16代目「クラウン」の狙いとは4月上旬、桜芽吹くこの時期に伊豆・箱根において“新型クラウン群”の試乗会が行われた。 トヨタは3月13日に「クラウンエステート」を発売。これにより、16代目「クラウンシリーズ」がついに完成した。2022年7月15日、都内で開かれた新型クラウンの発表会で一挙4モデルを披露し我々の度肝を抜いてからおよそ3年余りが経とうとしている。 今回の試乗会が“クラウン群”と称してあるように、昨今のトヨタは「群戦略=マルチパスウェイ」を推し進めている。 トヨタの言うマルチパスウェイは、パワートレインだけでなくモデルラインアップにも適用され、身近なところでいえば「カローラ」もコンパクトセダンだけでなく、ワゴンの「カローラツーリング」、ハッチバックの「カローラスポーツ」、SUVの「カローラクロス」、そしてGRの名を与えた4WDスポーツ「GRカローラ」までをラインアップする。 多様化が叫ばれる時代において、熾烈な生存競争を勝ち抜くために様々バリエーションを用意し、必死にブランドの生き残りを図っているのだ(贅沢すぎてトヨタにしかできない芸当ではあるが……)。 4つのモデルの中で、15代の後継(=本命)と思われるのは、ボディタイプの同じ「クラウンセダン」のように見える。しかしトヨタは、今回の4モデルで最も“ど真ん中”なのは「クラウンクロスオーバー」だという。いまもネットには「こんなのクラウンじゃない」という罵声にも似たコメントが溢れかえっている。 >>「こんなのクラウンじゃない?」16代目を写真で見比べる ◎あわせて読みたい: 個々によって全く異なる「クラウン」へのイメージ恥ずかしながら筆者は16代目クラウンにあまり縁がなく、じっくりと触れる機会は今回の試乗会が初めてだった。 「16代目クラウンとは何なのか」 この問いに対する自分なりの答えを見つけるべく臨んだのだが、30代半ばの筆者にとってクラウンといえば、「高速で厄介になりたくない」ぐらいの存在で正直そこまで思い入れはない。「いつかはクラウン」という言葉がかつてあった(らしい)が、恐らく筆者より下の世代にとってクラウンに特別な感情がある人間は少ないだろう。 しかし、今年でクラウンは70周年。世代でいうと16代目を数える国内有数のビッグネームである。日本でその名を知らない人はほとんどいないほど、重いブランドと歴史がある。 事実、同行したカメラマンは「クラウンは歴代を父が乗っていた」と語り、開発陣も若輩の筆者に「幼少のころおじが東京から田舎に帰ってくる時に乗っていた黒い大きなセダン」、「昔は憧れ(の存在)で頑張った自分へのご褒美だった」というエピソードを教えてくれた。ここまでそれぞれの心の中に“イメージ”が確立されているクルマも珍しい。16代も続けばそれぞれがイメージするクラウン像だって違うだろう。 そう考えると、前述した「こんなのクラウンじゃない」というコメントは至極真っ当で、それぞれの中に明確なイメージが存在するために起きる、ある種の拒絶反応なのかもしれない。 >>「こんなのクラウンじゃない?」16代目を写真で見比べる ◎あわせて読みたい: 16代目は「〇〇のためのクラウン」?では実際乗ってみてどうか。走りの詳細は別稿に譲るが、同日・同条件で乗り比べるとそれぞれに個性があって筆者は「〇〇のためのクラウン」という枕詞が付くと感じた。 ユーティリティ性が高く、高速道路を静かかつ滑らかに走るGT的性格のエステートは「家族のためのクラウン」、(今回乗った)FCEVならではの高い静粛性とモーターがもたらすシームレスな加速のセダンは「後席のためのクラウン」、コンパクトなボディにやや引き締まった足のスポーツは「ドライバーのためのクラウン」というように。 では、トヨタがクラウンの“ど真ん中”と語るクロスオーバーはどうか。 正直ほかの3台と比べ、走りの特徴が薄い。単体で乗ればあまり気にならないのだが、4台を同時に乗り比べると最新のエステートが最も熟成されており、やや高い重心と大径タイヤのせいか、クロスオーバーは道が悪くなるとややボディがバタバタするきらいがあった。意地悪な言い方をすればキャラがやや中途半端なのだ。 試乗後、開発陣に改めてクロスオーバーの狙いを聞いてみると、やや間をおいて「あくまで私見だが…クロスオーバーがなければ変わることができなかった」と話してくれた。 つまりクロスオーバーこそ「クラウンのためのクラウン」なのだ。クロスオーバーなければ、クラウンは変わることができなかった。変革の象徴であるクロスオーバーを真ん中に置くことで、ボディ形状も、パワートレインも、すべての制約を外すことができたのである。 >>「こんなのクラウンじゃない?」16代目を写真で見比べる ◎あわせて読みたい: 幻となった15代目のマイナーチェンジ「クラウンと言えばセダン」というイメージを作ってきたのは、ここ数代のクラウンだろう。かつてはエステート(ワゴン)だけでなく、クーペやピックアップトラック(!)まで存在したクラウンも、近年は日本の道路事情を鑑み頑なに全幅1800mmを死守するなど、“日本人による日本人のための高級車”として継承されてきた不文律があった。 しかしその不文律が足枷となった。「稲妻グリル(14代目)」や「6ライトウィンドウ(15代目)」などのチャレンジはあったものの、販売台数は右肩下がり。ユーザーの平均年齢は62歳まで高まった。時代が変わったのにクラウンだけが取り残されたのだ。 16代目が誕生した背景には、豊田章男会長の「マイナーチェンジは見送っていいから、新しい時代のクラウンを真剣に考えてほしい」という一声があったのは有名だが、今回の試乗会では報道陣に、お蔵入りとなった15代目の“マイナーチェンジモデル”の画像(撮影はもちろん禁止)が披露された。 前後バンパーとグリルを化粧直ししたそれは、(カッコいいかもしれないが)正直目新しさはなかった。 そうして全ての制約を取り払い「革新と挑戦」を合言葉に生まれたのが16代目なのだ。 >>「こんなのクラウンじゃない?」16代目を写真で見比べる ◎あわせて読みたい: 解釈は1つじゃなくていい結果として賛否両論となった16代目クラウンだが、「革新と挑戦をした結果売れませんでした」では済まされないのがビジネスの難しいところだ。実際はどうなのだろう。 2024年の年間販売ランキングでは、6万2628台で15位に入っている。16位がコンパクトカーの「フィット」なのだから価格帯を考えれば大健闘だろう。「HOME」「LUXE」「CROSSTAR」など、こちらも様々なバリエーションを用意したフィットと並んでいるのは、なんだか因縁深い結果ではあるのだが……。 企画担当者によると平均年齢は10歳以上も若返り、(高価なモデルのためもちろん絶対数は少ないが)20~30代の購入者もいるそうだ。そして何より、ここまでメディアやネット上で話題になることもなかっただろう。「もし買うならどのクラウンがいい?」なんて会話(妄想)をした車好きも多いはずだ。反響の大きさを考えれば、トヨタのやり方は正しかったように思える。 先に筆者は「〇〇のためのクラウン」と述べたがこれはあくまで私の感じたことであって、受け手によって解釈が千差万別になる。むしろ16代目クラウンは、それがいいのではないだろうか。多様性の時代、解釈は1つである必要はないのだから「気に入ったら買えばいい」だけのことである。 個人的には、もっと個性を尖らせ「クラウンじゃないといけない理由」をさらに追求する必要があると思うが、それはマイナーチェンジや特別仕様車、派生モデルなど今後の展開に期待したい。現にクロスオーバーには「ランドスケープ」というオフローダーもデビューしているのだから。 「ハリアー」や「アルファード」が販売ランキングの上位に顔を出して久しいが、時代の変化とともに日本人が高級車に求めるものも変わってきた。おそらくトヨタも、クラウンを今後どうしていくか、まだ手探りで探している最中なのかもしれない。 時代に合わせSUV(エステート)にするのか、ドライバーズカーとしてスポーツ1本に絞るか、伝統的なセダンに回帰するのか、はたまた4種類ではなく10種類ぐらいに増やすのが良いのか、正解はわからない。いや正解はないのである。 しかし、形はどうあれクラウンは生き続ける。過去に固執し朽ち果てていくのではなく、苦しくても変化し生き存える道を選んだのだから。 「16代目クラウンとは何なのか」 筆者なり“あえて”答えを出すのであれば、16代目は「選ぶことのできるクラウン」だった。ボディ形状、パワートレインだけでなくクラウンという「ブランドの解釈」も自由に選べるようになったと気付かされた。 「クラウンの歴史は、革新と挑戦の歴史」 この原点に立ち返ることこそ、豊田氏の本当の狙いだったのかもしれない。 (終わり) >>「こんなのクラウンじゃない?」16代目を写真で見比べる ◎あわせて読みたい: |
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