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走り出すとそれは、紛れもなくハチロクだった…伝説の「TRD N2 AE86レビン」が筑波で再び蘇った日 ...

2024-11-12 07:00| post: biteme| view: 452| コメント: 0|著者: 文:山田 弘樹/写真:市 健治

摘要: クルマ好きを熱狂させたN2決戦 ーー“元祖ハチロク”こと「AE86(カローラ・レビン/スプリンタートレノ)」の、究極のレーシング仕様である「N2」(エヌツー)。当時のワークスである「TRD(トヨタ・レーシング・デ ...

走り出すとそれは、紛れもなくハチロクだった…伝説の「TRD N2 AE86レビン」が筑波で再び蘇った日

クルマ好きを熱狂させたN2決戦

ーー“元祖ハチロク”こと「AE86(カローラ・レビン/スプリンタートレノ)」の、究極のレーシング仕様である「N2」(エヌツー)。当時のワークスである「TRD(トヨタ・レーシング・ディベロップメント)」が仕上げた“最後の一台”が、筑波サーキットを走った。

オーバーフェンダーで武装して、極太タイヤを履いてハイチューンエンジンを搭載するハチロク。通称“N2”(エヌツー)はハチロク・チューニングがたどり着く最終形態だが、そのルーツは1985年に開催された「カローラ/スプリンター グランドカップレース」にまで遡る。

当時のツーリングカーレース界はその頂点がグループAカテゴリーへと切り替わる真っ最中だったが、TRDは1981年に日本初のワンメイクレースとしてスタートした「トヨタスターレット グランドカップレース」の流れを踏襲し、1984年ハチロクをベースにJAF N2規定をベースとしたワンメイク車両を販売したのだ。

そしてグランドカップそのものは2年間と短命に終わったが、TRDはその後もN2用パーツを生産して販売を続けた。その多くがプライベーターたちに購入され、コピーパーツも含めて普及した結果、“エヌツー”はチューニングカーとして、第二の人生を送ったというわけである。

>>TRD N2 AE86レビンを写真で詳しくチェックする

さて今回紹介する車両は、その本家であるTRDが、最後に作ったワークスカーである。いや、その復刻版と言えるかもしれない。

本来のワークスカラーはボンネットからルーフにかけてのストライプがホワイトだが、これがブラックになっているのは、かつてTRDが限定生産したドライカーボン製ボンネットの地色を生かしたからだろう。ともあれそれはTRDの試作車のみに許された特別なカラーリングであり、当時を知る者たちにとって特別な存在だった。

ちなみにこのTRD N2レビンが作られたのは、1998年と今からおよそ26年も前のこと。ビデオマガジン「ベストモータリング」の別冊企画で、土屋圭市さんにプライベーターたちが挑むという夢の企画、「N2決戦」を走らせるマシンとして、TRDが再びいちから作り上げた。つまり純粋なグランドカップカーではないが、由緒正しきN2なのである。

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#ハチロク #N2 #TRD #トヨタ #AE86 #スポーツカー #筑波サーキット #スプリンタートレノ #カローラレビン

いつかTRD号を、もう一度走らせよう

そのN2レビンを現在所有するのは、ハチロク専門店「コシミズモータースポーツ」。同社の代表である輿水好則さんは以前から筆者に、「いつかTRD号を、もう一度走らせよう」と言っていた。

その長年の想いが今回叶ったのは、この個体が「富士モータースポーツミュージアム」(※)に展示されることになったからだ。あとになって考えればそれはかなり無謀な話だったが、「博物館に行ってしまう前に、なんとしても走らせよう!」と相なったわけである。

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そんなTRD号のコンセプトは、「N2マシンを現代に(と言っても1999年当時だが……)甦らせる」ことだった。

だからN2決戦では、当時まだ現役のレーシングドライバーであった土屋さんをもってしても、簡単には勝てなかった。チューニングカーはレーシングカーとは違い、自由奔放に作られていたからだ。

そのひとつの例が、車重だ。TRD号はN2決戦第2回当時で823kg(ガソリン残量を引いた数値)と、それでも普通に考えれば十分以上に軽かったが、プライベーターたちのなかで最も軽い車両は、700kg台前半をマークしていた。

TRD号が重たくなった理由は、6点式ロールケージやレース用安全タンクなど、プライベーターたちの模範になるべき安全装備を装着していたからだ。そして同じく、安全性を損なうリスクのある、過度な軽量化をしなかったからだろう。

※展示は10月中旬ごろからの予定。詳しくはhttps://fuji-motorsports-museum.jpを参照。

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レースで苦戦を強いられた訳

また空力デバイスの装着に対しても、TRDはコンサバな姿勢を貫いた。勝利に貪欲なプライベーターたちが躊躇なくカナードやGTウイングを装着したのに対して、土屋さんとホットバージョンとしては同条件での勝負を熱望していたようだが、TRDのエンジニアである故・桜井忠雄さんは、あくまで「N2本来の姿」として戦うことを望んだ。

果たして空力デバイスと呼べるものはフロントバンパーのアンダーカバー式リップスポイラーと、リアスポイラーをエクステンションした巨大なガーニーフラップだけだったから、レースでは苦戦を強いられた。

タイヤはダンロップが今回のために、スリックタイヤを用意してくれた。サイズは250/585-15で、コンパウンドはジムカーナ用。そしてこの15インチタイヤを収めるために、フェンダーは従来のN2仕様からさらに20mm拡大された。

足周りはTRD製ダンパー(フロント5段/リア8段)をベースにしたフルタップ式の車高調。ホイールはレーシングサービス ワタナベの「R Type」で、素材はマグネシウムだ。

現代のクルマとは違ってリアサスがリジッドアクスルだったハチロクは、たとえ5リンクの上側2本を等長化しその動きをスムーズ化しても、コーナーにおけるリアタイヤの接地性が低かった。GTウイングでその浮き上がりを抑え付なければとても、筑波1分の壁を切ることができなかったのだった。

事実TRD号が初勝利を挙げたのは第3戦で、その後は土屋圭市さんの引退記念イベントを行った2004年第5戦の、2戦のみだったのである。

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対するエンジンは当初、フォーミュラ アトランティックに準じた4A-Gをドライサンプ仕様で搭載した。排気量こそ1587ccのままだが、IN320/EX304のTRDカムを手始めに、ピストン、コンロッド、スロットルボディまで全てが変更されたエンジンは、1万2000rpmで230PSを発揮。普段はこれを抑えて、220PS/1万rpmで使ったのだという。

しかし残念ながらこのエンジンはN2決戦の戦いの中でブローを喫し、これを修復するべき桜井さんがお亡くなりになったこともあって、現在はコシミズモータースポーツが製作したKMS製エンジンが搭載されている。

AE92後期ヘッドと4A-Gブロックをベースにしたフルチューン仕様で、ピストンやコンロッド、クランクにまで手が入っているものの、吸気側カムを304度に抑え許容回転数を9000rpmリミットとしたことで、約200馬力を発生するに留まっている。制御はフリーダムで、吸気はAE111用の4連スロットルだ。

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走り出すとそれは、紛れもなくハチロクだった

新規で作られた簡素なインパネには、スタックのタコメーター。センタートンネル横のボックスにあるキルスイッチをオンにしてスターターボタンを押すと、クランキングの音が車内に鳴り響く。そこにアクセルをそっと合わせるだけで、フルチューンの4A-Gは爆音と共に素早く目覚めた。

筆者は当時、「ベストモータリング」や「ホットバージョン」、そして「AE86 club」を夢中になって見た貧乏な“ハチロク小僧”だったから、いざ動かす番になってその恐れ多さに体がこわばった。ヘルメットをかぶる前の顔が真っ青になっているのを周りにからかわれたが、自分でもまったく、その緊張をほどくことができなかった。

だがしかしーーーー。

走り出すとそれは、紛れもなくハチロクだった。それも飛びきり純度の高いハチロクだ。エンジンの特性は予想以上にフラットで、スリックタイヤの助けもあって、200馬力のパワーに恐怖は感じなかった。

それより残念だったのは、電圧の関係か急にタコメーターが動かなくなってしまったこと。輿水さんには「音で判断してくれれば大丈夫!」と笑いながら送り出されたが(一応は信頼を得ているのだろう)、「無茶言うなぁ……」とこちらも苦笑いしたのは実にハチロクらしいエピソードだ。

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とはいえ博物館入り直前のマシンを壊すことなんて到底できやしないから、どこまでも回せそうなエンジンの、音色が澄んだところでシフトアップを行った。ストロークが極端に短いシフトノブを次のギアに入れると、5速フルクロスのミッションが最小限のドロップで次のギアへとつながり、再びエンジンが勢いよく高回転を目指す。

脳天をつんざくような過激さこそないがそれは、紛れもなく研ぎ澄まされた4A-Gのフィールで、車内に共鳴するサウンドが、ヘルメットごしでも最高に気持ち良かった。

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このクルマをねじふせられたら……すげぇな

驚いたのは、ステアリングの強烈な重さだ。

ターンインから切り込んで行くとパワステのないハンドリングに、スリックタイヤのグリップがダイレクトにのしかかってくる。筆者の力では押すだけでは不十分で、迎える手も一緒になって引き込んでハンドルを回した。

これこそが当時まだ現役だった土屋圭市選手をして、「このクルマをねじふせられたら……すげぇな。って思ったよね」(Hot-Version N2 富士ミュージアムのPVでも視聴可能!)と言わしめた、N2のハンドリングだ。

そしてレーシングスピードに乗せていかないと、N2は走らない。おっかなびっくりブレーキングする筆者の走りでは、その領域には乗せられないのだと、ハッキリわかった。

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タイトターンではABSのないブレーキペダルを本気で踏み込んで、高速コーナーでは躊躇なくマシンを放り込み、アクセルを開けていく。そのとき一瞬で転じるオーバーステアに適応できる技術と体力、なにより根性がないと、GTウイングなしのTRD号でタイムなんて出せないのだと思う。

それでも走り込むほどにその距離はどんどん縮まり、「もっと走りたい!」という気持ちが湧き上がる。それが、ハチロクというクルマの面白さだ。とはいえその頃には、腕パンパン。ユーズドのスリックタイヤは美味しいところもとうに無くなっていて、笑顔で走れるようになった頃には、1分5秒381を出すのがやっとだった。「新品で走ってみたかったな!」なんて言えるのも、クラッシュせずに走り終えることができたからだ(笑)。

ちなみにこの日は新品タイヤで谷口信輝選手が走り、9月の真夏日ながらも1分3秒773をマークしている。その美しい走りは『カープライム』で視聴可能(次ページに掲載)だからぜひご覧になって欲しい。

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現代のスポーツカーが失った何かが残っている

さらに言うとグランドカップ時代の筑波レコードは、「なかなか天候に恵まれず、かろうじて1分を切る程度だったはず」とコシミズモータースポーツの鶴見さんが記憶をひねりだして教えてくれた。

そしてこのTRD号が最後に勝利したN2決戦では、1分の壁こそ敗れなかったものの、1分00秒779をマークしている。ついでに言えばこのときのポールシッターはKMS号で、ドライバーは輿水さんだった。

その輿水さんいわく現状TRD号はエンジンを保護するために空燃費も11:1と大きくマージンを取っており、157km/hの最高速を見ても本来の姿からはほど遠いという。そしてTRD号が再び走る姿を久々に見て火が付いてしまったのだろう、「もう一度N2を、きちんと走らせたいね……。博物館から戻ってきたら、今度はきちんと“本物”に乗りましょう」とおっしゃった。

いやいやいやいや。

筆者はハチロク乗りとして「この歴史的なステアリングを握れただけで幸せなんですよ」とは言いながら、今度こそきちんとTRD号を走らせてみたいと妄想する自分もいる。そんな気持ちにさせてくれるのが、何度も言うがハチロクというクルマなのだ。現代のスポーツカーが洗練と引き換えに失ってしまった何かが、ここにはまだ残っている。

(終わり)

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