クーペを彷彿とさせる伸びやかなプロポーションわずか5年ほど前、アウディは年産100万台規模の自動車メーカーだった。いまや、フォルクスワーゲン・グループの稼ぎ頭であり、近い将来、世界一のプレミアム・ブランドになると標榜し、2020年までに年産200万台を目指している。この手の自画自賛は得てして“寒い”ことが多いが、ことアウディに関しては魅力的なプロダクトを背景に自らの宣言を着々と現実のものにしているように見える。2013年の上海ショーで登場した「A3セダン」も、そうした拡大戦略を実現する一手だ。 ただし、ごく個人的な意見を言えば、Cセグメントのハッチバックをベースにしたセダンは、実はあまり好みではない。ボディサイズに制限がある中でサルーンの実用性を確保しつつ、エクステリアをデザインすると、寸詰まりになって破綻するからだ。だからこそ、A3セダンを目の前にして、伸びやかでまとまりのいいプロポーションに仕上げられていることに感心した。 Dセグメントのセダンと比べると、荷室のサイズが限られるのは仕方ないとして、ことスタイリングでは及第点をはるかに超えている。実際、スポーツバックと共通する部品は、ヘッドライトやグリルといったフロントビューを構成する部分のほか、ミラーやドアハンドルといったディテールに留まる。 特に、サイドビューを彩る2本のキャラクターラインがリアエンドに向かって集約するところなど、デザインの美しさで定評のあるジュリア・クーペこと、1974年製アルファ・ロメオ200GTVを彷彿とさせる。個人的に所有しているから、そう思うのかもしれないけれど。 細部まで妥協のないインテリアスタイリングのまとまりの良さに加えて、日本の道路事情にピッタリのボディサイズなのが嬉しい。A3スポーツバックと比べて、全長が140mm伸ばされて4465mmになったのは必然だが、全幅を+10mmの1795mmに留めたのは、日本の立体駐車場を意識したかのようだ。グループ共通の新型プラットフォーム「MQB」の採用に加えて、ボンネットやフロントサイド・パネルなどにアルミパーツを採用したことで、エントリーモデルでは1250kgという軽量化に成功している。車庫の事情や住宅地の道の広さを鑑みると、やはりコンパクトで軽量なクルマは使い勝手がいい。 ただし、全高は60mm低めた1390mmになっており、全体のバランスとして、伸びやかなセダンのフォルムにまとまっているため、室内空間がどうか心配になる。が、運転席に乗り込んでみると、まったくの杞憂であることがわかった。身長171cmの筆者にとって、十分な頭上空間が確保されており、助手席とのほどよい距離感も心地よい。後席の膝前は大人が座れるだけの空間が確保されている程度だが、後席はつま先が前席の下に入るし、頭上空間はライバルと目される「メルセデス・ベンツ CLA」よりはるかに余裕がある。Cピラーの付け根に小窓があって6ライトになっているため、室内が明るいことも圧迫感が少ない理由だろう。 試乗ステージに選ばれたのは、雪景色のとかち帯広空港周辺である。寒さに震える手でA3から採用された新しいHMI「MMI」システムを操作して、エアコンの設定を調整する。タッチ操作に対応したことで、感覚的に使えるようになった。オンラインでの情報提供を行なうアウディコネクトと連動してLTEに対応しており、スマホやパッドなどのデバイスを8台までつなぐことも可能だ。エアコンの吹き出し口やシフトヘッドなど、インテリアの細部まで妥協がないのは、アウディの上級モデルと共通する美点だ。 外から見ると、クーペかと思うほどAピラーが傾斜して見えるが、運転席からの視界をじゃますることはない。ステアリング・ホイールの向こうに速度計と回転計が見えて、運転に集中できる。 ドイツ車らしい引き締まった足回り荷室の使い勝手を重視するなら、FFモデルの方が4×4機構を搭載しないぶん、荷室が広い。324万円のエントリーモデルでターボ付き1.4L直4ユニットを積む「1.4TFSI」、スポーツサスペンションと17インチ・ホイールで足回りを固めて同じ1.4Lユニットに気筒休止システムを組み込んだ「1.4TFSI with COD(シリンダー・オン・デマンド)」を選ぶ手もある。しかしながら、最高出力180ps/最大トルク280Nmを発揮するターボ付き1.8L直4ユニットとアウディの真骨頂であるクワトロ・システムを搭載した「1.8TFSI クワトロ」が410万円なら、これを試さない手はない。 シルバーに光るシフトヘッドをDレンジに入れて、アクセルを踏み込む。過日のターボ・エンジンとは異なり、1350rpmの低回転域から4500rpmまで280Nmの最大トルクをフラットに発生し、アクセル操作へのレスポンスも高い。ところどころ凍結した路面に雪がちらつく変化の激しい路面が続く。アウディ自慢のクワトロ・システムが前後のタイヤに最適にトルクを配分してくれることもあって、路面μが変わりやすい道でも安定した走りっぷりだ。発進時には後輪にもトルクを配分してスムーズに走りだし、高速巡航時には主に前輪にトルクを配分し、燃費効率を高める。ミシュラン製の最新ウインター・タイヤ「X-ICE XI3」が装着されていたことも、高速域での走行安定性に寄与している。 前/マクファーソン・ストラット、後/4リンクの形式は共通だが、「1.8TFSI クワトロ」にはスポーツサスペンションが標準で装備される。「アウディドライブセレクト」は、シフトスケジュールやステアリング特性などをモードごとに最適に変化させるもので、「エフィシェンシー」、「コンフォート」、「オート」、「ダイナミック」、「インディビジュアル」の5モードから好みの味付けが選べる。 スポーティな走行と快適性をバランスさせたという「オート」を選んで走る。ドイツ車らしい引き締まった足回りはドライな印象だが、荒れた路面でも乗り心地は悪くない。足回りはよく動いても、車両の姿勢変化は抑えられている。路面からのインフォメーションが豊かに伝わってくるステアリング・フィールと、ダイレクトなフィールで定評がある7速DCTの「Sトロニック」の採用もまた、コントロールのしやすさに一役買っている。 雪上でも意のままに操れるスポーティネス一般道でのテストを終えて、雪原と見まごう十勝サーキットへと向かう。雪上でのクワトロの実力を試すべく、特設のコースが用意されていた。ESCをオンにしたまま、注意深くコーナーに侵入していく。第四世代ハルデックス・カップリングが路面の状況に応じて、前後のタイヤに適正なトルクを配分する。おかげで想像以上の限界の高さだ。 次なるコーナーはより高めのスピードで侵入したが、各輪を個別に制動するESCの効果もあって、低μ路でも鼻先をすっと内側に曲げていく。操舵に対する姿勢変化がリニアで、アクセル操作に対する応答性も高い。ゆえに、雪上でも意のままに操れるスポーティネスを持つ。 慣熟走行を終えて、いよいよ、ESCをオフにする。直進安定性の高さはアウディ一族に共通の美点だが、A3セダンでもアクセル・ペダルを踏み込んでいってもなんなく前に向かって進んでいく。コーナーの手前で十分に速度を落とし、ブレーキによる前輪への荷重移動とわずかな操舵で姿勢変化のきっかけをつかんだら、オツリがこないように的確なカウンターステアをあてる。路面の滑り具合に応じて、アクセル操作と操舵を微調整しながらドリフト状態を保ってコーナリングしていく。前:後=100:0~50:50の範囲でシームレスにトルクを分配するハルデックス・カップリングのおかげで後輪からの駆動力がクルマを押し出してくれる。リニアな操舵フィールやアクセル操作への応答性が高いことも、コントロールのしやすさにつながっている。 新世代MMIやLTEに対応する先進性もさることながら、扱いやすいサイズ感と信頼性の高い走りといったクルマの本質を抑えた点が評価に値する。スタイリングの秀逸さと街中での使い勝手を重視するなら325万円~の1.4Lエンジン搭載モデルでも十分に「A3セダン」の美点を味わえる。一方で、アウディの真骨頂であるクワトロを欲するなら、410万円というプライスタグはかなり魅力的だ。 |
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