X5が3代目へと「正常進化」2000年に登場した初代X5は「プレミアムなスポーツセダンをつくるブランド」というBMWのイメージをいい意味で覆したエポックメーカーだった。重くて重心の高いSUVにも、BMWらしい「駆け抜ける歓び」を与えられることを見事に証明したX5は大ヒット。コンセプトを引き継いだ2代目も順調に販売台数を伸ばし、後に登場したX3やX6とあわせ、BMWがSAV(スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)と呼ぶXシリーズはBMWの販売台数の3分の1を占めるところまで成長した。 今回、Xシリーズの中核モデルであるX5が6年半ぶりにモデルチェンジし3代目へと移行したわけだが、実を言うと、写真でしか見ていない段階では「うーん、いまいち代わり映えしないのでは?」と感じていた。パッと見ただけでは新旧モデルの違いがよくわからない。そんな保守的なモデルチェンジに思えたのだ。けれど、東京モーターショーで実車を眺め、今回の試乗会では太陽の光の下で眺め……といった段階を踏んでいくにつれ、徐々に印象が変わっていった。 新型X5のエクステリアデザインに対する僕の評価は、いま「代わり映えしない」から「正常進化」という前向きな言葉に置き換わりつつある。そもそも旧型の販売台数がモデル末期に至るまで尻上がりだったことを考えると、ユーザーは「進化」は求めても「変化」は求めていなかった。保守的なモデルチェンジをしてきたのは至極真っ当な方向性だったと言っていいだろう。 最新のBMWデザインを纏った内外装とはいえ、一度出したら数年は売り続けなければいけないのがクルマ作りの難しいところ。キープコンセプトの場合、今はよくても、5年後、6年後まで魅力を保ち続けられるのかが鍵となる。 そんな観点から新しいX5を眺めてみる。大きくなったキドニーグリルや横長異形ヘッドライト、切れ上がったリアコンビランプなど、3シリーズと共通する最新のBMWデザインを各部に散りばめることにより、トレンド感を巧みに演出しているのが特徴だ。加えて、より豊かになった面の張りと、より表情豊かになったキャラクターラインが、全体が醸しだす質感を大きく向上させている。今後7シリーズや5シリーズにも同様のデザインキューが与えられるのは明らかで、そう考えるとX5が早々に古臭く見えることはないだろう。 インテリアは大きくグレードアップした。基本的には水平基調だが、ダッシュボードアッパーとパネルの間に半円形でレザーを回し込んだレイヤー構造がエレガントな雰囲気を醸し出している。ドアトリムも上部を細めにすることで必要以上のボリューム感を削ぎつつ、立体感溢れるラグジュアリーな仕上げとした。このあたりはまさにデザインの妙。アイポイントが高めなことセンタートンネルが太めなことを除けば、まさにモダンな高級車、それも7シリーズに勝るとも劣らない質感を備えている。 10.2インチディスプレイは、オプションのBMWオンラインを選ぶとニュースや天気予報、PC、スマホとの連携が可能。BMWリモートサービスのアプリをダウンロードすれば車外からエアコンを作動したり、ドアロックのし忘れにも対応できる。機能面でも最新のテクノロジーに対応しているわけだ。 驚異的な静粛性と軽快な回転フィール試乗したのは3L直6ディーゼルターボを搭載する「xDrive35d」。装備の充実や安全性能の向上を図っているにもかかわらず、ウェイトは20kg軽くなり、エンジンのスペックも最高出力が13ps、最大トルクが20Nm向上した。 とはいえ、もともと必要にして十分以上の動力性能をもっていたため、動力性能が目覚ましく向上したというわけではない。むしろ試乗直後から驚かされたのは大幅に高まった静粛性だ。ディーゼルエンジンであることを事前に知らされずに試乗したら、5L級のガソリンエンジンだと勘違いする人も多いのではないか。始動のマナー、アイドリング時の振動と騒音、走り出し、加速、巡航など、あらゆるシーンでディーゼル特有のノイズを完璧にシャットアウトしている。窓を開けたり車外で聞いてもほとんど気にならないぐらいだから、よほどエンジン周りの遮音対策をしっかり施しているのだろう。これなら深夜に帰宅するようなケースでもご近所に迷惑をかける心配はない。 驚異的な静粛性とともに、オッ!と思ったのが軽快な回転フィールだ。発進時の力強さもさることながら、巡航状態からアクセルを踏み込んでいったときの伸び感は絶妙。低回転域から沸き上がる分厚いトルク感を伴いつつ、上まで元気いっぱいに吹けきる。 トップエンドまで回しても振動特性がまったく悪化しないスムースさも素晴らしい。シフトアップポイントは4500rpm付近と早めだが、3500rpmあたりからは気持ちのいいサウンドすら楽しませてくれる。このあたりはさすがBMWのストレート6である。つまり、低燃費、野太い低速トルクといったディーゼルの長所を備えつつ、振動、騒音、吹け上がりの鈍さといった短所を徹底的に改善したのがxDrive35dの搭載する3L直6ターボディーゼルエンジンというわけだ。 絞り込みでもっとも上位に表示されるディーゼルとは思えない軽快な回転フィールと同じぐらい印象的だったのがフットワークだ。2トンを超えるSUVでありながら、とにかく動きが軽快なのだ。そんな印象を強めているのがアシスト量を強めにとった軽いステアリング。フリクションやゴムを捻るような弾性感、あるいは粘り気といった要素を排除しているため、ステアリングに軽く力を入れるだけでクルマがスッと軽快に反応する。 とはいえ、指1本から2本分といったわずかな操舵量から大舵角にいたるまで、とにかくスムースかつ素直に反応するため、扱いづらさや過敏な印象はない。切り始めの正確性がなにより求められる下りの高速コーナーでも狙ったラインを正確にトレースしてくれたことが何よりの証明だ。ただし高速道路を走っているときなどは、中立付近の締まりがもう少しあった方がより安心感が増すだろう。 乗り心地も上質だ。都市高速によくある路面の継ぎ目もあっけないほどスムースに乗り越えていく。試乗中、さまざまな路面を走ったが、尖ったショックを伝えてきたり、タイヤがバタついたりすることは最後までなく、常にマイルドな当たりとフラットな姿勢を保ってくれた。 サイズは先代と比較して全長が50mm、全幅が5mmのプラスだが、嬉しいのはタイヤの切れ角を増すことで最小回転半径を6.4mから5.9mへと小さくしてきたこと。狭い場所での取り回しは先代より明らかに向上している。 メルセデス・ベンツのMクラスやレンジローバースポーツ、ポルシェ・カイエンなど、プレミアムSUVマーケットには魅力的なモデルがひしめき合っている。そんななか「軽快なドライブフィール」と「ディーゼル」という二つのキーワードで絞り込みをかけたとき、もっとも上位に表示されるのが新型X5だ。 |
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