917から40年の時を経て誕生した918スパイダー2013年のスポーツカー10大ニュースの一つに掲げることができるほどのビッグニュースが舞いこんだ。史上最強と言われるポルシェのスーパーカー「918スパイダー」がニュルブルクリンクのラップタイム記録を更新したからだ。6分57秒というとてつもない速さであの過酷なニュルブルクリンクを走りきった。ポルシェ最速のスポーツカーはプラグイン・ハイブリッドになったのだ。 まずはポルシェ918スパイダーの概要から説明しよう。ポルシェにとってスーパースポーツの開発はマストである。売れるかどうかでなく、スピードに挑戦し続けるポルシェが技術を証明するためには、最速のスポーツカーを開発し、モータースポーツで証明する必要があるのだ。 1960年代にはシチリア島で行われたタルガフローリオでポルシェ904が電光石火の如くデビューし、ポルシェ初のミッドシップレーサーとして大活躍した。1970年代にポルシェがルマン24時間レースで活躍したことは周知の通りだが、そのときのマシンがポルシェ917。フラット6エンジンを2つ連結し、1000psを誇るレーシングカーを作り上げた。 その後、917に続く「918」というコード番号は40年もの間封印され、今回ようやく918スパイダーが発表されたのである。918は917を超えるイノベーションが必要であったが、918はV8エンジンと2つの電気モーターで900ps近いパワーを絞り出している。917と比べると同じパワーでも燃費では10倍以上の開きがあるとポルシェは説明している。 918は企画段階から「3リッターカー(33km/L)」を目指していた。この環境性能は結果ではなく目標性能として掲げられていた。つまり、世界最速の速さとエコ性能を両立することが918スパイダーの戦略的なコンセプトであったわけだ。 ポルシェがPHVをチョイスした理由918は速さだけでなく、燃費性能も世界一でなければならない。そのために「プラグイン・ハイブリッドを迷わず選択した」とポルシェは説明する。白い紙に書かれたコンセプトには「ニュルブルクリンク最速」と「スポーツカーとしての燃費が世界一」が書かれて経営会議の承認を得たそうだ。 一般的に「プラグイン・ハイブリッドは重いので、燃費性能は有利でも走りは期待できない」とハイブリッド先進国の日本では理解されているが、ポルシェはあえてハイブリッドを選んでいる。すでにF1やWECでもハイブリッドが使われており、欧州メーカーはハイブリッドで運動性能を高める可能性を模索している。その中心にいるのがポルシェなのだ。2010年には「GT3 R ハイブリッド」が発表され、ニュルブルクリンク24時間レースに参戦していた。 918はさらに進化したハイブリッドシステムを持っている。後述するが、エンジンとモーターを連携させたシステムで、大容量のバッテリーに貯められた電力をどう使うのか。速く走るにはアクセルを気合で踏むだけでなく、エネルギーマネジメントを意識する必要があるわけだ。 プラグイン・ハイブリッドの重量ハンディをどう克服したのか。ポルシェのアイディアに注目が集まる。例えば徹底した重量配分の最適化と低重心化だ。重量配分は静的な配分(前43%/後57%)だけでなく、重量物をクルマの中心に集める工夫を徹底的に行っている。その結果、前後の慣性モーメント(動的な重量配分)は大幅に低減できたのだ。低重心化もすごい。ツインクラッチPDKはデフを高い位置に配置するために、上下逆に搭載している。 カーボンモノコックを纏い、V8ミッドシップとモーターを組み合わせるハイブリッド。さらにフロントアクスルには独立した駆動モーターを持ち、EV四輪駆動を可能としている。150km/hまでEV走行が可能で、30km/h前後で町中を流すならエンジンを止めたまま走ることができる。一台で何役もこなすスーパーカーが918スパイダーの実態だ。 0-100km/h加速は2.6秒、EV走行時は7秒エンジンはRSスパイダー用に開発されたレース専用4.6リッターV8自然吸気。9000回転まで回る純レーシングエンジンはリッター当たり132psを絞り出す608ps。ギアボックスは7速PDKで、156psのモーターがエンジンとPDKの間に配置される。このハイブリッドシステムがコアとなるが、フロントアクスルにはリヤとは独立した形で129psのモーターが配置されている。合わせて893ps/1250Nmのパワーとトルクを誇るのだ。 918スパイダーのカーボンモノコックはF1と同じようにバスタブタイプなので、基本はオープンであるが、脱着可能なルーフはフロントに格納できる。気になるのは車両重量だが、6.8kWhのリチウムイオンバッテリーと2つのモーターを搭載しつつ1700kg弱に収まったのはさすがかもしれない。 リヤサスペンションにはターボやGT3で採用したアクティブステアが備わっている。この技術はもともと918用に開発されてきた次世代のリヤ・サスペンションと位置付けられていて、80年代にポルシェ928で実用化したヴァイザッハアクスルの進化型だ。 900ps近いパワーを4つのタイヤで駆動すると最大パフォーマンスは0-100km/h加速で2.6秒。このスペックは軽量化と空力パーツのオプションを採用したヴァイザッハパッケージの値だ。その速さは完全にレーシングカーの世界である。 エンジンを止めたままのEV走行でも0-100km/hを7秒で駆け抜けることができるから、EVスポーツカーとしても素晴らしいパフォーマンスだ。加速性能も文字通り世界一だが、その燃費がEUモードでリッター約33kmというのも凄い。速さとエコで世界一になった918は自動車技術の金字塔を打ち立てたと言えそうだ。 未来のスーパーカーの夢を見せてくれる試乗会はスペインのサーキットで行われた。早朝に雨が降ったおかげで路面は濡れている。918スパイダーに採用されたミシュランの専用タイヤは低温が苦手だ。1.7トンを超える重量と300km/h以上のスピードに耐えるタイヤは、ルマンで走るレーシングカーのタイヤよりも厳しい。フロント20/リヤ21インチのタイヤが温まるには路面が冷えすぎている。 昼ごろまで待ってテストドライブが始まった。ピットロードは完全にEVで走れるので、音がしないから918スパイダーが接近していることに気が付かない。本コースに出てスロットルを床まで踏むと、エンジンが目覚める。シングルプレーンのレース用V8に血が通った瞬間だ。私の体内にアドレナリンがあふれ出す。「やっぱりエンジンが気持ちいい!」と思わず叫んでしまう。 エンジンが始動してもフロントとリヤのモーターがアシストする。0-100km/h=2.6秒の加速力はいままで経験したことがない。あのGT-Rよりも速いのだ。往年の名レーサー、ヴァルター・ロールが先導するポルシェ・ターボに楽についていくことができる。コーナーでスロットルを踏むと、前後独立した四輪駆動なので、今までのどのスポーツカーとも異なるハンドリングに驚く。アンダーステアもオーバーステアもでない。リヤが流れるが、フロントタイヤが進行方向に引っ張ってくれる。アンダーが出そうになっても、フロントタイヤのコーナーリングパワーが予想以上に大きいのでフロントドリフトアウトを抑えてくれる。 加速もブレーキも異次元。さらに鋭いハンドリングを持っているので、重量ハンディを感じることもなかった。1台1億円近いスーパースポーツカーだが、数千万円のスーパーカーでは味わえない世界を持っていることは間違いない。せめてV8エンジンだけの格安モデルはないのかと聞くと、ポルシェのエンジニアは笑っていた。ドイツの自動車雑誌では「960」というコードネームでカレラGTの後継モデルがあるらしいと報じられている。しかし、未来のスーパーカーの夢を見せてくれるのはプラグイン・ハイブリッドの918スパイダーではないだろうか。 |
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