TNGAを採用して生まれ変わった新型カローラは日本専用サイズトヨタ カローラがモデルチェンジした。昨年のカローラ スポーツ(ハッチバック)のモデルチェンジから約1年、今回はセダンとワゴンが刷新された。セダンは「カローラアクシオ」という車名から「カローラ」に戻り、ワゴンは「カローラフィールダー」から「カローラツーリング」へと変更された。 先代カローラのセダンとツーリングはカローラと言いつつ、よりコンパクトなヴィッツのプラットフォーム(車台)を用いて作られていた。随分前から日本市場のセダン/ワゴンの人気が落ちていたため、新世代プラットフォームであるTNGAの完成前にモデルチェンジのタイミングを迎えたカローラに対し、トヨタは言葉は悪いがヴィッツ用のプラットフォームをちゃちゃっと広げてお茶を濁すように開発して済ませた。実際に乗っても“それなり”の印象にとどまった。従来カローラが担っていたポジションをプリウスが担うようになったこともあって、トヨタはこのままひっそりカローラ劇場の幕を閉じようとしているのだろうと思っていた。 しかし、そうはならなかった。トヨタの重要車種は「C」で始まる車名であることが多いが、その中でもカローラはクラウン同様最も重要なビッグネームだ。累計販売台数は4750万台。クラウンはほとんど日本人にしか知られていないが、カローラは150以上の国と地域で売られてきた。このまましぼませてしまうのはもったいないと考え直したのかもしれない。定評あるTNGAを用い、もう一度本格的にカローラを開発した。 その結果、昨年登場したカローラ スポーツは出来がよく、乗って感心した。逆にプリウス要らないじゃんとも思わせた。今回のセダンとワゴンはそのスポーツに準ずるかたちで開発された。ただしグローバル向けをそのまま日本でも販売しているスポーツに対し、日本市場を重視するセダンとワゴンは、タイヤをインセット(奥まって装着)し、外板パネルの形状を工夫することで全幅を1745mmにとどめた。先代の1695mmよりも50mm広く3ナンバーとはなったが、1790mmのスポーツよりも45mm狭い。さらに全長はセダンが135mm、ワゴンは155mm、ホイールベースはいずれも60mm短い。 エンジンの存在感を低めて静寂感を向上させたTHS IIに驚いたハイブリッドのツーリングから試乗スターティン! モーターで発進し、途中でエンジンがかかったり止まったりするおなじみのTHSシステムは、エンジンがかかる瞬間のブルルンという残念な振動と音がほとんど気にならない。またエンジンがかかっている間の静粛性もかなり向上した。首都高の合流時など、高い負荷をかける場合にはそれなりにエンジン音が高まるが、遮音材などによって音量のみならず音質が調整されていて、低級な音がしないのがよい。音が車内に土足でずかずかと入ってこず、恐れ入りますといった感じで控え目に入ってくる。昨年スポーツに乗って驚いているはずだが、今回あらためて驚いた。 その分、タイヤが発する騒音がかえって目立つようになった。これはエンジニアも認めていた。タイヤの騒音が上がったわけではないが、パワートレーンの静粛性を上げた結果、目立つようになったという。クルマの開発の終わりのなさを感じる。動力分割機構によって発電したり直接駆動を担ったりする1.8リッターエンジンは黒子に徹し、何も主張してこない。このためハイブリッドなのだが常時モーター駆動のEVに乗っている感覚になる。同じ2モーターハイブリッドでも、よりエンジンが発電に徹し、モーター駆動の割合が高いホンダのi-MMDのほうが、新しく、よいシステムだと思っていたが、THS IIもエンジンの存在感を低めるだけでこうも印象が上がるのか。こうなると甲乙つけがたい。新たに設定された1.8リッターエンジン車にも試乗したが、印象に残っていない。 高いボディ剛性、低重心化によって好ましい操安性を手に入れたそれにしても、体感的なボディ剛性が高く、長らく輸入車に乗った時のみに感じてきた“よいモノ感”をカローラで感じる日がこようとは。そういうボディと組み合わせられているからだろう、サスペンションの動きもしなやかだ。ステアリングポストの剛性も高く、ブルブルと余計な動きがないのもよい。 低重心なのがTNGAのセールスポイントのひとつだが、それをひしひし感じられる。新型は、運転しやすさを追求するうえで「目線の動かされにくさ」「旋回姿勢のきまりやすさ」「ライントレース性の向上」の3点にこだわったという。ヨー、ピッチ、ロールという基本的なクルマの動きは走行する以上なくすことはできないが、乗員がそれらを視覚的に予測できれば不快感は軽減されるという考え方に基づいて、なるべく目線(つまり頭部)が移動する量を減らすほか、予測可能な移動になるよう努めたとか。要するに目線が不自然な速さで動かず、また不自然な方向にも動かないということだ。 これらの好ましい挙動は、この後に乗ったセダンでも、同じタイミングで手が加えられたスポーツでも感じられた。ただし最優先させる速度域をクルマのキャラクターによって少しずつ変えているそうで、想定速度が最も低いセダンが最もソフトな足まわりとなっていて、スポーツが最もハード、ツーリングはその中間といった印象を受けた。好みを言えば、走らせて最も心地よかったのはツーリングだ。ただし三者の差はわずかで、どれを選んでもしまったと思うほどの差ではなく、なるほどねと言いたくなる程度の違いだ。 ここまで動的性能を引き上げることができた理由について小林範彦主幹は「エンジニアの知見が広まったことのほかに、コンピューターの性能が上がり、さまざまなクルマの動きをひと桁異なるレベルで細かく解析できるようになったことが大きい」と話す。乗り心地やハンドリングの気持ちよさは長らく数値化、定量化することが難しく、各メーカーに何人かいる(たいてい口は悪いが腕は確かな)ベテランの評価者が納得するまでつくりこむ必要があったが、そのベテランが言っていることを数値化、定量化できるようになったわけだ。コンピューターのおかげとは味気ないけれど、これでもうベテランがいなくなってもひどくなる心配はなくなったわけだ。 高レベルのADASシステム。ディスプレイオーディオは全車標準にACCの出来にも非常に感心した。先行車両への追従も、中央維持も動きが自然で、運転支援に関してはずっと高いクルマと同じように振る舞う。こうしたADAS(先進運転支援システム)については、微妙なトルクの出し入れをレスポンシブに行うことができるモーター駆動のクルマのほうが根本的に有利だと改めて感じさせられた。 最後にディスプレイオーディオを全車に標準装備としたのは英断だ。幅広い年齢層が乗るカローラシリーズであっても、今やスマートフォンを持たずに乗る人のほうが珍しいはずだ。スマートフォンにはほぼ必ずカーナビアプリが備わっている。だからそれをクルマにつなげて車載ディスプレイに表示させることができれば、高価な車載カーナビは不要となる。カローラはこれを実現した。カーナビは販売店にとって重要な商品なので、最量販車種でカーナビ不要とすることには販売サイドからの反発もあったはずだが、この点は実にユーザー思いだ。もちろん望めばカーナビを車載することもできる。 冒頭に書いた通り、日本市場ではセダン/ワゴンの人気がない。売れるのはSUVばかり。人気がなくなるとよい商品が出てこなくなり、さらに人気がなくなるという悪循環となる。これを打破するにはメーカー側が問答無用に欲しくなる商品を出すしかない。このことに挑んだカローラシリーズを日本市場はどう評価するか、なかなか楽しみだ。 スペック例【 カローラ ツーリング ハイブリッド W×B 】 【 カローラ S 】 |
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