欧州でシェアを伸ばす新世代のオールシーズンタイヤ2018年、横浜ゴムは新中期経営計画“グランドデザイン2020”の中で、「日欧露および北欧のウインタータイヤで性能No.1を目指す」と宣言した。その一環として開発されたのが欧州向けオールシーズンタイヤの最新作、「ブルーアース4S・AW21」だ。今まで横浜ゴムは欧州向けにウインタータイヤの「ブルーアースウインターV905」を投入していたが、欧州でのオールシーズンタイヤ参入は今回が初となる。 最近、欧州ではウインタータイヤの需要は安定しているが、サマータイヤの販売本数が減少し、オールシーズンタイヤが増えている。とくにドイツで、その傾向が顕著だという。オールシーズンタイヤのシェアは10%以上に達しており、ニーズに応えるべく横浜ゴムは最新技術を結集したオールシーズンタイヤを欧州向けにリリースしたのだ。 一方、日本では氷上性能重視型のスタッドレスが主流で、オールシーズンタイヤのラインアップは増えているが、まだまだ少数派。北海道や東北ではツルツルの凍結路が発生するため、氷上性能を重視したスタッドレスが必須となる。オールシーズンタイヤは性能が中途半端だった昔の悪いイメージが根強いこともあってなかなか普及しない。 現状では雪がほとんど降らない太平洋側の都市部でも、冬期はスタッドレスに履き替えるユーザーが多い。しかし、暖冬や気候変動のためか、雪のない路面を走ることが増えている。そこで、性能を向上した新世代のオールシーズンタイヤに期待する声が強まっているのだ。 横浜ゴムは多種多様なウインタータイヤを開発しており、例年、北海道・旭川で開始されている「メディア向け冬季勉強会」において、今年はトラック&バス用スタッドレスや、全日本ラリー選手権に参戦中の奴田原文雄選手のデモンストレーション走行(今回のタイヤはアイスガード6を使用)などが公開された。 スタッドレス関連では氷上グリップ向上のカギを握る吸水効果の可視化を初公開。兵庫県にある世界最高性能の大型放射光施設「Spring8」を使った実験や、ゴムの動摩擦時の実接地部分を可視化する金沢大学との共同研究成果を発表し、今後の技術発展と製品への展開を期待させた。 スタッドレス未満だが圧雪路ではまずまずのグリップを発揮中でも最も注目を集めたのは、スタッドレスと最新オールシーズンタイヤの比較試乗だ。 2018年秋に欧州でリリースした最新モデルの「ブルーアース4S・AW21(以下ブルーアース4S)」は、コンパウンドとパターン技術で夏冬トータルの性能を向上。世界最大の国際規格設定機関、ASTM(旧米国試験材料協会)のスノー性能認定を受け、三つの山に雪の結晶をあしらった“スノーフレークマーク”が刻印してある。欧州ではさらに厳格な“R117”の規定があって、これらをクリアしたタイヤだけが7度以下の冬季に走行可能。法律で厳しく規制され、非認定タイヤは保険が適用されない。 ブルーアース4Sは日本の冬道でどのような実力を発揮するのか。最新スタッドレスの「アイスガード6」と比較した。 ブルーアース4Sのパターンデザインは欧州オールシーズンタイヤのトレンドである回転方向指定タイプのV字溝を採用。センター部は溝やサイプを多く刻み雪路グリップを追求する。一方、ショルダー部は横方向に大きなブロックを配置してドライやウエットのハンドリング性能向上を狙ったことがわかる。コンパウンドに吸水剤は配合していない。 パターンを見る限り、ショルダー部もしっかりサイプが刻んであって、雪路のグリップは良さそうだ。さっそくブルーアース4Sを装着したマツダCX-5で走り始める。 ブルーアース4Sの圧雪路トラクションは十分に高く、簡単に発進加速できた。スタッドレスほどではないがブレーキも十分に良く効く。横方向グリップは少し低く、コーナリングでは滑りぎみ。サイプの効果か、粘りはあるので不安を感じることはなかったが、凍った根雪が露出した路面では若干滑りやすかった。 アイスガード6に乗り換えると、圧雪路のグリップはとても高く、発進加速、ブレーキング、コーナリングなど全体的に安心感は絶大だ。凍結が露出するコーナーを攻めても、吸水剤やサイプのエッジがしっかり効いて、狙ったラインをトレースできる。 アイス性能の説明が必要だが国内向けのリリースにも期待次に屋内氷上試験路で比較した。氷上グリップはオールシーズンタイヤの弱点といえる。ブレーキングではABSが効いて制動距離が延びがち。パイロンスラロームでも速度を落とす必要があった。 ブルーアース4Sの氷上ブレーキ性能はアイスガード6対比で20%程度劣り、2~3世代前のスタッドレスというイメージだ。トップレベルの氷上グリップを持つアイスガード6と比較したのだから、その点は考慮する必要がある。しかし、そこを理解しておけば国内でも十分に使用可能ではないか。ブルーアース4Sは、オールシーズンタイヤの中では氷上、雪上ともグリップが高いイメージ。ちなみにウエットグリップはスタッドレスに比べてオールシーズンタイヤは段違いに良く、30%程度良化するという。 ドライやウエットも試してみないとパーフェクトとはいえないが、関東以西の太平洋側の都市部などでニーズは高いのではないかと予想できる。ちなみにブルーアース4Sの国内リリースは現時点では未定。売る気マンマンなのかと思ったが、市場やライバルの動向を見てからということらしい。 製品数を増やすのはメーカーとしては大変だと思うが、降雪時にサマータイヤで無理に走るユーザーがオールシーズンタイヤにすれば安全性はグッと高まる。凍結路グリップがスタッドレスより劣る点を十分に説明するなど販売方法を検討してリリースしてほしい。国内向けは吸水剤を少量配合するなどして、氷上グリップを向上する手法もあるだろう。性能面から見ても機は熟している。 |
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