世界最高の出力を誇る量産型4気筒ターボこのところメルセデス・ベンツ各モデルにおけるAMG化はとどまるところを知らぬ勢いだが、それはついにベーシックレンジのAクラスにまで波及した。今年になって、AMGの3文字を冠したAクラス、「A45AMG 4MATIC」なるモデルが出現したのである。 AMG化の最もベーシックなファクターはいうまでもなくパワーユニットの増強で、例えば本来は直4もしくはV6が搭載されているエンジンルームにV8を収めたC63AMGなどが、その典型だといえる。しかし、そういったエンジン積み換えによるパワーユニットの増強は基本、後輪駆動の縦置きエンジンモデルだから可能になるのであって、エンジンを横置きして前輪を駆動するいわゆるFF車では事実上そういう方法は採れない。 そこで、AクラスをAMG化するに当たってメルセデスとAMGが採ったのは、標準モデルに搭載されている4気筒をベースにして、それを大幅にチューンする方法だった。すなわち、「A180」では1.6リッターの112ps、「A250 SPORT」では2リッターで210psのDOHC4気筒直噴ターボエンジンを、A250と同じ2リッターながらさらに高度にチューンしたのが、A45AMGのパワーユニットというわけである。 具体的には、過給圧を最大1.8バールまで高め、A250と同じ1991ccの排気量から360ps/6000rpmのパワーと45.9kgm/2250-5000rpmのトルクを絞り出すに至った。この数値はリッター当たり181psを示し、量産型の4気筒ターボエンジンとしては世界最高の出力を誇るという。それを実現するために、クランクケースを新設計し、鍛造のピストンとクランクシャフトを採用するなど、エンジン本体にも大幅に手が入っている。 しかもこのエンジン、他のAMGモデルと同様に「One man ‐One engine」の哲学にしたがって、一人のマイスターが一基のエンジンを責任を持って組み上げるのだという。 全方位にわたるAMG化さて、エンジンがこれだけのパワーとトルクを発生するとなると、それを前輪だけで有効に路面に伝達するのが難しくなる。そこでAMGは、このA45の駆動系に電子制御油圧多板クラッチによる4WDシステム、AMG 4MATICを採用した。 これは、通常は燃費などの効率を高める観点から前輪駆動で走るものの、フロントアクスルの空転を感知すると無段階で後輪にも駆動力を配分するというシステムで、後輪には様々なファクターに応じて最大50%の範囲でトルクが配分される。しかもこの油圧多板クラッチシステムは、前後重量配分への配慮から、リアアクスルに内蔵されている。 一方、トランスミッションにはデュアルクラッチ式2ペダルMTのAMGスピードシフトDCTが採用された。3つのドライブモード、自動ブリッピング機能、レーススタート機能等を備えたそれは、スポーツドライビングを強く意識したDCTだといえる。 もちろんサスペンションも、AMGの流儀で強化されている。スプリング、ダンパー、スタビライザーがいずれも締め上げられるだけでなく、フロントのステアリングナックルをハードに設定し、新開発の4リンク式リアサスペンションにも独自の手を入れるなど、運動性能の向上を強く意識している。もちろんブレーキも強化されている。 さらに内外装もAMG化され、スポーティでアグレッシブな姿を実現しているのはいうまでもない。ちなみにA45AMG 4MATIC、0-100km/h加速4.6秒というパフォーマンスデータが公表されている。プライスは標準モデルが640万円と、A250 SPORTを220万円上回る。さらに、内外装を一段とレーシーに仕上げたEdition 1なる特別仕様車が、710万円のプライスをもって国内限定600台で発売されたが、たった1カ月で完売したという! 爆音を奏でながら鋭く加速ダークなマットシルバーに塗られたやや不良系のエクステリアを一瞥してドアを開き、コクピットに収まる。黒を基調にし、随所に赤のトリミングをあしらったインテリアは、メルセデス流といおうかAMG流といおうか、スポーツテイストを嫌が上にも盛り上げる演出に満ちている。ダッシュボードの下半分にはカーボン風の仕上げが施され、ここにも赤いトリムを配した空気吹き出し口が配されて、黒と赤のコントラストが反復される。 だが、スポーティに装っているのはダッシュボードだけではない。ここも黒のメッシュ風表皮に赤いトリミングを配したシートがまた、サーキット走行もイケそうなほど頭の周辺とサイドのサポートが張り出した剛性感のあるバケットタイプで、カッチリと身体を支えてくれる。とはいえそこはAMGのロードカー、ドライビングポジションの自由度を損なわないように、電動アジャストのリクラインニングが可能なタイプではある。 そこに身体をはめ込んでエンジンを目覚めさせ、今風の小さなレバーを操作して7G-DCTをDレンジに送って、スロットルを軽く踏み込む。するとA45AMGは、ノーマル系Aクラスと同様の滑らかなスタートぶりを見せて、走り出した。リッター当たり181psというハイチューンにもかかわらず、2250-5000rpmの範囲で最大トルクの45.9kgmを生み出すトルク特性ゆえ、少し回転が上がってしまえば充分なトルクを捻り出す。 その一方、空いた道に出てスロットルを深く踏み込むと、AMGチューンの2リッター4気筒ターボは、AMGパフォーマンスエグゾーストからの爆音を奏でながら鋭くレスポンスし、1550kgの車重をパワフルに引っ張り上げる。その加速はあくまでエンジンの基本スペック相応のもので、"AMG"の3文字から過大な期待を託すと若干の落胆を味わう可能性はあるが、Cセグメントのハッチバックとしては最速の市販車であるのは間違いない。 硬いけど不快じゃない、AMGな乗り味走り出すと同時に感じるもうひとつの事実は、脚が硬いということだ。Aクラスは標準モデルでもサスペンションをソフトにストロークさせて走るタイプではないが、シリーズ屈指のスポーツモデルたるA45AMGは当然その傾向が顕著で、18インチのコンチネンタルを履く脚は路面の凹凸に明確に反応して、はっきりと硬めの感触を伝えてくる。 しかし不思議なことに、それにもかかわらず乗り心地が荒々しいという印象はなく、よほど大きな凹凸や鋭い突起に遭遇しない限り、硬いけれども決して不快ではないライドに終始する。基本的に充分なボディ剛性と、優れたダンパーの成せる技ではないだろうか。 ならばA45AMG、ワインディングでの振る舞いはどうかというと、360psエンジンをフルに駆使しても、固めたシャシーと4MATICの効果で、この手のハッチバックとしては腰の据わった姿勢を保って、ハイペースのコーナリングを危なげなくこなしていく。 2速で抜けるようなタイトベンドの多い峠道では、適度なアンダーステアを示しながらコーナーを抜けていくし、3速以上のコーナーが続くターンパイクのような高速ワインディングでは、ほとんどニュートラルといっていい軽い舵角を保って、素早く駆け抜けていく。さらにブレーキも、制動力、コントロール性とも、文句ないレベルにある。 というわけでA45AMGは、ワインディング好きのコーナリングオタクの要求にも見事に応えてくれるクルマに仕上がっているが、実はその美点を最も鮮烈に味わえたと実感したのは、高速クルージングの舞台だった。Dレンジ7速で大人しくクルージングすれば、メーターの100km/hではエンジンは1500rpmプラスで軽く回っているにすぎないが、前が空いたの見計らってパドルを駆使して3段ほどシフトダウン、そこで一気にスロットルを踏み込むと、A45AMGは胸のすく勢いでみるみるスピードを上げていく。 たとえボディはCセグメントのハッチバックでも、その内側にはアウトバーンの王者たるAMGの血が、脈々と流れているのだった。だから、このスーパーハッチバックに640万円の価値を見い出すかどうかは、買う人が決めればいいことなのだと思う。 |
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