「GRファクトリー」のオーナー向け見学会がスタートトヨタの元町工場内に存在する「GRファクトリー」。4月18日から始まったオーナー限定の見学会を前に、報道陣に改めてその全容が公開された。 GRファクトリーは、2020年8月26日の「GRヤリス」の生産開始に合わせて稼働を始めたトヨタ初のスポーツカー専用工場だ。元町工場は長らくトヨタの主力工場の1つとして「クラウン」などセダン系車種を中心に作ってきたが、現在では「MIRAI」などの燃料電池車の製造や水素エネルギーの社会実験、「LFA」を作っていたレクサス工房(現在は「LC」などを製造)が存在するなど、トヨタの中でも様々な実験的トライが行われている工場でもある。 そんな元町工場にあるGRファクトリーでは現在、GRヤリス(ラリー専用モデル「GRヤリス ラリー2」のボディや、S耐、全日本ラリーのマシンも含む)のほか、「GRカローラ」やレクサス「LBX MORIZO RR」を1日に100台ほど製造している。 「GAZOOという名はトヨタの変革を意味するグループだと認識してください。そしてクルマづくりも変わり、工場づくりそしてモノづくりの分野まで変革していきます」 このセリフは、2020年のラインオフ時にモリゾウこと豊田章男氏が語った言葉だが、GRファクトリーは通常の自動車工場とは異なる発想でクルマづくりが行われている。 >>「GRファクトリー」の様子を写真でチェックする ◎あわせて読みたい: 「早さ」よりも「精度」を追求GRファクトリーには一般的な自動車メーカーの工場にあるベルトコンベアや大型搬送機を使った製造ラインが存在しない。 一般的な製造ラインは、クルマを早く効率よく作るのには適しているが、GRファクトリーで製造しているのは前述の通りモータースポーツ直系のハイパフォーマンスモデルばかり。そこにはGRの並々ならぬこだわりがあり、“早さ”よりも“精度”を追求していることがわかる。事実、今回の取材会でも関係者からはしきりに“精度”という言葉が聞かれた。 精度アップの取り組みで最もわかりやすいのが、溶接して組み上げられたボディ(足回りの穴の位置)を3次元測定器で測り、その微妙なバラツキを最適化する足回り部品を予めコンピュータが計算し組み合わせるというものだろう。 約1万通りの中から最適なパーツを組み合わせることで図面中央値に近づけるこの工法は、サスペンションメンバーだけでなくコイルスプリングやブレーキなどのパーツまで含まれるそうだ。 素人目には「工場で機械が作っているならバラツキなんて出ないでしょ」なんて思ってしまうが、街のパン屋さんがその日の気温や湿度に合わせ微妙に水分量や焼き時間を調整するのと同じように、クルマも正確に作っても微妙な誤差が出てしまう。一般的な製造ラインでは無視できるほどの僅かな誤差ですら細かく調整しているのだから、精度に対するこだわりっぷりには恐れ入る。 もちろん、大きな溶接や重量物の搬送など、危険が伴う作業は機械が介入しているが、GRモデルともなると、機械ではできない溶接や構造用接着剤の塗布など職人の手が介在する範囲も多い。やはり“クルマは人が作るもの”なのだ。 その証拠に、通常1分といわれるタクトタイムがGRファクトリーでは9分25秒。製造される車両はベルトコンベアではなく「AGV(自動搬送機)」で運ばれ、作業をしやすいようAGVが1つの作業を終えるまで“停止”し、完了したら次の工程に移動する……を繰り返す。時間をかけ精度を高い次元で追い求めていることがわかる。 なお、ファクトリー稼働時のタクトタイムは約14分だったそうで、細かなカイゼンの積み重ねで製造速度も上がっているという。 >>「GRファクトリー」の様子を写真でチェックする ◎あわせて読みたい: “レーシングカーと同じ”という特別感GRがなぜここまで精度にこだわるのか。それは、GRがモータースポーツで勝つために作られたクルマを市販車へとフィードバックする「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を追求しているからにほかならない。 車両の精度がラップタイムや走行フィーリングに多分に影響を与えることは、モータースポーツに関わる人間にとっては当たり前だろう。フォーミュラレースの世界では、セッティングだけではパフォーマンスが上がらずシャシーを全交換することもあるくらいなのだ。 今回の取材会で説明員を務めてくれたGAZOO Racing Company GR車両開発部 GRZ ZR1 主査の川喜田篤史氏は、以前の取材の中で「レースの世界では『〇〇さんの制作したボディじゃないとダメ』という話があるくらい職人の技によってボディ強度に差があり、それがレースでの競争力に繋がってくる」というエピソードを筆者に教えてくれた。マシンの精度がいかに大事かを如実に表している。 また、GR謹製の「G16E」エンジンが、ピストン重量の誤差を最小限に抑えて組みつけられるのも、まさにモータースポーツの現場で日常的に行われている行為の1つ。このレーシングカーと同じ方法で作られている“特別感”こそ、GRモデルの最大の魅力なのかもしれない。GRのクルマはまさに一般の人が買えるレーシングカーなのだ。 そんなGRファクトリーで生み出された車両は、敷地内にあるテストコースにて“全数評価”を受けたのちに出荷される(通常はサンプル検査のみ)。テストでは、試験をパスしたテストドライバーがステアリングの手応えやハンドルの収まり、レーンチェンジでのリアの追従性や沈み込みなどを感性評価し、「狙った性能を正しく発揮できているかどうか」がチェックされる。 >>「GRファクトリー」の様子を写真でチェックする ◎あわせて読みたい: 買いたくても買えない問題AGVによる搬送とフラットフロアは、ラインをフレキシブルに組み替えることにも役立っている(ちなみに、部品棚にも車輪が付いておりこちらもフレキシブルに動かすことができる)。 GRはラリーや耐久レースなどでクルマを鍛え、そこで培った技術をスピーディに市販車にフィードバックしているが(GR流でいうところのアジャイルな開発)、この製造方法は“変種・変量・変技術”に素早く対応することができるという。 このうち“変技術”に関しては、新たなパーツの採用だけでなく、新しい製造工法なども素早く市販車に取り入れられるフレキシブル性があるそうで、トヨタ社内には表に出てきていないような様々な技術がゴロゴロ転がっているとのこと。さらに、ここで採用された技術がほかの製造ラインに転用されていく可能性もあるなど、まさに豊田氏が言う、クルマづくりも変わり、工場づくりそしてモノづくりの分野まで変革していく最前線がGRファクトリーなのだ。 となると気になるのは最近の「買いたくても買えない問題」。取材会後半の質疑応答では当然その話題も上がり、ユーザーとしては“変量”をもっと増やしてほしいというのが正直なところだが、GRによると「(生産量は)もちろん拡大する方向だが、GRとしての品質を守るのが最優先」とのことだ。 つまりトヨタの工場でありながら「早さ(量)<<精度」なのがGRのクルマづくり。こうしてレーシングカー並みの高精度・高剛性なクルマが生み出されていくのである。 GRファクトリー工場見学は、現状GRヤリスとGRカローラオーナーのみが対象で、「マイトヨタ」内の予約サイトからエントリーができる。広報部によると、予約開始からわずか2日で4~6月の予約枠が全て埋まるほどの人気だそうだ(7月分は5月7日12時に予約開始予定)。 オーナーにとっては、GRのこだわりを肌で感じられる特別な機会としてロイヤリティが高まることは間違いなし(見学に使用される「コースター(マイクロバス)」もGR仕様。しかも車内にはTGRワールドラリーチームのラトバラ代表のサイン入り)だが、その内容はクルマ好きなら誰しもが気になるところ。ここを訪れれば、GRが真剣にモータースポーツに根差したブランドになろうとしているかを肌で感じることができるだろう。 なお、GRファクトリーにはその稼働初日から片目が入っていないダルマが飾られている。片目が入っていないのは「もっといいクルマづくりに終わりはない」という意味が込められているそうだ。その目は、未来永劫黒くなることはないのである。 (終わり) >>「GRファクトリー」の様子を写真でチェックする ◎あわせて読みたい: |
GMT+9, 2025-4-25 21:01 , Processed in 0.060101 second(s), 17 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .