クラスの壁を打ち破る、図抜けたデザインセンスデザインとセンスを重視したコンパクトカー選びをするなら、シトロエンDS3以上に魅力的な選択肢はない。そこにはヒエラルキーの呪縛から解放された自由さがある。僕は昨年から愛車としてDS3カブリオレに乗っているが、兄貴分であるDS4やDS5と遭遇してもぜんぜん羨ましくならない。もしポロに乗っていたらゴルフが気になるだろうし、Aクラスに乗っていたらCクラスが気になるだろう。しかしDS3のオーナーはそんな雑念、煩悩と無縁でいられるのだ。 DS3に乗りながらそのワケをずっと考えていた。そしておぼろげながら見えてきたのは、全長3965×全幅1715×全高1455mmというコンパクトなボディの中ですべてが完結していて、上も下も見ていないから、という理由だ。ハイテクを満載しているわけじゃない。高級車並みの高価な素材や装備を使っているわけでもない。なのに、より大きく高性能で高価なクルマと並んでもまったく気にならないのは、「これでいい」ではなく「これがいい」という積極的な気持ちで選び、乗りこなし、楽しむことができるキャラクターをもっているからだ。 利便性を見切ることのないフランス車だけに、2ドアであることを除けば便利に使いこなせるパッケージングをきちんと備えている。が、DS3が狙ったのは、便利で使いやすく経済的で誰からも嫌われない無難なクルマ=大量に売れるクルマではない。これは僕の想像だが、DS3を開発するにあたって作り手側がもっとも注力したのは「オーナーの気持ちを上げること」だったのではないだろうか。強い意志を感じさせる顔つき、シャークフィンと呼ばれる個性的なBピラー、2トーンのボディカラー、リアフェンダー周りの鮮やかな造形、合わせ鏡のような立体的なリアコンビランプ、素晴らしくカッコいいメーターパネル……。これほど多くの絵になるディテールを備えたコンパクトカーなど世界中を探しても他にない。高価な素材や豊富な装備ではなく、図抜けたデザインセンスによってクラスの壁を打ち破り、物質的豊かさとは異なる選択肢を示し、精神面での完全なる独立を獲得したコンパクトカーがDS3なのである。 次ページでは、燃費性能を約50%アップした新しいパワートレーンの印象を紹介しよう。 活発な走りを演じる新パワートレーンDS3には1.6L直4に4速ATを組み合わせた「シック」と、同ターボに6速MTを組み合わせた「スポーツシック」の2種類が用意されていた。このうち1.6L直4+4速ATはカタログから落ち、新しいパワートレーンに置き換わる。 新しい「シック」が搭載するのは新開発の1.2L直3で、ETG5と呼ばれるシングルクラッチ方式の5速ATとコンビを組む。シングルクラッチ方式とは、トルコン式ATでもCVTでもデュアルクラッチとも異なる方式で、機械的にはMTとほぼ同じ。ただしクラッチ操作とシフト操作をドライバーに代わってクルマが行ってくれるためクラッチペダルはない。クラッチペダルのない2ペダル式だからAT限定免許でも運転可能だ。 とはいえ法的に運転できるのと、上手に乗りこなせるのとでは話しが別だ。シングルクラッチ式の弱点は雑なアクセル操作をするとギクシャクする点。よく言えば穏やか、悪く言えば反応の鈍い国産CVT車と同じ感覚でアクセルをON/OFFスイッチのように操作をすると、助手席の人の頭が前後に揺れることになる。スムースに走らせるためには、MT車を運転するときのようなスムースなアクセル操作が必要だ。逆にそのあたりのコツさえ飲み込んでしまえば、ストレスフリーでMTライクなダイレクトな走りを楽しむことができる。このあたりは実際に試乗して確かめてみることをオススメするが、同じシステムを採用しているup!の場合、VWの予想に反しユーザーからのネガティブな声は少ないという。 それはともかく、新しいエンジンとETG5の相性はなかなかいい。1.2Lながら、1気筒あたり400ccの排気量があるためアクセルを踏み込んだ直後からビビッドなトルク感があり、従来のシックより90kg軽くなったボディとあいまって、活発な走りを演じてくれるのだ。とくに、市街地でよく使う2000~3000rpm付近の力感は、82ps/118Nmというスペックから想像するよりずっと頼もしい。4気筒に負けないぐらいの優れた静粛性とスムースさもこのエンジンの魅力だ。 スポーツシックより細いタイヤとしなやかなサスペンションセッティングがもたらす、スポーツ性と快適性の絶妙なバランスも好印象。高速道路での快適性は240Nmものトルクを誇るスポーツシックに及ばないが、街中を中心に使うのであれば、シックはとてもいい選択肢だと思った。 古き良き時代のフランス車を感じさせるC3同じパワートレーンを搭載したC3にも乗ってみた。C3はDS3の兄弟車にあたるモデルで、主な違いはドアの枚数とエクステリアデザイン。エッジの効いたDS3と比べると、4枚のドアを備え、丸みを帯びたデザインをもつC3は、より実用的で大人しいキャラクターの持ち主だ。家族で乗るならこちらのほうが使いやすいし、肩肘張らずにさりげなく乗りたい人にもオススメできる。 とはいえ単なる真面目なコンパクトカーで終わっていないあたりはさすがシトロエン。ゼニスウィンドウと呼ばれる巨大なフロントスクリーンは、ちょっと信じられないぐらいの開放感と明るさをもたらしてくれる。日差しが気になるときはシェードを引き出すこともできるが、熱線は通常のティンテッドガラスの5分の1、紫外線はほぼ通さないのでシェードを引き出したくなるケースは少ない。サンルーフやガラスルーフはどちらかと言えば後席乗員への恩恵が大きいけれど、ゼニスウィンドウは運転席と助手席でもメリットを享受できる。この素晴らしい開放感は、ぜひ一度体験してみて欲しい。 メカニズム的にはDS3と共通だが、ドライブフィールはきちんと差別化を図っている。古典的なフランス車の乗り味であるソフトさをより強く味わえるのはC3のほうだ。コーナーでは大きめのロールを許すが、ストロークを十分にとったサスペンションはしっかりと路面を捉え続け、不安定さを伝えてくることはない。むしろ、古き良き時代のフランス車を感じさせるしなやかで懐の深いロール感こそがC3の醍醐味だ。 社会のグローバル化は商品の個性を奪うという指摘もあるし、事実そんな例もあるが、シトロエンにそれは当てはまらない。人、物、カネが自由自在に世界を駆け巡る現代だからこそ、ブランドのアイデンティティをより強く反映させることが必要だ……DS3とC3には、そんなシトロエンのグローバル戦略がはっきりと見て取れる。その一方で、燃費性能の大幅なかさ上げや信頼性の向上など、根っこの部分ではグローバル基準を着々と手に入れつつある。ジュネーブショーでお披露目されたC1を含め、物質面ではなく精神面での満足感を重視する人にとって、シトロエンの存在感はますます高まっていくだろう。 |
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