スーパーチャージャーに6MTとIPSを設定第二次大戦終結直後に産声をあげたブリティッシュスポーツカーの異端児ロータス。それは、ほぼ同時期にスポーツカーブランドとして名乗りを上げたフェラーリともポルシェとも違う、独自の道を歩んできたが、その哲学を突き詰めれば、創始者コリン・チャップマンの思想を受け継ぐ、軽量にして俊敏なスポーツカー、ということになろうか。 そのロータスの生産車には現在、エリーゼ、エキシージS、それにエヴォーラの、3つのラインナップがある。いずれも、アルミ製モノコックフレームのコクピット後方にエンジンを横置きしたミドエンジンレイアウトを採用、それらをカバーするボディはFRP製という、エンジンが縦置きか横置きかを別にすれば、70年代前後のレーシングカーのような構造を採っている。それがスポーツカーを軽く造るのに最適な方法のひとつだからだ。 そこで今回の試乗車エヴォーラだが、エリーゼ用を拡大したといえるシャシーのミドシップにトヨタ製がベースの3.5リッターV6 VVT-iユニットを収めた、現行ロータスで最大かつ最上級のモデルで、NAエンジンのエヴォーラと、スーパーチャージドエンジンのエヴォーラSがある。今回、2014年モデルとして日本市場に送り込まれたのはエヴォーラSのみで、従来からある6段MTに加えて、IPSと呼ばれる6段AT仕様が加えられた。 さらに、フロントスポイラー、サイドスカート、ルーフなどをブラックにペイントし、通常モデルではオプションの様々なパッケージを標準装備すると同時に、電動格納ドアミラー、バックビューカメラ等々の実用的な装備をも標準で備える、SR=スポーツレーサーなるモデルも登場している。 プライスはエヴォーラSの2シーターが910万円、同2+2シーターが950万円、2+2シーターにのみ設定されたSRが1055万円。IPS 6段ATはそれぞれ45万円高となる。つまり、エヴォーラSのSR仕様でATを選ぶと1100万円になるわけだ。 クビレが強調された「SR」スタイル今回、横浜をベースに試乗したのは、エヴォーラSのIPS(=AT)とMTの2台で、いずれもSR仕様のクルマだった。このスポーツレーサー仕様は、上記のとおり随所をブラックペイントしてあるが、その効果は意外なほど鮮烈で、取り分けドア後方からリアフェンダーに掛けてのクビレが強調されて、標準モデルよりぐっとスタイリッシュに見える。 最初に乗ったのは白いボディのIPSだが、ボディサイズの割りにタイトなコクピットでレカロのプレミアムスポーツシートに身体を収め、エアバッグ付きながら軽快なデザインのステアリングホイールを握ると、これからスポーツカーを走らせるのだという実感がフツフツと湧いてくる。キーを捻るという古典的な方法でエンジンに火を入れ、コンソールにあるDボタンを押してスロットルを軽く踏むと、エヴォーラSは滑るように走り出した。 3.5リッターのスーパーチャージドVVT-i・V6は、ベースこそトヨタの実用車エンジンだが、ロータスの手になるチューンによって、そのレスポンスやサウンドは紛れもないスポーツカーエンジンの雰囲気を持つに至っている。標準状態では、レッドゾーンのないタコメーターの6600rpmプラスでリミッターに当たる設定が施されているから、特に高回転型という印象はないが、そこに至るまでの吹け上がりは充分に活気がある。 さらにそこでコンソールに備わるSportボタンをプッシュすると、スロットルレスポンスが一段と鋭くなり、レブリミットも標準状態より高くなる。1460kgの車重に対して、エンジンは350ps/7000rpmと40.8kgm/4500rpmを叩き出すから、スロットルを深く踏み込むと背中の後ろでスーパーチャージャーが唸りを上げ、バックレストを押し上げるような加速を振る舞ってくれる。IPSの6段ATは歯切れのいいシフトパドルを備えているが、Sportを選択すれば、常時マニュアルモードで走ることもできる。 最大の美点はシャシーの振る舞いロータスが昔からそうであるように、エヴォーラSもその美点を最も鮮明に感じさせるのは、エンジンよりもむしろシャシーの振る舞いだった。ビルシュタインのダンパーにアイバッハのスプリングを組み合わせた4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションに、フロントが19インチの、リアが20インチのピレリPゼロを履く脚は、もちろんそれなりに硬いけれど、不快な突き上げなどを見舞ってこないところが、昔から乗り心地のよかったロータスらしい。さらにFRPボディにも、剛性不足の印象は感じられなかった。 それに加えてステアリングが実にスポーツカーらしい。今もノンパワーのエリーゼやエキシージSと違って、さすがにエヴォーラのステアリングは油圧パワーアシストを備えているが、それでもフィールはむしろノンパワーに近く、けっこうな手応えを感じさせながら路面感覚を繊細に伝えてくる。それを切り込んだときのボディの反応も、過敏でない程度にクイックで、クルマのキャラクターとよくマッチしている。 今回の試乗は横浜がベースだったから、ワインディングでコーナリングの限界を味わうといったチャンスはなかったが、首都高のカーブをちょっと速めのペースで抜けるといったレベルの走りでも、軽快でニュートラルな、しかも腰の据わったコーナリングの一端を、味わうことができた。たとえ最上級モデルであっても、ロータスの真骨頂は路面を舐めるようなコーナリングにあることを、あらためて実感できたのだった。と同時に、APレーシングのコンポーネンツを使ったブレーキも、頼りになる存在に思えた。 つまりIPS仕様のエヴォーラSは、魅力的な中量級ミドエンジンスポーツに仕上がっていて、その気になれば普段の足にも使えるクルマではないかと思った。だから、ポルシェのような定番ではない選択を望む個性派は、ぜひ試してみるべきクルマだといえる。 ディーラーに掘り出し物が残っているかも最後に6段MTの赤いエヴォーラSに乗ったが、クルマのパワートレーンを完全に自分の支配下に置くという意味では、今もマニュアルに勝るものはないと実感した次第。アルミのノブを備えるシフトのタッチは心地好く、しかもクラッチペダルが過度に重いなどの弊害も感じられなかったから、3つのペダルを操作することに悦びを感じる古典派は、こいつを選ぶ手も充分にあると思った。 ちなみにエヴォーラSのパフォーマンスは、本国版MT仕様の数字で0-100km/h加速4.8秒、最高速277km/hと公表されている。ポルシェのMTとPDKの関係などと違って、MTの方がATより速いという、古典的なスタイルを維持している。 ところで、今回は輸入されなかったNAエンジンのエヴォーラだが、過去に入荷したモデルが現在もストックされていて、しかも破格のプライスダウンを施されて発売中だという。スーパーチャージャーを備えるSのハイパフォーマンスは不要という理性派は、ロータスのディーラーに尋ねてみることをオススメしたい。 |
GMT+9, 2025-1-30 03:49 , Processed in 0.184959 second(s), 17 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .