色眼鏡を外してスープラを見てみる「スープラの新型が出る!」そう聞いて、スープラの歴史を知らない私でも、不思議と心が踊った。私がクルマ好きになった頃には、トヨタのスポーツカーと言えばもう86しかなかったし、正直に言うとトヨタに対してスポーツカーのイメージは薄い。それなのにどうしてなのだろう。 「今の若い人は良い時代のクルマを知らなくてかわいそうだ」 これは自動車業界で働くようになって、何度も言われた台詞だ。そして、その良い時代のクルマのひとつとして、スープラの名前を聞くこともあった。私の中で「きっとすごいクルマなんだろうな」と想像だけがどんどん膨らんでいく。そして、今まさに自分がそのスープラにリアルタイムで乗れる時が来たのだ。 私のようなスープラを知らない世代の“期待”や、昔からのクルマ好きにとっての“懐古”は、スープラにとって過剰な追い風になったり、あるいは重荷になったり、クルマ自体がまっすぐに評価されることは少ないような気がする。「スープラ」というだけでたくさんの人が色めき立つ。その求心力はすごいと思うが、一旦その思い込みや偏見をのぞいて、まずはありのままのスープラを見てみたくなった。 エンジンは文句なしに気持ちいい最初はついつい興奮して「おおー!スープラだー!」とクルマのまわりをぐるぐる回っていたが、ふと我に返ってその姿をもう一度眺めてみた。新型スープラが好きな方や購入した方には大変申し訳ないが、冷静に見るとスープラのデザインは要素が多く、ごちゃごちゃしていて個人的には好きではない。たとえば、このクルマがトヨタとスープラのバッジを付けずに「まったく新しいメーカーのスポーツカーです!」と登場してきたら、みんなどう思うのだろう? 目を眩ませていた色眼鏡を外してみると、なんだかモヤモヤが募っていく。 試乗車は3.0L直列6気筒ターボ(340ps/500Nm)を搭載する「RZ」。このエンジンは文句なしに気持ちがいい。アクセルをグイッと開けてあり余るパワーを解放すると、ジェットエンジンが背中に付いたように弾けるような加速をする。アクセルをゆるめると今度は「バラバラバラッ」とアフターファイヤー音がするのには笑ってしまった。FRなのにまるでミッドシップのように、コーナリングでくるくると向きが変わるので、ワインディングを駆け抜けるのも楽しい。 スープラに乗って走り出すと、まず感じたのは“良いクルマ感”だ。欧州のプレミアムカーによくある、剛性の高いボディに包まれていて、クルマがしっとりと動く感覚。スポーツカーとして走りを楽しむこともできるが、普段乗りで街中や高速を走るときにも乗り心地も良く、車内も静かだからグランドツーリングにも向いていると思った。 残ったのはスープラってどんなクルマなのかという疑問スープラはとても良いクルマだった。でも、またモヤモヤが湧いてくる。バランスはとても整っているのだが、スポーツカーとしての個性があまり感じられないのだ(デザインは除くが……)。最後まで「スープラはこういうクルマだ!」という強い主張が聞こえてこなかった。クルマだけをきちんと見ようとBMWとの協業はなるべく頭から抜いて運転したつもりだったのに、手や足からじわじわとBMWのクルマの基礎の良さが伝わってきてしまう。そして、それを上回るような“スープラの味”がしない。初めてスープラに乗ってみて、ワクワクした気持ちと裏腹に「結局スープラってどういうクルマなのだろう」という疑問だけが残ってしまった。 「スープラは復活したことに意義がある」という意見は確かにそうだと思う。自動運転や電気自動車がこれからのクルマのトレンドになって行くなか、トヨタが往年のスポーツカーを復活させたというだけでクルマ好きとしては嬉しいことだ。 ただ、これからトヨタがGRブランドを掲げて、もっと楽しくて良いクルマづくりをしようと本気で考えているのなら、もっと「トヨタが作るスポーツカーはこれだ!」という意思が感じられるモデルが出てきて欲しいと思う。今後のGRモデルは、他社と協業しないオリジナルのクルマも作ると聞いたので、これからGRのラインナップが増えて行くにつれて、この心のモヤモヤも晴れていくことを願いたい。 【 トヨタ スープラのその他の情報 】 ---------- スペック【 トヨタ スープラ RZ 】 |
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