新生ニスモの量販スポーツモデルが続々日産マーチNISMO(以下ニスモ)は、昨年に矢継ぎ早に新発売されたニスモ名義の量販スポーツモデルの1台。現在ニスモを名乗る国内向けの量販車は、このマーチを含めて4車種があって、このマーチ以外にはジューク・ニスモ、フェアレディZニスモ、GT-Rニスモがある。 知っている人も多いと思うが、ニスモの正式名称は“ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社”という。日産自動車の100%子会社である。ニスモは昨年、本拠地を日産本体の鶴見事業所内に移転。本職であるモータースポーツ車両開発の効率化を進めるとともに、前記の“ニスモ名義の市販モデル”をグローバル展開していくことを発表した。 もっとも、これまでにもニスモを名乗る市販コンプリートカーがなかったわけではない。直近の例でいえば、現在のフェアレディZニスモの前身であるフェアレディZバージョンニスモもそのひとつである。 ただ、当時のバージョンニスモを実際に開発したのはオーテックジャパン(同じく日産の子会社だが、ニスモとは別組織)であり、そのオーテック製コンプリートカーが“ニスモ”を名乗ったのは、つまりは「ニスモのほうが一般ウケがいいんじゃね?」という完全なマーケティング判断だった。しかし、その一方で、ニスモはニスモでZ用のチューニングパーツを販売したりもしていたから、ハッキリいうと、われわれ外野のマニア筋にはその実体がよくわからなかった。 昨年来の新生ニスモは、そういうゴチャゴチャで曖昧だったブランド戦略を一本化するとともに、量産車ベースの特殊スポーツモデルを“ニスモ”に統一して、それをグローバル展開することにした。日本でもおなじみのジューク・ニスモはすでに米欧でも販売されている。 「なるほど、いかにも」といった内容このマーチ・ニスモを含む今の市販ニスモ最大の特徴であり、従来との違いは、その企画開発に日産本体がダイレクトに関わっていることだ。日産は、一昨年春に“ニスモ・ビジネスオフィス”という部署を設立。新しいニスモは、このビジネスオフィスが主体となって、日産本体の設計開発部門やニスモを動かして市販モデルの企画開発する……という体制をとる。 そういう背景を知ったうえで、マーチ・ニスモを見ると「なるほど、いかにも」といった内容である。ちなみにマーチ・ニスモには既存のパワートレーンはそのままに、内外装やシャシーを専用チューンした標準の“マーチ・ニスモ”と、専用エンジンを積んでさらにチューンした“マーチ・ニスモS”という2種類のモデルが用意される。今回の試乗車は当然のごとく後者だ。 普通のニスモに対するニスモSの専用仕立て部位は意外なほど多岐にわたり、後述するパワートレーンのほかにも、各部に補強バーを追加した強化ボディ、スポーツシート、S専用に仕立て直されたニスモとも異なるスポーツサス、専用ブレーキ、速度計が220km/hスケールとなるメーターなど。つまり、この種のワークススポーツモデルにマニアが期待するキモはきちんと押さえてある。 そうしたマーチ・ニスモSのキモのなかでも、「いかにも」の筆頭はやはりパワートレーン。エンジンは普通のマーチ(の日本仕様)には積まれない1.5リッターのHR15DE型。しかも、ギアボックスは5速マニュアル(!)である。日本のマニア層は“今どきMT”というだけで萌える。 さらにHR15型エンジンは単純に他モデルから換装したものではなく、制御コンピューターはもちろんのこと、カムや圧縮比に手を加えて……という実にシブい本格派である。 もっとも、そうはいっても116ps/15.9kgmというピーク数値そのものは、たとえばジュークの同エンジン比で2ps/0.6kgmのアップでしかない。ある意味では“もともと海外向けに存在する仕様をちょっとイジッただけ”でもあるのだが、実際には大企業になるほど、こういう行為はやりにくいもの。こういうウラ技的なチューンが可能になったのも、日産本体が本腰を入れたからこそ……なのは想像にかたくない。 少しばかりアラさが残った改造車っぽさマーチ・ニスモSに乗ると、なによりも印象的なのはエンジンである。ノーマルの1.2リッターとは別物にパワフルなのは当たり前だが、ご想像のとおり、のけぞるほど速いわけではない。ただ、専用チューンをうたうだけに、まずはピックアップの鋭さと図太い排気音が、なかなかの気分。さらに4000rpmあたりからグイッとトルクと音の勇ましさが増すあたりは、最近めっきり貴重になった“チューニング自然吸気”ならではのフィーリング。数値から想像される以上に気持ちのいい好エンジンである。 5速MTのシフトフィールそのものはごくフツーで、意地悪くいえば“実用車のマニュアル”といった風情。かなうことならシフトフィールにもひと手間かけて欲しかったところではある。しかし、このグニャッとした感触の変速レバーをなだめすかしながら駆使して、エンジンをブオブオいわせるのがコツ。しかも、ポテンザRE11(!)なんていう超武闘派タイヤが、いちいち小石を巻き上げてチャリチャリというレーシーなノイズを奏でる。これらの音を聞いているだけでも、気分は十分以上に盛り上がる。 乗り心地は素直に硬めで、最新基準でいえば低速でのズンドコ感は強い。このあたりはタイヤをポテンザのRE050かS001にしてチューンし直せばかなり改善されそうな気がするし、グリップ性能はそれでも不足ないはずだが、そうすると前記の“チャリチャリ”がなくなってしまうから悩みどころだろう。 操縦性はしなやかに荷重移動して吸いつくタイプではないが、ステアリングは正確。ウデにおぼえがあれば、VDC(ビークル・ダイナミクス・コントロール)をカットしてタックインを駆使してチャキチャキ曲がれる。 驚くべきは乗り心地の硬さは残るにしても、16インチのRE11を過不足なく履きこなしており、懸念されたオーバースペック感は薄め。このニスモSは専用強化ボディをもつが、マーチが使うVプラットフォームはシンプルで安価だが、ノーマルの時点でも剛性感は高かった。マーチは意外にも(失礼!)こういう用途に適した素材なのかもしれない。 ライバルはずばり、スズキ・スイフトスポーツやホンダ・フィットRSだろう。マーチ・ニスモの価格設定もそこにドンピシャ。ただし、ライバルの2台はベース車両の車格がマーチより上級で、なおかつともに正式なカタログモデル。正直なところ、絶対的なフィジカル能力やオールラウンドの洗練性では、マーチ・ニスモはこれら2台にはちょっと引けをとる部分もある。しかし、この種を好むマニア層(私を含む)には“少しばかりアラさが残った改造車っぽさ”も無視できないキモなわけで、その点ではマーチ・ニスモがライバルをリードする。 |
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