも呼ばれ、1993年に登場する後継モデルのW202から「Cクラス」と命名されるようになった。 業界をリードし続けるCクラスの技術Cクラスの技術史で注目しなければならないのは、ボディ技術とシャシー性能を司るサスペンションである。90年代にメルセデスの安全技術部門を指揮していたインゴ・カリーナ副社長は、ボディ骨格の新しい考え方を90年代後半の新型車から採用している。 それまでのボディは硬すぎたと反省し、変形してエネルギーを吸収するクラッシャブルゾーンと、変形しない頑丈な乗員空間(キャビン)をうまくバランスさせる構造を開発したのだ。2代目のCクラス(W203)はこのコンセプトで開発された。衝突を受ける前部(エンジンルーム)のサイドメンバーからキャビンのサイドメンバーに繋がる部分に、荷重がむらなく分散できる構造を採用し、伝統的な三叉式緩衝構造(フォーク式)をさらにレベルアップさせたのである。 さらに、エンジンルームと室内を隔てるバルクヘッドを湾曲形状にして、キャビンの変形を抑えつつ、エンジンなどがキャビンに侵入するのを抑制する構造も採用。こうした構造は今回の新型Cクラス(W205)にも受け継がれている。こうして安全ボディはメルセデスの普遍的な技術思想となっているのだ。 また現在、メルセデス・ベンツに限らず後輪駆動のリヤ・サスペンションはマルチリンクが主流だが、この方式が採用されたのも190からであった。以来、後輪駆動のメルセデスにはこの形式が使われている。 一方、フロントサスペンションの変遷はやや複雑で、190ではコンベンショナルなストラット、初代Cクラス(W202)はダブルウィッシュボーンとなり、二代目Cクラス(W203)では再びストラットに戻された。そして新型Cクラスではついにマルチリンクが採用され、オプションのエア・サスペンションと相まってSクラス並みの乗り心地を実現したのである。もちろん、エア・サスペンションはこのクラスでは初めての試みだ。 軽量化と空力性能とエア・サスペンション前段が長くなってしまった。さて、新型CクラスはSクラス譲りの快適性をどのように実現したのだろうか。 ボディの開発コンセプトはSLやSクラスと同じ「3D Body Engineering」だ。このコンセプトでは「軽量化・安全性・空力特性」という三つの要素を追求する。SLでは重量比で約90%にアルミが使われているが、新型Cクラスのアルミ比率は50%。従来ボディに比べて約70kg、車両全体では100kgの軽量化を実現している。 現在、メルセデスの中でもっとも空気抵抗係数が少ないモデルはCLAのCd=0.22であるが、新型CクラスはSクラスと同じCd=0.24を実現している(C220ブルーテック)。正統なセダンフォルムを持ちながらも、トップレベルの空力特性は素晴らしい。アンダーフロアやホイールハウスなどの空気の流れを工夫し、ボディのテールエンドで同じ速度で空気の流れが合流する、という最新の空力デザインが採用された。 そして注目のサスペンション形式だ。フロントがストラットから4リンクサスペンション(ダブルウィッシュボーン型マルチリンク)に変更されているから、乗り心地の向上に大きく貢献しているはずだが、試乗したモデルすべてがエア・サスペンションで、残念ながらメカニカル・サスペンションを試すことができず、その快適な乗り心地がエア・サスペンション効果なのか、あるいは新開発のマルチリンクなのか判断しにくい。素のサスペンションの素性が気になるところだ。 マルチリンクに変更した一つ目の理由は、グリップが高い高性能タイヤを履けるように横剛性を高めたかったからだ。ストラットでは横方向の剛性に限界があった。二つ目の理由はダンパーが斜めに取り付けられるストラットはどうしてもフリクションを減らすことが難しく、エア・サスペンションのしなやかさを活かすには低フリクションのサスペンション形式が必要であったのだ。こうして先進的なボディと空力とシャシー性能で新型Cクラスは走りに新機軸を打ち立てたのである。 ベストバイは2.2リッターディーゼルガソリンエンジンの主力は2リッターと1.6リッターターボのC250/C200とC180だ。試乗したのはC250。Eクラスで採用されるリーンバーンターボだが、350Nmのトルクを絞り出し十分な加速力をもっている。7速トルコンATとのマッチングもいい。3リッターV6ターボはC400としてアメリカ中心に市販されるが、日本には導入されないだろう。 だが、私が感じた本命は2.2リッターのディーゼルだった。日本には一年くらい遅れて導入されそうだが、500Nm級のトルクを4気筒エンジンで味わえるし、ガソリン車よりも車格が高く感じたのだ。嬉しいことに右ハンドルの4マチックもラインアップに用意されるので「右ハンドル+ディーゼル+4マチック」という黄金のトリオが提供される。 エア・サスペンションに設定されるダンパーはコンフォートとスポーツに切り替えることができる。オプションのAMGパッケージでは19インチのランフラットタイヤを履くが、このタイヤとエア・サスペンションの組み合わせは少しミス・マッチだと思った。バネ上のボディがコンフォートモードでは抑えられない。だからといってスポーツモードにすると、少し荒れた路面ではタイヤの硬さが目立ってしまう。 一方、ノーマル18インチのノン・ランフラットタイヤならエア・サスペンションとのマッチングは抜群だ。しなやかさと強靭さが見事にバランスしている。ハンドリングは俊敏でSやEクラスでは味わえないスポーティな走りを見せる。 また、自動ブレーキを含めたドライバーアシストはほとんどがSクラスと同じだが、自動でステアリングを操舵する技術はそこに少し違和感があった。日本への導入時には修正されることを期待したい。 新型CクラスはBMWのような“楽しさ”というより、“安心感と快適性”という部分で突き抜けている。この領域ではもはやライバルは存在しないのではないだろうか。この秋に登場すると言われるC63AMGが気になってきた。 |
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