安くはないが、すでに50台近い受注が!スポーツカーファン、なかでも特にライトウェイトスポーツ好きのエンスージアストから熱い注目を浴びていた、軽ナンバー登録できるブリティッシュスポーツ、ケータハム・セブン160が日本で発売開始されたのは4月1日のことだった。 そこで公表されたプライスは、ウインドスクリーンなしのベースモデルで、8%の消費税込み394万2000円と、期待するより高かったというのが多くの人々の正直な印象だろう。ちなみにベースモデルはウインドスクリーンに加えてソフトトップとドアもなく、さらにヒーターもついていない。 だが、このクルマを待ち望んでいた人々はその数字にめげなかったようで、試乗会のあった4月24日の時点で、日本国内ですでに50台近い受注をうけているという。そのなかでウインドスクリーンなしを選んだのはおよそ10%にすぎず、残りの90%はウインドスクリーン+ソフトトップ&ドア(23万7000円)をオプション装着し、さらにヒーター(5万5600円)とカーペットインテリア(3万0200円)を選んだユーザーが多いという。つまり8%の消費税込みで、車両価格426万4800円のクルマということだ。 ケータハム全体で年間500台という現在の生産キャパシティからいうと、納車は早い受注分で7月頃に開始され、今後の受注だと10カ月から1年後になる可能性もあるという。 そのケータハム・セブン160、輸入元のケータハムカーズジャパンに登録済のクルマが2台揃ったのを機に、プレス試乗会が開かれた。そこで早速、横浜市内とその近郊という限られた舞台ではあったもののドライビングしてきたので、その第一印象というべきロードインプレッションをお伝えしよう。 日本で生まれた160の企画とプロトタイプその前に、まずセブン160の成り立ちと、それが生まれた経緯について書くと、ケータハムの先代社主兼CEOだったアンサー・アリが、経営健全化のために新たな廉価版モデルをラインナップする方針を立てたことから、すべては始まったという。そこでケータハムは、それに相応しいパワーユニットを探したが、それは英国内には存在しなかった。 一方、日本では2009年からピーシーアイがケータハムの輸入元になったが、その技術分野の下部組織としてテクニカルセンターが埼玉県に開設され、そこがスズキ・カプチーノのパワートレーンを積んだ試作モデル案をケータハムカーズに提案したのが2010年のことだった。それに対して当時のアリCEOは即座に反応し、プロトタイプ製作用のシャシーを日本のテクニカルセンターに送ってきた。 2011年になると、F1のチームロータスを率いるトニー・フェルナンデスがケータハムのCEOに就任。アンサー・アリは同社を去ったが、その廉価版プロジェクトは続行され、日本のテクニカルセンターでカプチーノのパワートレーンを搭載し、リアにコイルスプリングで吊ったライブアクスル=リジッドアクスルを配したプロトタイプが製作された。 その時点では、スズキからパワートレーンの供給をうけられるかどうかは不明だったが、交渉の結果それが可能になり、最新型ジムニーのエンジン、軽ワンボックスたるエブリイのトランスミッションとプロペラシャフトとデフハウジングが、新品でケータハムに供給されることになった。こうしてセブン160の生産化が現実になったのである。 0-100km/h加速は6.9秒、最高速度は160km/h現在のケータハム・セブンは、車重1トン当たりのエンジンパワーの数字をモデル名に使っている。したがってセブン160は1トン当たり160psであることを示すが、車重がおよそ500kgしかない160の場合は、エンジンのパワーが80psであることを意味する。 よく知られているように、日本の軽自動車のエンジンは64psをその上限にするという自主規制がある。したがって当初、日本仕様は64psのセブン130になるという説も流れたが、結局イギリス本国やヨーロッパと同じく、コンピューターチューンで80psにパワーアップされたエンジンが日本仕様にも採用されることになった。その理由は、ケータハム・セブンが自主規制の対象となる日本車ではなく、英国車だという事実による。 というわけで、日本仕様セブン160のスズキ製DOHC4バルブ3気筒658ccターボエンジンは、80ps/5500rpmのパワーと10.9kgm/3400rpmのトルクを発生。対する車重は490kgという軽量だから、3ペダルの5段マニュアルギアボックスを介して、0-100km/hを6.9秒で加速し、160km/hの最高速をマークするという、超小型のライトウェイトスポーツとしては充分なパフォーマンスを持つに至ったのだった。 セブン160のボディサイズは全長3100×全幅1470×全高1090mm、ホイールベース2225mmで、1.6~2リッターの4気筒エンジンを積むロードスポーツというモデルと比べると、全長はまったく変わらぬまま、全幅が105mm狭くなっている。つまりフレームとボディの基本部分はロードスポーツと共通ながら、サスペンションとリアアクスルそれにホイール&タイヤの幅の変更で前後のトレッドを狭くして、軽自動車規格に収めたわけだ。 歴代セブンと変わらぬコクピットの雰囲気僕は1980~90年代に、ベーシックなクラシックから当時の最高性能版たるJPEまで、ケータハム・スーパーセブンのほとんどあらゆるモデルに乗り、そのインプレッションを書いた経験を持つが、それらと最新のセブン160はまず乗り込みの難しさで共通する。 両腕をセンタートンネルとボディに掛けて体を支えた状態で、まずはシートとステアリングホイールの間の狭い空間に脚を入れ、それを前方に滑り込ませる。しかる後に腰をシートに落ち着けることでそれは完了するのだが、それはボディがオープン状態での話だ。だから、雨の日の幌をかぶったセブンへの乗り込みが簡単でないのは、いうまでもない。 ところが、いったん乗り込んでしまうと、セブンのコクピットはなんとも落ち着きがいい。ペダルルームの幅は最小限だから、クラッチを踏まないときの左足の置き場にはちょっと難儀するが、それも走っていれば忘れてしまう。下半身はタイトなのに、上半身が開放感に溢れたセブンのコクピットは、一度味わうと病み付きになること請け合いである。 伝統的にダッシュボードの下に隠れたキーを捻るとエンジンは造作もなく始動、驚くほど短いシフトレバーを1速に送るが、その際に踏んだクラッチペダルの軽さは拍子抜けするほどだった。かつてのスーパーセブンのクラッチは、それなりに重かったからだ。で、昔と違ってセンタートンネル上に位置するサイドブレーキをリリースして、いざ発進! 490kgの車重に対して80psと10.9kgmだからパワーもトルクも不足はなく、セブン160はグィッと押し出すように路面を蹴って走り出した。1速で適当に引っ張って2速にアップ、シフトはレバーが短いわりに操作も重すぎず、短いストロークでコクコクと決まる。2速で踏み込むと、軽いボディをトルクで押し出すグーンという加速感を再び感じる。 ターボの特性と英国スポーツの相性は?ギアを3速、4速とシフトアップしていっても基本的に同様の印象の加速感が繰り返されるのは、エンジンが中速でトルクを発生する現代的なターボだからだろう。8000rpmまでレッドゾーンのないタコメーターの針は簡単に6000rpmを超えるが、最高出力発生回転数が5500rpmであることから想像できるとおり、6000rpmを過ぎるとトルクカーブは急に下降するから、それ以上引っ張ってもほとんど意味はない。 イギリスのスポーツカーというのは、中速トルクの太いエンジンを駆使して早め早めにシフトアップしていくのが伝統的なドライビングのスタイルだが、中速域でグーンとトルクを生み出すスズキ3気筒ターボは、そういう走りに適したエンジンだといえる。ただしそれだけに、高回転に至って最後に鋭い盛り上がりを見せるエンジンを望むトップエンド志向のドライバーには、ちょっと物足りないかもしれない。 物足りないということでいうと、派手な炸裂音を奏でていたかつてのケータハムのマフラーを知る者にとって、シュシュシュシュシュッと囁く感じのセブン160の排気音も、そのひとつだろう。だがその一方で、早朝の住宅街でも遠慮なくエンジンを掛けられるセブンの登場は、ある意味で画期的なことだといえるかもしれない。のちに排気音のボリュームを上げるのは簡単だが、その逆は難しいから、標準型は静かな方が好ましいはずだ。 総じてセブン160のパフォーマンスが、街の流れを軽々とリードできレベルにあり、しかもドライバーに爽快な加速感を味わわせてくれるものであるのは間違いない。 歴代で最も運転しやすいセブン!ここでシャシーに話を移すと、フレームとボディは1.6~2リッターの4気筒モデルと基本共通だから剛性は充分。フロントがダブルウィッシュボーン、リアがリジッドのサスペンションは比較的ソフトな印象で、4.5Jスチールホイールに履くAVONが155/65R14と細いこともあって、乗り心地もルックスから想像するよりずっと快適である。 挙動に関しては、超小径のステアリングホイールがすべてを示しているといえる。あのサイズで据え切りさえ重すぎないのだから、前輪荷重の軽さが想像できるはずだが、それを切り込むと同時にセブン160は鋭く反応し、長いノーズが即座に向きを変える。 それはセブンに限った話ではなく、ほとんど直線が見当たらないくらい曲がりくねったイギリスのカントリーロードに育てられたブリティッシュスポーツの特徴だが、セブン160の場合は車重が並外れて軽量なだけに余計にその印象が強い。それだけに高速道路では滑らかなステアリング操作が求められるが、ボディ形状ゆえにオープンで快適に走れるのは100km/h強が限界といえるセブン160では、それはあまり問題にはならないかも。 今回の試乗の舞台にはワインディングがなかったので、大黒パーキングのループ部分で中速コーナリングを試したら、適度なロールを伴いながら踏んでいる限り安定したアンダーステアを示すことが分かった。いわゆるFRのスポーツカーとして、まっとうなハンドリングキャラクターだろうと思う。ディスク/ドラムのブレーキの効きにも不足はない。 というわけで、セブン160の第一印象は好ましいものだった。その一因が神経質なところがまったくないスズキのパワーユニットにあるのはたしかで、結果、歴代で最も運転しやすいセブンに仕上がっているといえる。その一方、セブンにスパルタンなものを求める硬派には、エンジンの回転感や排気音が物足りないだろうと推測できる。ならばエンジンや排気系に手を入れて、個人の好みに合うセブンを仕立てればいいのではないだろうか。祖先に当たるロータス・セブンは、元来そういうバックヤードスペシャルだったのだから。 |
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