マイルドHVは正直いまひとつなところがあったSUVにおける「ある種の傑作」が誕生したように思う。何の話かといえば、2024年12月に発売されたスバル「クロストレック」のストロングハイブリッド搭載モデル「クロストレック プレミアム S:HEV EX」のことだ。 ご承知のとおりクロストレックは、2022年末に発売されたCセグメント(大きめなコンパクトカー)に属するSUV。具体的なボディサイズは全長4480mm×全幅1800mm×全高1580mmで、パワーユニットは最高出力145psの2.0L水平対向4気筒エンジンに、同13.6psのモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドだった。 この初期型クロストレックは「すこぶる良好なSUV」だった。 デザインは――好き嫌いはあるかもしれないが――個性的で、低重心な水平対向エンジンを核とするパワートレインが左右対称・一直線にレイアウトされる独自の4輪駆動システム「シンメトリカルAWD」がもたらす走行フィールは、うたい文句どおりの「安心と愉しさ」に満ちていた。そして雪道や悪路における走破性能も、クラストップレベルと言って良かった。 >>クロストレック ストロングHVのフォトギャラリーはここから ただし「パワーユニット単体で見た場合の愉しさ」と「実燃費」は、正直いまひとつだった。 もちろんスバルが「e-BOXER(イーボクサー)」と呼ぶマイルドハイブリッドシステムは、悪い感触だったり力不足だったりすることは決してない。だが、パワーユニット以外の部分の突出した魅力と比べると、そのパワーユニットは凡庸というか、「まぁ普通に悪くはないですよね」ぐらいにまとめるしかないものだったのだ。 そして水平対向エンジンの宿命ゆえに、燃費もいまひとつだった。4WD車のWLTCモード燃費はいちおう15.8km/Lだが、実燃費は(もちろん使い方にもよるが)10km/L程度でしかなかった。今の時代、ちょっとどうかと思う数字だ。 つまりクロストレックとは「全体的にはかなり素晴らしいのだが、パワーユニットの魅力と燃費性能だけはちょっと残念」というSUVだった。その残念な部分が完全にリカバーされ、さらには「おつり」ももらえるぐらいの状態になったのが、今回登場したストロングハイブリッドモデルである。 クロストレック S:HEVのエンジン部分は、ストロングハイブリッド専用に新開発された2.5Lの水平対向4気筒。そのスペックは最高出力160ps/最大トルク209Nmというゆとりのあるものだ。 そこに同119.6ps/同270Nmの駆動用モーターなどを組み合わせ、前後輪をつなぐプロペラシャフトがモーターの力強いトルクをダイレクトに後輪に伝達する――というのが、スバル製ストロングハイブリッドの大まかな仕組みである。 |あわせて読みたい| 「これはスバル車なのか?」という違和感は5秒で消えたそして試乗車に乗り込み、まずは街なかをゆっくりめに走り始めると、しばらくは2.5Lエンジンが始動しないまま、つまりEV状態で走ることになる。その際の力強さは「街なかを普通に走る分には十分」といったニュアンスだ。 登り坂にさしかかかったり、必要な加速のためアクセルペダルを踏み込むとエンジンが始動するが、その境目はトヨタのハイブリッドシステムと同様にほぼシームレスである。よほど耳を澄ますか、メーターパネル内の表示を凝視しない限り、エンジンが稼働し始めたかどうかはよくわからない。 そして今回は遮音性能にもかなり力を入れたようで、車内はきわめて静かである。「静かなスバル車」というのにまだ身体と心が慣れていないが、いずれにせよ快適ではあり、トルクフルな2.5Lエンジンと電気モーターの相乗効果による力強いニュアンスも、同様に快適および快感だと感じる。 そして街なかと幹線道路を抜け、山坂道へと向かうあたりにて、スバル製ストロングハイブリッドの本領を発揮させてみた。つまり、アクセルペダルをやや深めに踏み込んでみた。 ……一瞬、「あまりにも静かなまま加速していくスバル車」というものに違和感を覚えたが、「いや、この静けさこそが現代および近未来のスタンダードなのだ。いつまでも昭和の感覚を引きずってるんじゃない!」と自分に言い聞かせたところ、違和感は5秒ほどで消えた。 >>クロストレック ストロングHVのフォトギャラリーはここから そしてあらためて冷静にストロングハイブリッドユニットの具合を観察してみると……イイ! パワー感的には凡庸だったマイルドハイブリッドと違ってきわめて力強いのだが、「ただ無機質にモーターの強大な力が垂れ流される」というニュアンスではない。ドライバーの意思や操作に対して忠実に、パワーユニットの力が路面へと伝わっていくのである。要するに「いつものスバル」ということだ。 その「いつものスバル」がエレキの力によって増幅されることで、ドライバーはこれまで以上の快楽を覚えることになるのだ。 「いつものスバル」は、ストロングハイブリッド版クロストレックの足回りにおいても同様である。いや、ハイブリッド化に伴い100kgほど重くなった車重でもって「いつもの乗り味」を実現させるため、実際にはサスペンションを専用セッティングにしたり、リアのダンパーロッドを延長したりなど、いろいろやっているようだ。 しかし結論としていつものクロストレックの、そしていつものスバル車の「路面からの入力をしなやかに受け止め、意のままに車を動かせる感じ」に仕上がっている。 |あわせて読みたい| 燃費重視であればわざわざ選ぶクルマではない初期型クロストレックの欠点だった「パワーユニット単体はあまり面白くない」という部分は、ストロングハイブリッド化によって完全に払拭されたと言っていい。ならばもうひとつの欠点である「いまいちな燃費」についてはどうだろうか? ストロングハイブリッド版クロストレックのWLTCモード燃費は18.9km/L。同じセグメントに属するトヨタ「カローラ クロス」のハイブリッド車(2WD)のWLTCモード燃費が26.4km/Lであることから考えると、「相変わらずいまいちだな」と言うこともできる。 >>クロストレック ストロングHVのフォトギャラリーはここから だが筆者は「これでいい! 十分だ!」と思っている。「あくまでも燃費重視」という姿勢でSUVを選ぶのであれば、わざわざクロストレックを選ぶ必要はない。そういうのは他にたくさんあるからだ。 それなのにクロストレックをあえて選ぶということは、クロストレックでしかできない――「スバル車でしか感じられない」と言ってもいいかもしれないが、「意のままに動かせる感触」と「四駆性能」を求めるということである。そこをないがしろにしたうえで燃費性能を上げられても、ユーザーとしては迷惑でしかないのだ。 とはいえあまりにもいまいちな燃費が若干のネックになっていたわけだが、今回のストロングハイブリッド化により、クロストレックの燃費は「普通」ぐらいになった。 エンジニア氏に尋ねたところによれば、おとなしく走れば東京都内であってもカタログ値ぐらいの燃費をマークするのは楽勝で、仮に「おとなしくない走り方」をしたとしても、15km/Lぐらいはマークできるはずとのこと。これだけの快感を伴いながら15km/L走ってくれるのであれば、個人的には御の字であり、何の不満もない。 |あわせて読みたい| 走りの良いSUVを探しているなら“傑作”と感じられるはず本稿の冒頭にて、筆者は「ある種の傑作が誕生した」という旨を申し上げた。あえて「ある種の」としたのは、世の中にはクロストレック的な「走りの良さ」を特には求めないSUVユーザーもいるからだ。 そういったユーザーにとってストロング版クロストレックは「さほど燃費が良いわけでもないハイブリッドSUV」でしかない。それゆえその方々にとっては、今回のクロストレックは決して傑作ではない。 しかし、もしもあなたが「SUVであっても意のままに走る楽しみが味わえて、雪道なども安心して走れて、なおかつ燃費も悪くない一台を探している」というタイプの人であるならば――間違いなく「傑作!」と感じることになるだろう。 >>クロストレック ストロングHVのフォトギャラリーはここから なお今回はスバル「レヴォーグ レイバック」の試乗も同時に行った。同車を前回試乗した際はクローズされた山坂道のみしか走ることができなかったが、今回は普通の幹線道路や高速道路なども走ることができた。そのうえで改めて断言したいのは、「レヴォーグ レイバックの乗り心地の良さはちょっと異常! これではほとんど『群馬のロールスロイス』じゃないか!」ということだ。 乗り心地の良いクロスオーバーSUVを探している人はぜひ一度レイバックに試乗してみることをおすすめしたいが、長くなってしまったので、レヴォーグ レイバックの詳細についてはまた別の機会にご報告したい。 <おわり>> |あわせて読みたい| |
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