細部にまで散りばめられるフランス感シトロエンのお洒落でアヴァンギャルドなブランドがDSで、その最新モデルがDS7クロスバック。この新型SUV(というよりクロスオーバーか)の試乗会には大いに興味があった。というのも筆者の愛車は2010年型のシトロエンC6で、5年落ち5万kmで買ってから、走行距離は7万kmを超えた。まだまだ乗り続けるつもりではあるものの、万が一何かが起きた場合、C6の後継車両が存在しない。そこで、「フレンチラグジュアリーカーの復活を謳うフラグシップSUV」というDS7クロスバックの宣伝文句にグッときたのだ。 期待に胸をふくらませながら、C6の変わったサスペンション(ハイドラクティブIIIという一種のエアサス)がもたらす、ふわーん、ふわーんとした乗り心地を味わいながら試乗会会場に向かった。 太陽光の下で見るDS7クロスバックは、キラキラしていた。ただし、最新のドイツ車のようにギラギラしていないあたりがシックだ。フロントグリル内の格子柄やリアのコンビネーションランプの意匠がキラキラの発生源で、このあたりはルーヴル美術館の中庭にあるピラミッドがモチーフだとか。「スカしやがって」と思いつつ、なかなかスゴい話だと感心もしてしまう。トヨタが名古屋城の金のシャチホコをモチーフにしてクルマをデザインするようなものであるからだ。 まず試乗したのがオペラという最上級グレード。グレード名はもちろんパリのオペラ座からきており、他のグレード名もリヴォリ(リヴォリ通りに由来)、バスティーユ(バスティーユ広場に由来)と、どんだけパリが自慢なんだというグレード名だ。目を閉じて想像してみる。日産エクストレイルに、「馬車道通り」というグレード名があったら、われわれはどう反応するのか。DSのみなさんの、パリという街に対する圧倒的な自信と愛情は、ちょっと羨ましくもある。 冗談はさておき、DS7クロスバックのオペラのインテリアを見て、ほぉと感心する。レザーシートは、腕時計のベルトをモチーフにしたもの。斬新である一方、美しいステッチには伝統的な高級車に対する敬意も感じられる。シートだけでなく、センターコンソールのクロームや、ドアの内張にまで、細かくデザイン処理が施されており、外観を見て、運転席に腰掛けた時点で、「花の都」という言葉が頭の中でリフレインする。自分がフランス車びいき、というかフランス車かぶれであることを差し引いても、唯一無二のデザインだと感じる。 ガソリンエンジンは“気持ちがいい”エンジンをスタートして駐車スペースから出ようとして感じるのは、意外とデカいな、ということ。全長4590mmは、アウディQ3の4400mmとメルセデス・ベンツGLCの4660mmの間ぐらい。セグメントとしてはアウディQ3と同じCセグメントに属するというのがメーカーの見解であるけれど、実際はもうひとつ上のDセグメントに近い。 エンジンのラインナップは2種類。まず試乗したのは、1.6リッターの直列4気筒のガソリンターボで、最高出力225psと最大トルク300Nmを発生する。もうひとつ、2リッターの直列4気筒ディーゼルターボも用意され、こちらは177psと400Nm。トランスミッションは、ともにアイシンAW製の8段ATが組み合わされる。 走り出しての第一印象は、乗り心地がいい、というもの。最近はSUVであっても足まわりをスポーティに固めたモデルが多いけれど、DS7クロスバックは違う。段差や路面の不整を乗り越える時に、サスペンションがしっとりと沈み込み、あるいはしなやかに伸びて、路面から受ける衝撃をマイルドにしようとしている。もちろんどんなクルマでもマイルドにしようと努めているのだけれど、このクルマの場合はそれがドライバーに顕著に伝わる。 1.6リッターの直4ガソリンターボは、気持ちのいいエンジンだ。低回転域からしっかりとトルクが出ていて、ゼロ発進でもしっかりと前に出る。回して快音を聞かせるとかパワー感が官能的に盛り上がるということはないけれど、バイブレーションやノイズとは無縁に素直に回り、気分よく加速する。育ちのいい好青年といった趣のエンジンだ。 力感ではディーゼルに軍配続いて、2リッターのディーゼルターボに乗り換える。乗り換える時にもう一度デザインをチェックして、デザインがエレガントに感じる理由がわかった。このクルマは6ライトウィンドウを採用しているのだ。つまり、後席の窓の後ろを太い柱(いわゆるCピラー)にはせずに、窓にした。これで前席、後席、その後ろと、左右で計6つの窓がある6ライトウィンドウとなった(ライトとは採光の意)。 窓を閉めて運転席に座っている限り、エンジン始動時もアイドリング時も、パワーユニットがディーゼルであることは感じない。シフトセレクターでDレンジを選び、ゆっくりアクセルペダルを踏み込むと、ガソリンエンジンとは種類の違うトルク感をずっしりと感じる。ゼロ発進からの、最初の3m、5mの力強さが違う。ガソリンエンジンでもこうした場面での力不足やかったるさは感じなかったものの、直接比較すると力感ではディーゼルに軍配が上がる。 ただし、これも乗り比べたからこそ感じることであるけれど、静粛性や回転マナーのお行儀の良さではガソリンが上だ。ディーゼルも、もし単体で乗れば充分に静かだし、回転フィールも滑らかだから不満は感じなかったであろうことは付け加えておきたい。 乗り心地のよさは、ガソリンエンジン仕様と変わらない。ただしトルクがあるぶん、コーナリング時にタイヤにグッと力が加わり、ハンドリング性能がかなり高いことが確認できた。申し遅れたけれど全車FF(前輪駆動)で、アクセルを踏み込んで前輪に強いトルクをかけても、ハンドルを切れば切ったぶんだけ素直にノーズが内側に入る。 見かけが“とんがっている”だけに、走りにもクセがあるのではないかと予想していたけれど、その予想は良い意味で覆された。コーナリングも乗り心地も加速もブレーキも、どれもごくまともで、乗用車としてのレベルが高い。話しかけにくいと感じるほどお洒落なスーツを着た人が、実は実直な人だった、みたいな驚きを感じる。 ハイテクが効かなくても乗り心地良好少しスピードを上げて、DSアクティブスキャンサスペンションという仕組みを試す。簡単に説明すると、5~25m先の路面の凸凹をカメラでチェックして、それに合わせてサスペンションを設定するという仕組みだ。ドライブモードを「コンフォート」に入れた時にだけ作動する。 結論から書くと、短時間の試乗ではDSアクティブスキャンサスペンションの効果は体感できなかった。けれども、これは決して残念な結果ではない。このハイテク装置が働いていない状態であっても、そもそもの乗り心地が良好であることの証明であるからだ。できれば機会を見つけて、高速道路で長時間試乗して、DSアクティブスキャンサスペンションの効果を確認したい。 不思議に感じたのは、サスペンションの仕組みがまるで異なるのに、ここまで乗ってきた自分のシトロエンC6と乗り味が似ていたことだ。4本の足が柔軟に伸びたり縮んだりして、乗員に不快なショックを与えないことと車体の姿勢をフラットに保つことを両立している。仕組みは違うにせよ狙うところは一緒で、これが過去のモデルと最新のモデルとで一貫している、というのが筆者の考えだ。 試乗を終えて、ガソリンとディーゼルのどちらを選ぶかの結論が出た。普通のSUVであれば低回転域からトルキーなディーゼルということになるだろう。けれどもDS7クロスバックは、ヘビーデューティに使うというより、そのルックスや快適な乗り心地から、都会派という感じがする。そこで、よりスムーズで静かなガソリンを推す。 おもしろいデザインとユニークなメカニズム、そしてグルーヴ感を感じさせる独特の乗り心地。DS7クロスバックは、シトロエン(厳密には違うブランドだが)の伝統を引き継いでいて、シトロエンC6の次にちょっといいかも、と思わされた。グレード名にしろデザインにしろ、「パリ、パリってうるさい!」とか、「キザでイヤらしい」と感じる向きもあるかもしれない。でも、安くて壊れない国産車があふれる日本であえて輸入車を選ぶ理由は、異国の文化を味わえるからという理由もあるはず。パリ旅行に行って「パリ、パリってうるさい」と怒る人はいない。このクルマは、日本にいながらにして味わえる、手軽なフランス旅行である。 スペック【 DS7 クロスバック グラン シック(ガソリン) 】 【 DS7 クロスバック グラン シック(ディーゼル) 】 |
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