家電だけではなく自動車も「CES」の主役に新年早々に飛行機に飛び乗り、ラスベガスへと向かった。目的は、ギャンブラーになる…のではなく、1967年からの歴史を誇るコンシュマー・エレクトロニクスの祭典、「CES(=Consumer Electronics Show)」である。ソニーとパナソニックが共に56インチ4KOLEDテレビを発表すれば、競うようにLGが77インチ曲面OLEDテレビを展示する。昨年発表されたサムソンの時計型ウェアラブル「GALAXY Gear」に対抗して、ソニーがウェアラブル第一弾の「コア」を発表し、すわ、過日のテレビ合戦の再燃か! とメディアを沸かせた。 いったい何がクルマと関係あるかって? それがオオアリなのだ。1月5日からスタートしたCESの主役は、当然、テレビやオーディオといった家電である。ところが、最近では自動車メーカーが先進的なカー・エレクトロニクスを発表する場になっている。数年前には「最後に残されたインターネット不在地帯」と揶揄された自動車業界だが、安定した3G/4G LTE回線とクラウドが浸透し、急激にネットワーク化が進み始めているからだ。 デトロイト・スリーはもとより、今年からBMWが初参加したこともあって、ドイツ車メーカーも揃い踏みだ。トヨタやマツダといった日本車メーカーもちらほら顔を見せていたし、今年はデンソーやヴァレオといったサプライヤーも初出展だ。 なぜ、アメリカの家電のショーに自動車メーカーやサプライヤーが乗り込むのだろうか? その要因のひとつに、16歳で免許が取れるアメリカでは3年以内にデジタルネイティブ世代が運転をし始めるからだ。彼らにとっては、運転中であっても通信を介してフェイスブックなどのSNSとつながっていることは、息を吸うのと同じぐらい当たり前で、なくてはならないことだからだ。 ウェアラブルとクルマの連携に注目今年のCESで、俄然、注目をあつめたのが、スマホやウェアラブル機器とクルマの連携だ。ウェアラブルとは、時計や眼鏡のように身につける端末のことで、ブルートゥース通信でスマホやタブレットとつながり、スマホのアプリを搭載して使うことなどもできる。クルマとウェアラブルが連携すれば、携帯や眼鏡の形のウェアラブルでクルマを始動し、自動駐車の指令を出し、クルマを降りてから目的地までの"ラストマイル"まで案内するなど、クルマの可能性が広かる。 一方で、最近、スマホを操作しながら歩いての事故が社会問題になっているなど、ウェアラブルに意識が集中しては危険とする見方もある。実際に、アメリカでは装着を禁止する州もある。ただ、それでもやはり魅力が優るようで、CESでもBMWがサムソン「GYARAXY Gear(ギャラクシー・ギア)」と、メルセデス・ベンツがグーグル・グラスに続いて、スマートウォッチ「Pebble(ぺブル)」との連携を発表するなど、ウェアラブル合戦が過熱気味だ。 ドイツ勢の中ではCES参加歴が最も長いアウディは、シュタットラーCEOの基調講演にインテルとNVIDIA(エヌビディア)の各社長を招いた。センサーや通信を通じて車輌周辺の情報を得て、高度な演算を介して、自動運転に必要な信号を出力するなど、エレクトロニクスとクルマが深く連携することで切り開かれるクルマの未来を垣間見せてくれた。 ブースには次期「TTクーペ」の派手なインパネが展示されて話題の的に。NIVIDIA製新型高性能チップ「Tegra3(テグラ3)」の採用によって高画質フルHD作画が可能になり、デジタルメーターの作画もスムーズだった。NVIDIA製「Tegra3」は、自動運転にも使える。屋外では「A7」を使って、歩行者がいない駐車場という設定で自動駐車を実演していた。自分で空きスペースを探して、スムーズに車庫入れしている。ただし、駐車場のデジタルマップやレーザースキャナを設置するなどインフラ側の整備も必要だ。 ■Audi Piloted Drivingウェアラブルとつながる未来を描くドイツ車メーカー老舗のイメージが強いメルセデス・ベンツだが、いち早くiPhoneとの完全連携をスタートし、アメリカとドイツ本国でスマートフォンのアプリが車載で使える「mbrace2(エムブレイス2)」を車載するなど、デジタル化の先頭を走っている。 昨年秋にはグーグル・グラス向けのアプリ「デジタル・ドライブスタイル」の開発を発表し、「CES」ではスマートウォッチ・ベンチャーの「Pebble」との提携を発表した。ウェアラブル機器からリモートで車両情報をチェックしたり、社内ではナビやオーディオの操作ができる。メルセデス・ベンツの技術者いわく、150ドル(樹脂製)という手頃な価格で手に入ることも「Pebble」を選んだ理由のひとつだという。 今回の目玉は、ステンレス製ケースを採用した新作「ペブル・スチール」だ。250ドルへと価格が上がったが、薄型化されたステンレス・スチールのケースにブレスを組み合わせた外観は時計らしさを増している。21.26インチ・モノクロe-Paperのディスプレイを持つ。その表面をコーニング製Gorilla Glassで保護する。プロセッサにはARM Cortex?M3を採用し、USB充電が可能。バッテリーは公式には5~7日間持続するとされる。 少々余談だが、去年秋にITベンチャーが集まるパロアルトにある同社の北米R&Dセンターを訪れたとき、発表間もないグーグル・グラスとの連携を試す好機を得た。「OK Glass」の声で起動し、アプリで住所を入力すると、目的地がカーナビに転送される。2014年のGlass量産に向けて、今後の発展が期待される。 BMWは、昨年秋のIFA(欧州最大の家電ショー)で発表されたサムソン「GALAXY Gear」と連携する。299ドルと、ペブルより割高だが、そのぶんできることが幅広い。ブルートゥース通信でスマホと連携し、ドアや窓の開閉状況などを遠隔で確認できる。音声操作でのリダイヤルやメールチェックなどのスマホの機能を、時計経由で操作できる。「i3」専用アプリをダウンロードすれば、充電状況のチェックやエアコンの遠隔操作も可能だ。さらに、ドアや窓の開閉状況などを遠隔で確認したり、ボイスコントロールを使ってウェアラブル上の住所データを検索してナビに転送して目的地に設定するなどもできる。 ■Mercedes-Benz Innovation at 2014 CESサプライヤーも、続々とトヨタは東京モーターショーで展示したFCVコンセプトと、2015年の市販を目指して走行試験中のFCVの試作車を展示した。今後2億ドル以上の投資が行われて、カリフォルニア州で2016年までに水素ステーションが40基に増えるなど、インフラ整備を含めた"本気度"をアピールした。 他の日本車勢では、今年初出展のマツダがシアトルのスタートアップ企業である「OpenCar」とアプリケーション・プラットホームの共同開発を発表したことも話題だ。要は、マツダやオープンカー以外の第三者が開発したアプリを、クルマの中で使えるようになる。 アメリカでカーナビのシェアが高いケンウッドは、フルHD画像を投影できるウェアラブル機器、「ニアアイ ディスプレイ」を発表した。レースのメカニックや整備作業など、プロフェッショナル・ユースを前提に開発された。モノクロではなく、ハイビジョン並みの高精細カラー画像を投影できる仕組みだ。このほか、サイドミラーを省いて、サイドに取り付けたHDカメラの映像を液晶に表示する。マツダ・アクセラのようなコンパクトなモデルに搭載されはじめて注目度が高まっているヘッドアップディスプレイも初出展だ。 JBLやハーマン/カードンなどの高級オーディオで知られるハーマンは、ナビの世界でも実力派だ。Sクラスやアテンザに最新クラウド型ナビを提供しており、同じシリーズはハーレー・ダビッドソンにも搭載されている。Ahaなるネットラジオを通じて、音楽情報の更新や車載カメラで得た情報をクラウド経由で分析して配信する。同社の王道であるオーディオ分野では、ヒュンダイ/キアが採用するシグナル・ドクターに注目だ。音楽などの圧縮をかけられることで一部の音域を失ったり、音のピークを滑らかにされてしまったデジタルデータをアルゴリズムにかけることで、見事に復元! オリジナルの音源に近い厚みのある音を再現する。 日本の家電メーカーも負けてはいない。家電メーカーのイメージが強いパナソニックだが、いまや、自動車部品は同社の中核を担う規模に成長している。黄色のボディ・カラーが目に鮮やかなミニは、あのビートルズの名曲を録音したアビーロード・スタジオとの提携によって生まれたエクスペリメンタルな一台。アビーロード・スタジオ内の録音室ごとの異なる音質を、オリジナルのミニと同じ12個のスピーカーで再現できる。 現状、自動運転とウェアラブル機器でのコントロールはまったく別の技術だが、互いの技術が熟成していけば、音声認識機能でクルマを呼び出せば、レーシングドライバー並みの自動運転で目の前に現れるなんて未来が来るかもしれない。 ■MAZDA CONNECT Concept MovieBMWはサーキットで自動"ドリフト"運転CESの会場を埋め尽くさんばかりのカーエレにも増して、興味深かったのがBMWが別会場で行ったワークショップだ。ラスベガス・スピードウェイには、ブランニューの新型2シリーズと、エレガントなクーペスタイルの6シリーズがサーキットに並んでいた。普通の試乗会であれば、キーを受け取って運転席に飛び込むところだが、今回は235iの助手席に座ってタクシーライドとなる。逸る気持ちを抑えつつ、運転席に座ったエンジニアが何らかの操作をするのを見守る。すると、アクセルペダルを踏まなくても、クルマがスーッと走り出す。操舵をしなくても、コーナーが見えればすっとステアリングホイールを切って曲がってくれる。 駆け抜ける歓びを旨とし、これまで高度なドライバー支援の導入に積極的ではなかったBMWが、とうとうクルマに運転を任せるのか…とがっかりすることはない。単に自動で走らせるだけに留めないのが、BMWの自動運転の真骨頂だからだ。サーキットの内側にあるハンドリング路では、レーシングドライバーもかくや、といった派手な走りっぷりを披露した。なかでも、325iに搭載される3L直6ユニットが生み出す326ps/450Nmもの巨大な出力を駆使してのドリフトは一見の価値がある。 これだけの高度な走行を行なうためには、レーダー、カメラ、超音波ソナー、レーザー・レンジファインダーといったセンサー類を搭載して、自車の周囲で起きている情報をキャッチする必要がある。加えて、そのデータから必要な情報を抜き出し、アルゴリズムにかけて、自動運転に必要な情報をアウトプットし、最終的には車輌の制御につなげる。すでに、ミュンヘン周辺のアウトバーンで走行試験を重ねており、ラグナ・セカのコークスクリューを駆け降りるといったデモ走行も行っている。今回のCESに持ち込んだ新しい試験車では、このアルゴリズムが新開発されている。 実際に、パイロン・スラロームを正確にクリアするにはエンジンとシャシーの双方をバランスよくコントロールしなければならない。一般的なESCではブレーキを自動でかけて車輌安定性を取り戻すが、このシステムではベテランドライバー同様、グリップ状況に応じてアクセル操作に操舵を加えて安定させる。あるいは、意図的にオーバーステアに転じたときでも自動で本来のラインへと修正していく。リアがスライドをはじめたら、ESCによる慎重なブレーキ入力とESPによる正確なカウンターステアとが組み合わされてはじめて、きれいにリアがライドしていくのは人間の運転でも同じだ。 自動運転の中核を担うシステムは、コンチネンタルと共同で開発した「エレクトリック・コパイロット」だ。2015年にはこの機構を搭載した試験車を使って、ドイツと欧州の限定的な地域でテストする。自動運転そのものの商品化は、法整備などの課題もあって少し先のことになりそうだが、自動運転の技術を製品に反映したシステムは徐々に市販車に搭載される。例えば、ドライバーが車両を降りて行う遠隔での自動駐車や、アクティブに危険回避するレーンキープアシストなどを含む「アクティブ・アシスト」を市販していく予定だ。 2015年にはヨーロッパの国々で公道テストをはじめ、2018年にはさらに広いエリアで走り始めるという。当然、法整備や消費者が受け入れる心の準備ができれば、自動運転で走るクルマが世の中に出てくるのもそう遠い未来の話ではなさそうだ。家電を身につけて、音声でクルマに命令して、サーキットで自動運転をするなんて、遠い将来のような気がしていた。が、CESを見回してみると、渋滞時には運転をクルマに任せてスマホでフェイスブックに投稿し、郊外の流れのいい道に出たら気持ちよく運転するなんてことが「すぐそこにある未来」に思えた。 ■BMW Active Assist "Drift" |
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