氷の上でモデルSテスラ・モーターズ・ジャパンから「モデルSの氷上試乗会をやるので八千穂レイクにおいで!」と連絡があったので、アメリカが誇る電気自動車のために、日本が誇る電車「長野新幹線あさま」に乗って、凍った湖を目指した。 八千穂レイクに到着。湖はしっかりと氷を張っていた。が、このところ雪が多かったのか、氷の上に雪がまばらにのっかり、それが凍った状況。要するにツルツルでデコボコだった。今回用意された2台のモデルSには、テスラ・モーターズ指定のウインタータイヤのピレリ・ソットゼロ3が装着されていた。 ソットゼロといえば、日本人が想像するスタッドレスタイヤではなく、いわゆるスノータイヤ。高い総合性能を誇るのは重々承知だが、電気モーター特有の大トルクを発進と同時に発揮するモデルSとの組み合わせで氷上に対応できるのだろうか? 試乗前には不安だった。 ホームページから注文できるEV氷上での挙動を報告する前に、モデルS自体について説明しておきたい。モデルSはアメリカ・シリコンバレー生まれのEV専門自動車メーカーのテスラ・モーターズの第二弾。フルサイズの4ドアセダンに見える5ドアハッチバックだ。リチウムイオン・バッテリーが車体底部に薄く敷き詰められている。容量は60kWhと85kWhの2種類。 面白いことに、バッテリー容量によってモーターの最高出力を変えている。60kWh仕様の最高出力は225kWで、0-100km/h加速は6.2秒。最高速は190km/h。欧州モード(NEDC)での航続距離は390km。85kWh仕様の最高出力は270kW、0-100km/h加速5.6秒、最高速200km/h。航続距離502km。また、85kWh仕様の場合、最高出力310kW、0-100km/h加速4.4秒、最高速210km/hのパフォーマンス仕様を選ぶこともできる。どの仕様も車両重量は2108kg。100km走行分の充電にかかる時間は最速で1時間。 価格は60kWh仕様が823万円、85kWh仕様が933万円、85kWhパフォーマンス仕様が1081万8000円(価格はすべて消費税8%込み)。ホームページ(http://www.teslamotors.com/jp/models)から注文できるのが、シリコンバレーの自動車メーカーという感じだ。テスラ第一弾のロードスターは日本価格がアメリカ価格の2倍くらいしたが、モデルSのアメリカ価格はそれぞれ6万2400ドル、7万2400ドル、8万5900ドルだから、1ドル102円だとすると、どの仕様も200万円程度のっかっていることになる。 モデルSは量産プレミアムEVカテゴリーとしては実質第一号。高いか安いかを判断するのは難しい。ただ本国でも、6月にデリバリーが開始される予定の日本でも多くのバックオーダーを抱えていて、商売になる価格であることは証明された。 雪や氷との相性は悪いはずだが…氷上に話を戻そう。待ち受けていたのは85kWhパフォーマンス仕様。早速乗り込み、凍った湖面に設けられたテクニカルなコースをそろーり走りだす。だってモデルSの最大トルクは600Nm。しかもEVの特性上、それを0rpmから発する。なおかつ後輪駆動。スペックだけ見れば、どんだけ雪上、氷上に向いていないんだよと思わせる。 だが、いざ走りだしてみると、アンチスピン・デバイスのチューニングが絶妙で、いくら乱暴にアクセルを踏んだって路面に伝えられる以上のトルクはカットされ、クルマは滑らかに進む。ABSのおかげで停止もスムーズ。もちろん、いくらアンチスピン・デバイスが備わろうとコーナリングでタイヤの限界を超えると、クルマはツツーッと外へ膨らむ。そうなったらタイヤのグリップが回復するまで待つしかないのだが、2トン超の車重が響くのか一度グリップを失ったらなかなか回復しない。 アンチスピン・デバイスのおかげと書いたものの、実はどこまでがデバイスのおかげで、どこからがピレリ・ソットゼロのおかげか、はっきりとはわからない。ソットゼロはアイスバーンを得意とするタイヤではないはずで、雪上、氷上での性能に限れば、いわゆるスタッドレスタイヤのほうが優れているだろうが、それでも想像以上にグリップし、我々参加者を驚かせた。 遊びを残しつつ、最後はお仕置き!?「アンチスピン・デバイスがオフの状態でも走ってみてくださいね」とテスラ・モーターズ広報の土肥亜都子さん。テストカーが惜しくないのだろうか? と思いつつも、オフにして走りだす。 最初のコーナーに進入。コーナー出口でオンの時と同じようにアクセルを開けた瞬間、車体が横を向く。体が反応し、カウンターステアを当てるか当てないかというタイミングで切ったはずのアンチスピン・デバイスが介入してきてパワーを絞る。要するにアンチスピン・デバイスをオフにしていても、車体がある程度以上横を向くと強制的にオンになる。その介入の仕方は問答無用のお仕置きタイプ。このあたりはテスラへの大口出資しているメルセデス・ベンツに近いチューニングだと感じた。 テスラ・モーターズは温暖なカリフォルニア州のシリコンバレーで生まれたが、さすがはEV普及をミッションとするだけあって、積雪地帯の対策も抜かりない。現時点でデリバリーが始まっているのはアメリカ全土とヨーロッパ主要都市だが、アメリカの次に売れているのがノルウェーだという。 厳寒期にはバッテリー性能が低下し、航続距離が著しく短縮されるため、ピュアEVの北国での普及率は低い。モデルSもバッテリーを搭載する以上、低温での性能低下は避けられないはずだが、多少低下しても、少なくとも60kWhと日産リーフの3倍以上の絶対容量を確保しているため、ノルウェーでも評価されているのかもしれない。 EV普及へ低価格モデル投入も今回試乗した85kWhパフォーマンス仕様の価格は1081万8000円と先に書いたが、充電時間を短縮するデュアルチャージャー(16万5000円)やテックパッケージ(LEDコーナリングライト、キーレスエントリー、パワーリフトゲートなど。41万3000円)など、フルオプションだと一気に1400万円を超える。要するに現時点では、モデルSの顧客は富裕層のうちのアーリーアダプター、要するに新しいモノ好きに限られる。 しかし、テスラは第三弾でSUVのモデルXを発売した後、低価格のEVを開発するのではないかと噂されている。日産リーフや三菱i-MiEVなど、すでにいくつかの量産型EVが市販されたが、いずれも販売は苦戦しているが、果たしてテスラならEVを大ヒットさせられるのか!? 氷上でのモデルSのスマートな挙動を体感し、彼らならできるかもしれないと思えてきた。 |
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