英国発のスポーツカーメーカーマクラーレン・オートモーティブが放つスーパースポーツの第三弾「マクラーレン 650S」の国際試乗会がスペイン・マラガのプライベートサーキットで開催された。以前、アウディR8 V10で走ったことがあるが、非常に難しいサーキットで、MP4-12Cのチューンアップモデルとして開発された650Sの、0-100km/h加速=3秒という途方もないパフォーマンスを試すにはうってつけの場所である。 マクラーレンはこの春、北京モーターショーに初めてブースを出した。中国でもフェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニなどのスーパースポーツ専門メーカーの仲間入りを果たしたわけだ。「P1」「MP4-12C」「650S」を同時に見ることができるマクラーレンのブースはフェラーリほど派手な装飾はないが、多くの注目を集めていた。 マクラーレンはF1のコンストラクターとしては有名だが、いわゆるレーシングチームであり、フェラーリのように市販車(ロードゴーイングカー)を開発できる体制ではなかった。しかし、創業者のブルース・マクラーレンはF1を一つの通過点と捉え、最終的には自らの名前を冠した市販のスポーツカーを作りたいと願っていたという。エンツォ・フェラーリもフェルディナンド・ポルシェも同じだったから、その想いは自然の成り行きだ。実は私も自らの名前を冠したスポーツカーを作りたいと思っている。 ブルースの果たせなかった夢は、1993年に天才デザイナーのゴードン・マーレーによってロードゴーイングカーの「マクラーレン F1」として実現した。マクラーレン F1はマクラーレン・グループが開発した最初の量産スポーツカーとなったのだ(当時の市販車部門はマクラーレン・カーズで、のちにマクラーレン・オートモーティブと改称)。BMW製V12気筒エンジンをミッドシップに搭載し、シャシーには世界で初めてカーボンボディを採用、価格は1億円に達した。 メルセデスとの協業からMP4-12Cの誕生まで第2作目はF1のパートナーであったメルセデスAMGと共同開発した「メルセデス・ベンツ SLR マクラーレン」だ。マクラーレンはメルセデスの後ろに自社の名前が付くことに違和感を覚えたと言われ、案の定、2004年に始まったプロジェクトはわずか5年で終了してしまう。ゴードン・マーレーが作ったF1は大成功したが、メルセデスと組んだSLR マクラーレンは失敗に終わったといえるだろう。 そのころから、マクラーレンは独自でスポーツカーを開発・販売できるスポーツカー専門メーカーの設立を目指すようになる。市販車部門の名称もマクラーレン・オートモーティブとなり、工場も新設。そして、3作目の市販モデルとなったのが「MP4-12C」だ。 フォーミュラカーの頂点・F1と同じ技術で開発されたカーボン製バスタブタイプのボディと、アルミ製フレームを組み合わせたシャシーはみごとな仕上がりだった。初代スーパースポーツの「F1」から、二代目の「メルセデス・ベンツ SLR マクラーレン」、三代目の「MP4-12C」、四代目の「P1」まで、F1との共通点はミッドシップであることと、カーボンシャシーを採用していること。カーボンボディ技術ではどの自動車メーカーよりも経験を持っているというのがマクラーレンの強みなのだ。 唯一、エンジンを独自で開発できないマクラーレンは、英国のエンジン専門メーカーとして知られるリカルド社をパートナーに選び、設計・生産を委託している。 MP4-12Cは素晴らしいスポーツカーであるが、宿敵フェラーリ458と較べてパフォーマンスや走りのスパイスが物足りないという声もあったようだ。かくして、MP4-12Cを発表する前後からチューンアップ版の650Sの企画が始まったのだ。 650Sが受けたモディファイとは?650SのエンジンはMP4-12Cと同じ3.8L シングルプレーン(クランクのピンとジャーナルが平面上にレイアウトされる)のV8ツインターボだ。ブースト圧を高め、「シリンダーカット」技術を投入するなど、独自技術が投入されている。シリンダーカットはスポーツ・モードのシフトアップ時に機能する。2つのシリンダーの点火を瞬間的に止め、再点火するときに燃料をひと噴きすると、独特のエグゾースト音を発するというオタクっぽい技術だ。またトラック・モードでは「イナーシャ・プッシュ」が機能する。これはスロットルを戻さないでシフトアップするレーサーの秘伝テクニックと同じだ。 その結果、エンジンはMP4-12Cの600ps/600Nmを上回る650ps/678Nmにパワーアップ。また、エンジンパーツには高ブースト圧に耐える独自のピストンも採用された。ちなみに、MP4-12Cオーナーはコンピューターのプログラムの無償アップデートが適用される。 エクステリアも空力的に洗練されたフロントスポイラーを使うことでMP4-12Cと差別化されている。タイヤは650S専用のピレリPゼロ・コルサ。P1やF1ゆずりの技術であるエアブレーキを下げて空気抵抗を軽減するDRSの採用や、軽量化も実現した(MP4-12C比マイナス6kg)。 マクラーレンが得意とするシャシー性能も妥協はない。独自技術のプロアクティブ・シャシー・コントロール(PCC)サスペンション・システムは、4つのダンパーの縮み側と伸び側を、左右・前後と互いにオイルラインでリンクさせることでフラットライドを実現するが、650Sではダンパーが強化されている。このように、乗り心地とダイナミクスを高い次元で両立することこそ、マクラーレンのエンジニア達の重要な仕事なのだ。 オーガニックなスーパースポーツ650Sのテストドライブは、スペイン・マラガのアスカリ・サーキットを中心に行われた。カーボン製の軽いガルウイングドアを跳ね上げてコックピットに乗り込む。エンジンは静かに始動するが、アイドル回転ではエンジンの振動がキャビンに侵入してこない。 マクラーレンのV8は排気干渉が少ないシングルプレーンを採用する。各バンクが180度ずつの等間隔で点火するので吹け上がりは良いが、エンジン全体としては振動が大きい。マクラーレンの非凡なところは、エンジンのマウントを工夫して、シングルプレーンでも静かでセレブなV8を実現していることだ。 回すと低めの音が楽しめるし、その加速力は半端じゃない。フルスロットルにするとまるでフォーミュラのF1に乗っているような感じで加速する。7速DCTを駆使すると0-100km/hはたった3秒。スポーツモードでシリンダーカットを試すと、シフトアップするたびに独特のサウンドを轟かせる。 プロアクティブ・シャシー・コントロールを採用したサスペンションはさらに極上。リアルスポーツカーであってもサスペンションはちゃんとストロークするし、町中から高速道路までとても快適だ。もちろん、ハンドリングは正確無比で狙ったラインをトレースできる。神経質なスーパースポーツではなく、人間の感覚にピッタリと寄り添う操縦性には驚く他はない。なにかオーガニックな感じがした。 助手席のインストラクターがトラックモードを許可してくれたので、高速ドリフトを試す。3速、150km/h前後でテールが流れても慌てないですむ。これなら富士スピードウェイの100Rや、鈴鹿の130Rを安心して攻めることができるだろう。 F1の技術をたっぷりと使ったMP4-12Cとチューンアップモデルの650Sは、マクラーレンの主軸となることは間違いない。650Sは電動リトラクタブルのスパイダーも用意されているので、オープンエアを楽しむことができる。私ならスパイダーをゲットするだろう。 |
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