売れ筋ど真ん中のグレードに乗ってみた「新時代の国民車」を探す実地調査企画の第16回目。今回の調査対象は、2016年9月のデビューから約2年半がたった今もなお、まあまあの勢いで売れているホンダ フリードだ。 フリードのキャッチコピーは「ちょうどいいを、もっと、みんなへ」。5ナンバーサイズの小ぶりなボディの中にゆとりある車内空間を実現させ、スタイリングもクセやアクが少ないものとしたフリードは、日本国民にあまねく普段使いしてもらいたいとの願いを込めて(?)開発された、まさに国民車的発想のコンパクトミニバンである。 ただしミニバンといっても3列シート/6人乗り(または7人乗り)となる通常モデルのほかに、2列シート/5人乗りもラインアップされている。先代(初代)の2列バージョンは「フリードスパイク」という車名だったが、現行(2代目)のそれは「フリード+」という名称に変わっている。 パワートレインは2種類。ガソリン車は1.5L直噴ガソリンエンジン+CVTで、ハイブリッド車は1.5Lガソリンエンジン+高出力モーターを内蔵した7速DCT。2WD車のカタログ燃費はガソリンが19.0km/Lで、6人乗りハイブリッドが27.2km/Lである。 車両本体価格はガソリンのフリードが188万円~233万2200円で、ハイブリッドが225万6000円~272万8200円。2列シートのフリード+ではガソリンが190万円~235万2200円で、ハイブリッドが227万6000円~274万8200円だ。 今回の試乗車両は本体価格210万円也のフリード G ホンダ センシング(FF/6人乗り)。つまり「3列シート+1.5Lガソリンエンジン+先進安全装備+まずまずの快適装備」という、フリードのど真ん中にあたる売れ筋グレードだ。 外観と内装はなかなか素晴らしいと思うが…で、まずはいきなりの結論である。 ホンダ フリードという車は(少なくともそのG ホンダ センシングは)、Art de Vivreすなわち「暮らしのなかの芸術」という部分において少々弱いため、筆者個人は大衆実用車としてあまりオススメしない。 だが世の中は筆者のような者ばかりで構成されているわけではない。「暮らしのなかの芸術なんてどうでもいいよ。そんなことより、暴れまわる2歳児の世話でこちとら精いっぱいなんだよ」という人もいらっしゃろう。そういった人におかれては、ホンダ フリードは決して悪くない選択かとも思う。 以下、ご説明しよう。 まず外観および内装。これはなかなか素晴らしいものがある。 近年はオラオラ系デザインのミニバンが幅を利かせているが、フリードのシンプルでおとなしめではあるものの、決して弱々しさは感じさせない外観デザインは秀逸。お金を出して手にい入れるだけの価値はあると思われる。 インテリアについても同様だ。基本的なテイストは軽自動車の超売れ筋であるホンダN-BOX同様のニトリ系(決して高級感があるわけではないが、今どきのシンプルモダン系デザインではあるということ)。そして価格と車格の違いから、同じニトリ系でもN-BOXと比べれば高級感らしきものも強い。 これら内外装をもってすれば、そのデザインや手触りからArt de Vivreすなわち「暮らしのなかの芸術」を日々、程よく感じられるだろう。 小さなサイズのわりに健闘している居住性小さな車ではあるが、居住性も悪くない。 前方のガラスエリアが広いため運転席からの視界は良好で、最小回転5.2mとまずまず小回りも利くため、混雑した市街地での縦列駐車やUターンなども楽勝。 そして2列目の独立式キャプテンシートは、車全体のサイズが大きくないため寸法こそやや小ぶりだが、日本の成人男子としては標準的な体型(175cm/66kg)の筆者が座っても窮屈な感じはない。それどころか、最大36cmほどガッと後ろまで下げればかなりの余裕をぶっこくこともできる。 その状態(2列目をいちばん後ろまで下げた状態)での3列目は、さすがにポルシェ911の後席並みに狭くなってしまう。つまり極端なガニ股にならない限り、成人サイズの人間は誰も座れないということだ。 しかし1列目を適切なドラポジにしたうえで2列目の位置を「足元が狭くもなく、かといって広くもなく」ぐらいにセットしてやれば、フリードの3列目は意外と広い。や、「広い」というのは大げさかもしれないが、「まあまあ普通に座れる」というのは決してオーバートークではない。 ここまで見てきたとおり、フリードの内外装デザインは悪くない。悪くないどころか、個人的には「なかなか良いではないか!」とすら思う。そして居住性も、小さなボディサイズのわりには健闘している。 ではフリードの何がいけないのか? いけないというか、「暮らしのなかの芸術という部分において少々弱い」と感じてしまうのだろうか? 普通に走るが高速域が残念な印象それは、走りがややショボいのだ。特に高速域で若干ショボい。 30km/hから60km/hぐらいの速度で市街地や幹線道路を走っている限りは、特にショボさは感じない。や、もちろん車両価格200万円級の大衆実用ミニバンであるため、細かいことを言い出せばキリはない。しかし「大衆実用ミニバンなのだから」と割り切ったうえで運転するならば、不満はほとんどないのだ。 アクセルペダルをちょっと踏むとすぐにグワッと加速してしまい、ブレーキペダルをちょっと踏むと「カック~ン」と減速するという、安手の国産車におおむね共通する傾向は認められる。しかしそこは10分も運転していれば慣れる部分であり、実際にコレを買う所有者であればさらに慣れ親しみ、すぐに気にならなくなるだろう。 問題は、遠出などをするため高速道路に乗り入れた際である。 60km/hぐらいでも若干のガサツさを感じるエンジンだが、90km/hほどになるとその安っぽさは増幅し、同時に「ゴオオオオオーッ!」というロードノイズも大きめのものが侵入してくる。 そして95km/hか100km/hあたりで「まぁこんなモンかなあ……」などと思いながら巡航するうち、前方を走るトロい車両を追い越す必要が仮に生まれたとする。で、そのためアクセルペダルを踏み増すと、エンジンのがさつさとロードノイズ、そして無粋な風切り音はさらに増していく。そして気分は盛り下がる。 つまりこの車、普通に走るは走るのだが、運転中の瞬間瞬間に「アート」がないのだ。 良く出来た実用車には瞬間瞬間に必ずアートがあるのだが良く出来た実用車には、仮にそれが大衆的な価格帯の製品であったとしても、瞬間瞬間に必ずアートがある。そしてちょっとした加速や減速、あるいはちょっとした操舵の際にその車が発生させる動きや音、感触などから、人間の身体や心はビビビと「サムシング」を受信するのだ。 車についての詳しいことなどまったくわかっていない人であっても、サムシングは必ず受信できる。それはファッションに知識も興味もない筆者であっても、普段のユニクロではない「ちょっといい洋服」に袖を通してみれば、「おっ、なんだか知らないけどイイね! 違うね!」と感じるのと同じことだ。 そのようなサムシング、具体的には「車自体の動きやエンジンなどの感触から生まれる、特に生産性はない官能性」に、特に高速域ではやや欠けると言わざるをえないホンダ フリードは、個人的には「おすすめの大衆実用車」ではない。 なぜならば、もうちょっとよく探せば、同じぐらいの価格帯であっても瞬間瞬間のArt de Vivreが感じられる実用車を見つけることはできるからだ。そしてそういった実用車に乗るほうが、人生というのはよりステキになるはずだからだ。 とはいえ――筆者の価値観を人様に押し付けるつもりはない。 「そんなことはどうでもいいんだよ! とにかく子供たちがおとなしく座っててくれて、荷物とかの出し入れも便利な、それでいて安価で小ぶりなミニバンがウチには必要なんだよ!」というご家庭も、世の中にたくさんいらっしゃるはず。 そういったご家庭を運営されている方々に対しては、「うむ。ゆっくりめに走る限りは、フリードのG ホンダ センシングは悪くないミニバンだと思いますよ。お買いになるのもよろしいでしょう」との意見を具申したい。 ただ、「日々の生活のなかに発見するアート」もある程度は重視しながら生きたいと考える人が、無理に買う車ではない――ということだ。 全日本国民車評議会(通称:国民車会議)議長としての勝手な評価まとめは以下のとおりである。 【ホンダ フリード G ホンダ センシング(2WD/6人乗り)=210万円】 【 ホンダ フリードのその他の情報 】 国民車とは今、「新時代の国民車」が待たれている。いや、それを待っているのはわたしだけという可能性もあるわけだが、筆者が考える新時代の国民車とは以下のようなクルマだ。 「安価だが高機能かつ低燃費で、それでいておしゃれ感もある、程よいサイズの実用車」 100万円台でまるっと買えるのが望ましく、それが難しい場合でもせいぜい200万円台前半ぐらいまで。自動車オタクが求めがちなマニアックな諸性能はどうでもよく、どんな状況でも普通か普通以上ぐらいに気持ちよく運転でき、燃費が良くて維持費も安く、人と荷物をある程度積載できて、邪魔くさくないサイズで、それでいて大のオトナが乗るにふさわしい質感とデザインも備えているクルマ。 ……そんなある意味ぜいたくな一台を探し出すため、筆者はこのたび「一般社団法人 全日本国民車評議会」を(脳内で)設立し、実地調査に乗り出すことにした。 【国民車調査バックナンバー】 ■第2回 スズキ ジムニー、ジムニーシエラ ■第3回 日産 オールラインナップ ■第4回 スズキ スイフトスポーツ ■第5回 トヨタ カローラ スポーツ ■第6回 ホンダ シャトル ■第7回 ホンダ N-BOX ■第8回 スズキ ソリオ ■第9回 トヨタ シエンタ ■第10回 スバル XV ■第11回 ダイハツ ブーン ■第12回 スズキ クロスビー ■第13回 スバル インプレッサスポーツ ■第14回 マツダ デミオ ■2018年「国民車会議」振り返り ■第15回 トヨタ プリウス |
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