ボイルオフガスを活用した新たな挑戦がスタート11月16日から17日にかけ富士スピードウェイで行われた「ENEOS スーパー耐久シリーズ 2024 Empowered by BRIDGESTONE 第7戦 S耐ファイナル 富士 (以下、S耐ファイナル富士)」。 文字通り2024年シーズンのS耐を総括する最後の戦いだが、水素エンジンやGRモデルを耐久レースという“走る実験室”で鍛えてきたトヨタの現在地を確かめた。 2021年から水素エンジン(当時は気体水素を使用)車両をS耐へと投入し、カーボンニュートラル社会の実現に向けた1つのオプションとして様々な技術開発を行なってきたトヨタ。2023年には燃料を液体水素へと変更し、課題をクリアしてはまた新たな壁にぶつかることを繰り返してきたが、S耐ファイナル富士では新たに、ボイルオフガスの活用に関するコンセプトを公開した。 ボイルオフガスとは、低温液体状態でタンクに存在する水素が、外部の熱によって気化して発生するガスのこと。 トヨタはこれまでボイルオフガスの発生を抑えるために、主な熱源であるタンク上部のモーターとポンプユニットを、超電導動モーターとして-253度という超低温の水素タンク内に収める開発を行っているが、今回それに加え、(1)燃料として再利用、(2)ボイルオフガスを活用した発電の2つでシステム全体のエネルギー効率の向上を図ろうとしている(※(1)(2)を経て処理しきれなかったガスは触媒を通じて水蒸気へと変換し車外に放出される)。 (1)に関しては、自己増圧機(外部エネルギーに頼らず圧力を高める装置)を用いてガスを2~4倍に増圧させインジェクターへと送り、燃料として使用することを想定し、(2)は、増圧工程で余ったガスを小型のFCスタック(水素燃料電池)へと送り発電するという。 FCスタックは、現在燃料自動車「MIRAI」や「クラウン(セダン)」に搭載するものよりもコンパクトにし、発電した電力は液体水素ポンプ用モーターの動力として言わば“補助的”に活用し、エネルギー効率を高める狙いがある。 ◎あわせて読みたい: JAFの給水素+給電サービスカーが公開今回発表された機構はあくまでも技術コンセプトのため、S耐ファイナル富士のレースを走る車両には搭載されていないが、トヨタによると、今後これらの技術の一緒に作る“仲間”を募り実用化を目指し一緒に開発を行ない、来シーズンの実戦投入を目指すそうだ。 液体水素エンジンを公開した時も「うちのこの技術を活用できないか」という反響が数多く寄せられ開発が進んだ経緯があり、今回も「我こそは!」と熱い志を持つ企業を絶賛募集中とのこと。 「(この1年で水素技術の開発は)前に進んだのは間違いない。(燃焼技術の)頂上が見えるぐらいまでできているかと思っている。ただ商品化する上で水素以外の山(課題)がまだいっぱいあるというのが見えてきた(GRカンパニープレジデント 高橋智也氏)」 また今回のS耐ファイナル富士では、JAFと共同開発した「給水素+給電ロードサービスカー」も公開された。トヨタはCJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)として2023年9月に給水素サービスカーのプロトタイプを公開していたが、今回は急速充電機能も追加したという。 まだ数は多くないとはいえ、MIRAIのような燃料電池車(普通車)や燃料電池トラック(FCEVトラック)などの普及に伴い、ガス欠ならぬ“水素欠”は重大な社会課題となってくる。道路上で水素欠を起こしてしまうと、レッカー車で運ぶしかないのが現状だ。 今回開発したサービスカーは、FCEVトラックの荷台に水素燃料タンクを搭載し、わずか10分ほどの作業で約100km分の水素を“給水素”できるそうで(充填時間のみだと1分半ほどで完了)、最大16台分の給水素ができるという。 今回は静岡県での認可を取得したことで、実際に水素充填のデモが行われた。従来であれば水素ステーションといった特殊な場所でしか行えなかった水素の充填作業が、JAF隊員の手により多くの来場者で賑わう富士スピードウェイのイベント広場で“普通に”行われる点でも画期的な出来事なのだ。 またこのサービスカーは近年増加する“電欠”(2023年は975件で前年比+226件)にも対応し、5kWの急速充電機を備え、10分で約50km分を充電できるという。 従来のサービスカーは10kWの普通充電を搭載し20分で約20km分しか充電できず、次の充電まで4時間ほど時間を空ける必要があったのだが、半分の時間で倍以上充電ができる計算となる。また繰り返し充電も可能で、より実践的な運用が可能になるそうだ。従来のサービスカーが行っていた給油やパンク修理、バッテリー上がりなどにも対応するまさに“次世代のサービスカー”となっている。 今回は完成披露という位置付けで、関係者によると来春から実証実験を行いたいとしているが、地域ごとの認可や各省庁の理解が必要なこともあり、福島や東京など一部の地域で行なっていくとしている。 カーボンニュートラルへ向けた水素社会の実現はゆっくりと、だが確実に近づいている。そして、その実現に向けては、さらなる“仲間”と人々の“理解”が必要なのだ。 ◎あわせて読みたい: 新型GR86の方向性が見えてきたこれまでカーボンニュートラル燃料(CNF)の先行実験などを行ってきた「GR86」だが、合わせて新型の開発をS耐で進めているのは公然の秘密だった。しかし今回、車両登録名が「ORC ROOKIE GR86 Future FR concept」へと変わり、新型GR86の開発を明言した格好だ。 搭載されるエンジンは現行の2.4L水平対向4気筒エンジン(FA24)ではなく、「GRヤリス」などにも搭載される“G16”1.6L 3気筒ターボエンジンで、今回の燃料はCNFではなくハイオクとなる。これは2026年から導入される排ガス規制「ユーロ7」にミートするような燃焼技術に挑戦するために新しいターボを投入したから。既存のデータと比較するためにあえてハイオクを使用しているそうだ。 「やっと次のGR86に向けた方向性が見えてきた年になった。ずっと今まで苦しんできた『クルマが曲がらない、乗りにくい』というのがここにきてやっと光が見えてきた。来年はもっと具体的に次の商品の方向をどうしていくかに踏み込んでいく。 FRのコンセプトはキープしながら、どういうパッケージにしていこうかというところも見えてきた。G16エンジンでやっているが、そこに進むのか、ちょっと違うのになるのかというのも考えていきたい(高橋プレジデント)」 ◎あわせて読みたい: この先もクルマが人々の生活を豊かにするために今シーズンのGR86は、低重心化&前後重量配分の改善、ボディ剛性アップといったチューニングを行ってきたが、今回のS耐ファイナル富士では、スポーツカーらしい軽快なシフトフィールとシフトミス防止を狙ったトランスミッションの改良、リアサスペンションのジオメトリの変更などを行っている。 どんどんと環境規制が厳しくなり、クルマに乗ること自体が“悪”のような雰囲気ができつつあるが、クルマが人々の生活を豊かにし、モータースポーツが人々の夢や原動力になってきたこともまた事実。 「世界中のクルマ好きの方の憩いの場になるようにしたい。GR(のお店)に行くとクルマ好きが安心して自分のままでいられるブランドにしていきたい。あとは、世界中の子どもたに夢や希望を与える存在になりたいと思っている。そこは今年も来年も再来年もずっと継続してやっていきたいなと思っている(高橋プレジデント)」 豊田会長はかつて「敵は炭素」という言葉を使い、カーボンニュートラル社会の実現に向け様々な方法で取り組んでいくことを宣言した。また「クルマ好きを誰一人置いていかない」ともオートサロンの会場で述べた。クルマがこの先も誰かの役に立ち、ワクワクさせる存在であり続けるために、トヨタとGRの挑戦は来シーズンも続いていく。そしてその挑戦は、多くのパートナーとエンジニアの努力によって支えられている。 (終わり) ◎あわせて読みたい: |
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