新工場から送りだされるポルシェのコンパクトSUVポルシェはマカンを世に送り出すために、ドイツ・ライプツィヒ工場にボディ組立施設と塗装ラインを新設した。投資額は実に5億ユーロ(約700億円)。本格稼動すると、年間5万台の生産が可能になるという。2013年のポルシェの世界販売が約17万台なのだから、この数字は大きい。 もちろん、それはこの市場への大きな期待があってこそ。実際、マカンが属するコンパクトSUV市場は今もっともアツく、この10年でほぼ倍近くに拡大し、現在は年間130万台規模に達している。更に10年後には180万台を超えるというのがポルシェの見立てなのだ。 このマカンがアウディQ5と共通のアーキテクチャーから生み出されていることは周知の事実である。しかし、まさにこの新工場で生み出されるボディは溶接箇所ひとつ取っても格段に多く、エンジンはすべてツッフェンハウゼン工場で生産されるポルシェ製だ。シャシーも、フルタイム4WDシステムはPTMと呼ばれるポルシェ独自の電子制御式だし、クラス初のエアサスペンションのオプションも用意される。 実際、共用パーツはフロアやエアコンユニット等々、全体の25%に満たない程度だという。要するに基本骨格こそ共通でも、ほぼ別物と考えるべきなのだ。例えとして適切かどうかは解らないが、最終組み立て以外はチェコのVW工場で行なうカイエンよりもポルシェ純血度は高い、とも言えるのだ。 そんなことを改めて説明などしなくても、走ればこれが正真正銘のポルシェであることは明らかである。 エンジンの精緻な回り方に唸らされる…マカンS最初に一般道でステアリングを握ったのは、最高出力340psの3.0L・V型6気筒ターボエンジンに7速PDKを組み合わせる「マカンS」。走り出すと、まずはそのボディの剛性感の高さに驚き、更には上質なステアリングフィール、エンジンの精緻な回り方に大いに唸らされることになった。我々の知るポルシェのあの味が、ここに確かに再現されているのである。 実際、溶接と接着により作られるボディは、ライプツィヒ工場の説明員曰く、このセグメントの通常より、スポット溶接の箇所がはるかに多いのだという。自社でボディを生産するメリットが完全に活かされている。 19インチのタイヤがウインター仕様だったせいもあるが、コイルスプリングに可変ダンパーのPASMを組み合わせたサスペンションは、ノーマルモードではしなやか過ぎると感じられるほど。SPORTモードでちょうど良く、SPORT PLUSでも硬さを感じずそのまま走ってしまうほど乗り心地は良い。ボディ剛性の高さも、そこには大いに効いている。 エンジンは全域フラットトルクで、面白みはそこそこだが高回転域まで軽やかに、それこそギッシリと力感の詰まった回り方がポルシェらしい。いやいや、面白みは少ないなんて書いては失礼というものだろう。アウトバーンでは簡単に240km/h超まで加速してみせたのだ。そのパフォーマンスに文句をつける余地はない。 そのまま離陸しそうなほどの加速…マカン ターボ続いて乗ったのは「マカン ターボ」の20インチタイヤ+PASM仕様。最高出力400psの3.6L・V型6気筒ターボエンジンは、やはりマカンSのそれより刺激が強く、低速域からピックアップも良好。特に3500rpm辺りから先のまるでそのまま離陸しそうなほどの伸びは、まさにポルシェ・ターボだ。 本当はウインタータイヤではやってはいけないのだが、あまりの加速の勢いに瞬間的に速度計は257km/hまで達してしまった。スペック上の最高速は266km/h。これはもう掛け値無しの数字と言えそうである。 やや引き締められた乗り心地は、フワリとした部分が無くなって、むしろより快適と感じられた。スタビリティも上々。安心して200km/hオーバーを維持できる。100km/h巡航など鼻歌まじりだ。 更にその後、ライプツィヒ工場のテストコースでも、サマータイヤを履くターボを試すことができた。フットワークはさすがポルシェらしく「SUVにしては」なんて注釈は不要。本気でコーナーの連続を攻められる。ステアリングは素晴らしく正確で、旋回中の前後バランスもまるで後輪駆動車のよう。今回はオフィシャル動画にあるようなドリフトは試させてはもらえなかったが、確かにソノ気にさせられるハンドリングなのだ。オフロード性能だって期待よりはるかに高いのに。 また、ここでだけ試せたエアサスペンションが、極上の乗り心地を実現していたことも記しておきたい。サーキットを走る気なら要らないだろうが、もし自分で買うならゼヒ選びたいと思った。 ポルシェへの期待を裏切ることはない走りだけではなく存在感としても、マカンは独特のオーラを発している。生産精度の高さを物語るサイドまで回り込んだアルミ製ボンネットフードが印象的な、いかにもポルシェなフロントマスクに、低いルーフと寝かされたリアウインドウの組み合わせは、まるでクーペのようなフォルムをつくり出している。 SUVとしては着座位置が低めの室内も、911などと同様の傾斜したセンターコンソールと相まって、心地よいタイト感を演出。しかも実際には狭いわけではなく、たとえば後席だって十分寛げる。荷室も十分に広く、そして何より、その圧倒的なまでのハイクオリティには痺れた。走りもそうだが室内の設えにしてもオプションの充実ぶりにしても、すべてカイエンや911などと変わらない。まさにクラスを超越している。 要するに走りも見た目もそしてクオリティも、ポルシェに対する期待をまったく裏切ること無く、それを使い勝手の良いサイズとユーティリティで味わえるのがマカンである。すでにポルシェを知る人には大きな満足を、そしてブランド性とサイズで選んで初めてその世界へ踏み込んだ人には大きな驚きをもたらすに違いない。 もちろん、そういうクルマでなければポルシェが世に出すはずがないと解っていたつもりではある。けれど実際に触れてみて、改めてそのクルマづくりに唸らされた。問題があるとすれば、今からオーダーしても乗れるのはおそらく2015年になってからになりそうなことぐらいだ。 |
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