外観も走りも若々しく3代目となる新型日産ティアナの試乗会で、興味深いプレゼンテーションが行われた。なんでも、『サザエさん』の磯野フネさんは52歳で、女優の黒木瞳さんとほぼ同い年だというのだ。もうひとつ、54歳の波平さんは57歳の桑田佳祐さんより年下だという事実にも驚いた。このプレゼンで何を言いたいのかといえば、昔の50代と違って今の50代はおしゃれで若々しいということだ。そしてティアナも、こうした新しい50代が満足できるセダンにしたかったのだという。 確かに、新型ティアナの外観は先代モデルから若返った。従来型から2775mmのホイールベースは変わらないものの、全幅は35mm広い1830mm、全高は5mm低い1470mmとワイド&ローなフォルムだ。ちなみに全長は30mm長くなって4880mm。きりっとしたヘッドランプの造形や、シャープなキャラクターラインによって、穏和な印象だった2代目よりもアグレッシブな印象だ。より低く、ワイドに構えたように見える。 一方、初代の「モダンリビング」、2代目の「OMOTENASHI」と続いた、上品なインテリアで乗る人を寛がせるという伝統は継承された。ごてごてと飾らない、シンプルだけど落ち着ける内装デザインは個人的に好感が持てる。なお、無重力状態での人間の姿勢を参考に新開発したという「スパイナルサポート機能付きシート」は、腰から背中を包むようにホールドしてくれた。見た目で気分が落ち着くだけでなく、肉体的にも寛ぐことができる。 新型に移行するにあたってメカニズム的な変更点は、V型6気筒エンジンがラインナップから外れ、2.5リッターの直列4気筒エンジンに一本化されたことだ(海外ではV6も残る)。4気筒エンジンに絞る理由は、V6よりも低速からトルクを発生させやすく、結果としてきびきびと走るからだという。新型ティアナは外観だけでなく、「走り」の面でも若々しさを打ち出すのだ。 組み合わされるトランスミッションは、変速比の幅がよりワイドになった新しいCVT(無段変速機)である。変速比の幅を大きくすることで、低速域でより力強く走ることと、高速ではエンジン回転を低く抑えて燃費をよくすることを狙ったという。JC08モード燃費は、旧型から26%も向上して14.4km/Lを記録する。駆動方式はFF(前輪駆動)のみとなる。 乗り心地よく、滑らかな走行感覚走り出してまず感じるのは、乗り心地の良さである。といっても、ふわんふわんとやわかい乗り心地ではない。乗り心地がやわらかいというよりも、乗り心地が滑らかと表現したほうが近いかもしれない。すーっと、スムーズに滑るように走る。快適な乗り心地と安定した操縦性を両立するために、リアのマルチリンクサスペンションを新たに設計したとのことだけれど、その効果は確かに感じられる。 滑らかに走ると感じられるもうひとつの理由に、エンジンとトランスミッションがあげられる。まず4気筒エンジンは、低回転域から充分なトルクを供給する。そしてギアを持たないCVTが、変速ショックを伴わずにもっとも効率のよいエンジン回転数をキープする。この組み合わせが、滑らかな走行感覚につながっている。 街中を穏やかに走ったり、高速道路で巡航したりしているときの車内は非常に静かだ。ティアナは日本だけでなく、アメリカや中国など世界120カ国で年間60万台以上が販売されるグローバルなモデル。販売する国の道路状況や使用環境に合わせて微妙にセッティングを変えている。なかでも日本仕様は遮音材を追加するなど、特に念入りに静粛性を追求しているという。 高速道路の高速コーナーは、安定した素直な姿勢でクリアする。新型ティアナが搭載する新技術のひとつに、アクティブトレースコントロールというものがある。これは、高速コーナーなどで走行ラインが外側にふくらみそうなときに自動で内輪にブレーキをかけることで、理想のラインをキープできるという仕組みだ。このメカニズムが作動しているかどうかは体感できないけれど、新型ティアナは無理にハンドルをこじったりしなくても素直に高速コーナーをクリアすることは間違いない。 高速道路ではBSW(後側方車両検知警報)とLDW(車線逸脱警報)という、ふたつの安全装備も試すことができた(ともにオプション)。BSWとは、トランクに設置したカメラが斜め後方の死角になりがちな場所を見張ってくれる技術。この死角の位置にほかの車両が走っているのにウインカーを出して車線変更をしようとすると、警告を発してくれる。LDWは、ウインカーを出さずに車線変更をしようとしたときなど、ドライバーが意図しない車線の逸脱だと認識して警告するもの。BSWもLDWも、危険を遠ざけてくれる安全技術だ。 穏やかに上質さを味わうセダンといった具合に、新型ティアナはよくまとまった、バランスのいいセダンである。内外装の質感も高いから、ある程度の年齢でそれなりの地位の方も満足できるだろう。ただし、おとなしく走らせたときには上質さを感じさせるものの、運転そのものを楽しもうとしたときに、体の芯からカーッと熱くなるようなエキサイトメントには欠けるのも事実だ。コーナーは堅実かつ素直にクリアするものの、背筋がゾクゾクするようなシャープな動きはない。 4気筒エンジンも市街地ではレスポンスよく走るけれど、上まで回した時には4気筒の粗さが出てしまう。こんな場面では、6気筒エンジンの「トゥルルルルルー」という繊細な手触りが懐かしくなる。 つまりは、穏やかに上質さを味わうためのセダンであり、スポーティセダンを求めるのならスカイラインがある、ということだろう。実際、そう考えて乗れば不満のない、FFセダンの佳作だ。後席は広いし、ゴルフバッグを横にして積むことができるトランクも広大だ。ちなみに、後席のヒザ前のスペースは、従来型より10mm近く広くなっているという。前席シート位置を身長180cmに合わせても、後席でくつろぐことができる広さは、このセグメントで圧勝しているトヨタ・マークXと比較した場合の明確なアドバンテージだろう。 質感の高いものがお好みで、4ドアセダンに乗りたい、けれどもスポーティな性能は求めないという方であれば、自信を持ってお薦めしたい。 |
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