まさかハイラックスが国内導入されるとは現行モデルで8代目となる「トヨタ ハイラックス」は、1968年にデビューしたピックアップトラックだ。昨年に誕生50周年のアニバーサリーイヤーを迎え、これまでに累計1870万台を売り上げてきた。現在は世界6ヵ国で生産され、180の国と地域で販売。特に南米、アジア、中近東での売れ行きが好調だという。日本国内での販売は6代目を最後に一旦途絶えていたが、17年9月に復活。タイの工場で生産された車両を輸入している。 17年にハイラックスが国内導入されると聞いて、まさかと驚いた人も多かったことだろう。かくいう筆者もその一人。個人的な話で恐縮だが、筆者は年に一度、海外市場向けのモデルを含め、世界中の自動車メーカーが販売しているすべての現行車種を紹介する年鑑の編集に携わっている。そのためトヨタがワールドワイドに展開しているハイラックスの現状もチェックしていたのだが、まさかピックアップトラックの需要が少ない日本で復活するとは…、という思いが強かった。トヨタはランドクルーザー70を再販した実績があるとはいえ、それは売れるだけ売り切ってフェードアウト。だがハイラックスに関しては「国内専売モデルを廃止してグローバルモデルを売る」という方針に則ってか、恒久的に販売していくつもりのようだ。 その証拠として、トヨタは「ハイラックス Z “Black Rally Edition”」という特別仕様車を18年12月に発売。50周年の記念モデルとして、文字通りブラックの意匠にこだわった特別な仕立てが施されている。今回その実力をオフロードと公道で試せるメディア試乗会が開催された。 特別仕様車のタイヤはダンロップの特注品まずは特別仕様車の「ハイラックス Z “Black Rally Edition”」のアウトラインについてまとめておこう。上級グレードの「Z」をベースに、ブラック塗装の18インチアルミホイール、フロントグリル、フロントバンパー、オーバーフェンダーなどを装備。ドアミラー、ドアハンドル、テールゲートハンドルなどもブラックで統一され、内装の各部加飾にもブラックが採用されている。特徴的なホワイトレタータイヤは、トヨタの求めに応じてダンロップが開発したもので、単にサイドウォールの表面を白く塗っているわけではなく、ロゴの部分に白いコンパウンドを使って成形した特注品だ。 オーバーフェンダーを装着した姿はいかにも勇ましく、ピックアップトラックらしいタフなイメージが強調されている。ボディカラーは5色用意されているが、個人的には訴求色に採用されているクリムゾンスパークレッドメタリックとの組み合わせが一番かっこいいと思った。 試乗会が開催された愛知県の「さなげアドベンチャーフィールド」には、本格的なオフロードコースが用意されていた。まるで壁のようにそそり立つ20°の登坂路、路面の凹凸により自然と対角線スタックに陥ってしまうモーグル路、運転席から先が見通せずブレーキから足を離すのがおっかない20°のダウンヒルなどを、インストラクターの指導を受けながら試乗。普段の生活ではなかなか体験できないハイラックスの真の実力を実感することができた。 オフロード未経験者でもストレスフリーな悪路走破性能の高さIMV(イノベーティブ インターナショナル マルチパーパス ビークル:新興国向けの様々な仕様にすることができる世界戦略車)用プラットフォームで共有される強靭なラダーフレームに、トルク特性に優れた2.4Lディーゼルターボエンジンを搭載。その基本設計が卓越した悪路走破性を支えているのは間違いないが、普段林道に足を踏み入れることなどないヘタレの筆者をして「オフロードもストレスフリー」と感じさせた最大の理由は、ATC(アクティブトラクションコントロール:「Z」に標準装備)やDAC(ダウンヒルアシストコントロール)といった高性能な電子制御システムの存在にほかならない。 ATCは、スリップを検知すると空転しているタイヤに自動的にブレーキをかけ、接地している残りの車輪に駆動力を配分する仕組み。普通であれば、スタックして頭真っ白…という状況でも、ゆっくりアクセルペダルを操作するだけで、ハイラックスはソロリソロリと前進。ハ・ハ・ハ・ハァ~とチョコプラ長田の和泉元彌ばりに笑いが勝手にこみ上げてくる。そして、そのATCをもってしても脱出困難な状況に陥っても、リヤデフロック(「Z」に標準装備)を備えるハイラックスは後輪を直結状態にすることが可能。後輪のどちらかが脱輪やスリップしても、強力なトルクを接地している側の後輪に伝え、スタックした状態から脱出することができるのだ。 DACは、他の多くのメーカーではヒルディセントコントロールと呼称されているシステム。フットブレーキやエンジンブレーキでは速度を調節するのが難しい(怖い)ような降坂時でも、スイッチを押せば車速を低速にキープしてくれる。ドライバーはハンドル操作に集中することができるので、安全に急坂を下ることが可能だ。 一般道でも扱いやすいが5m超えの全長は注意が必要と、そんな感じで驚愕のオフロード試乗を終えた後、今度は一般道の試乗に繰り出した。「これが世界基準です」と言われても、全長5335mm、全幅1855mmのボディは、やはりデカイ。だが、走り出してすぐ、不思議と車体の幅感覚がつかみやすく、乗り心地も見た目から想像されるようなワイルドさがないことに気がついた。乗り心地の良さに関しては、おそらくフロントに採用されている独立懸架のダブルウィッシュボーンサスペンションが功を奏しているのだろう。たっぷりとしたストロークを備えた本格オフローダーらしく、基本的にはゆったりとした乗り心地に違いないのだが、底の方でシャキッと支えるラダーフレームらしい芯の強さもあるので、運転していてまったく不快にならなかった。ちなみに標準仕様の17インチタイヤの場合はもう少しゆったり感が増すので、好みが分かれるポイントと言えるだろう。 試しにすれ違うのが困難な狭い生活道路も走ってみた。実際に路肩に寄せて対向車が通過するのを待つシーンが何度かあったのだが、高い目線から周囲を見渡すことができるため、道路の状況や対向車との間隔もつかみやすい。唯一の難点と言えば、やはり長さ。特に後退で駐車するときにはテールゲートやバンパーを障害物にぶつけてしまわないか気を遣う。 ディーゼルターボと6速ATの組み合わせは実にスムーズ。信号待ちや常用域での走行中は、さすがにディーゼル特有のガラガラ音が聞こえてくるが、それでも想像していた以上に静かというのが偽らざる印象である。 蓋を開ければ購入層の約60%は20代の若いユーザーだったハイラックスの日本再導入を検討するにあたって、トヨタが当初想定していた購入ユーザーは、約1万台あると思われる既存モデルの保有層だったそうだ。地域別に見ると、最も多く保有されているのが北海道。つまり「これなくしては生活がままならない」という、用途と要求が切実に結びついたユーザーの買い替え需要を、トヨタは見込んでいたということだ。 だが、いざ蓋を開けてみると、現時点で購入層の約60%は20代の若いユーザーが占め、地域別の販売シェアも愛知県や東京都の都市圏が北海道を上回る結果になっているそうだ。なかには初めてクルマを購入したという新規ユーザーも多く、購入理由として「他にはない魅力があるから」というコメントも挙がっているのだとか。「日本仕様は、ゆったりとした後席を備えるダブルキャブのみの展開なので、ファーストカーとして家族の理解も得られやすいのでは」とトヨタの開発陣は分析している。 今回貴重なオフロードでの試乗も体験できたことにより、筆者の中でもハイラックスは、もし本当に買ったら生活を豊かにしてくれるであろうクルマランキングの上位に食い込んできた。初めてのクルマとしてハイラックスを購入している今の20代のユーザーも、それと似た感覚でハイラックスを選んでいるのかもしれない。若者のクルマ離れが叫ばれて久しいが、今の若い人は案外モノの価値をきっちりと見定め、いいと思ったモノには出費を惜しまない傾向もあると聞く。それでしか得ることのできない満足感。ハイラックスが備えるそんな価値を、現代の若者はしっかり見抜いているようだ。 スペック【 ハイラックス Z “Black Rally Edition” 】 |
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