5シリーズをベースにリアに大型ハッチを持つもしかしたらこれこそクラウンが取るべき道のひとつだったんじゃないか。 試乗会場の基地となる爽やかなリゾートホテルを後にして、長い下り坂を下りてから路上にトトン、とタイヤを落としたときにハッと閃いた。その乗り心地はあまりに柔らかで、しかしどこか頼もしかったのだ。 BMW 6シリーズ グランツーリスモ。それは5シリーズのプラットフォームをベースに作り上げられた文字通りのグランドツアラーである。 その特徴はごらんの通りリアセクションに大型ハッチを持つことで、セダンよりは利便性が高く、ツーリング(ワゴン)よりはエレガントと、まさに「偶数シリーズ」としてのニッチな隙間を突く仕上がりとなっている。ちなみにそのトランク容量は通常610L、最大で1800Lとツーリングを上回っている。 ソフトなエアレートがもたらす、ゆったりとした乗り味それだけに乗り味は極めて高級志向だ。 今回試乗したのは「640i xDrive グランツーリスモ M Sport」。Mスポーツの名前が入ることからもスポーティな足回りが想像されるけれど、通常モードとはいえその乗り心地は初見では驚くほどにフカフカとしている。それもそのはずこのグランツーリスモには、7シリーズばりに4輪アダプティブ・エアサスペンションが装備されているのだ。 さらにこのエアサスは、状況に応じて4輪の車高を制御する。通常、日本では使う状況はないけれど120km/hの速度域では車高を10mm下げることで空気抵抗を減らしながら車体重心を低め、35km/h以下の悪路では20mm車高を上げてロードクリアランスを確保。そして積載状況による4輪の高低差を補正しながら、フラットな姿勢を保つことも可能となっている。いわばリゾートエクスプレスなのだ。よってその操縦性も、驚くほどにゆったりとした仕上がりとなっている。 操舵に対して素早く反応するBMWのレスポンスを期待すると、そのハンドルは肩すかしを食らうほど抵抗感なく切れ込む。しかしソフトなエアレートと1620kgの自重を巧みに使ったボディバランスでフロントサスがしなやかに沈み、リアサスが伸びて、きちんとクルマが曲がって行くから、結局はBMWらしい素直なコーナリング感覚を味わえてしまう。 エアサスを投入するような高級車はこうした場面で、操舵初期から切り込むまでに接地感を作れない場合が多いけれど、そこをきっちり紡いでいるあたりはさすがBMW。年を取ると人はせっかちになると言われるが、このテンポにリズムを合わせられるドライバーであれば、それが実に快適ながらも奥深いものだと理解できるはずである。 ウルトラスムーズなエンジンとスポーツ寄りではないシャシーそんな640iグランツーリスモに搭載されるエンジンは、3リッターの直列6気筒ターボ。最高出力は340ps/5500-6500rpm、最大トルクは450Nm/1380-5200rpmと、GTを名乗るグレードとしては十分なステイタスと実力を持ち合わせている。また今となっては大排気量の部類に入るこの3リッター直6ユニットをラインナップし続けるためにBMWはエンジンをカプセル化。遮音性を高めながらコールドスタート時の暖気時間を短縮させるなどの工夫も行っていた。 実際そのパワーの出方はウルトラスムーズ。過給の出方は穏やかながらアクセルに対する追従感が高く、踏み込めばほどよくトルキーな押し出しで勢いを付けながら、高回転までキレイに吹け上がっていく。 その際回転上昇感とメカニカルサウンドがリニアにシンクロして気持ちが良い。ここにはツインスクロールターボの柔軟さと、可変吸排気機構であるダブルVANOSの恩恵、そしてグランツーリスモ用に設えられたECUセッティングの妙が感じ取れる。トルコン式8速ATの変速もスムーズ。リミットまでしっかり引っ張ったあとのシフトアップも、ピッチングを起こすことなくクリアしてくれた。 穏やかとは言いつつもそれ相当に出ているパワーに対して、ソフト設定なシャシーはどれほどマッチングするのか?その答えとしては、明確に「スポーツよりではない」と言っておこう。 Mスポーツということもありその足下にはピレリ P ZEROが履かされている。このタイヤは操舵に対してきびきびと素早くグリップを立ち上げる性格で、直列6気筒をノーズに搭載する慣性に対しても上手にスタビリティを確保している。 スポーツモードに入れたとしても基本的にはソフトなサスペンションを、リアステアが信じられないほどコンパクトに曲げてくれる。しかしカーブの曲率がきつくなればきつくなるほど、そのフワフワとしたロール感が大きくなっていき、切り返しが続くような場面でもクルマはしっかり曲がっているのだが、乗り手の視点が定まりにくくなってしまう。 とはいえここでダンパー制御やエアレートをさらに固めたとしたら、この上質な乗り味が損なわれてしまうだろう。それはより開口部が小さいツーリングの走りを思い出しても納得できる。このシャシーは軽量化を推し進めた結果か、セダンとツーリング、そしてグランツーリスモの剛性差が激しいと思う。 グランツーリスモはラグジュアリーに特化したモデルとはいえ1000万円級のリゾートエクスプレスにとって、曲がりくねったワインディングが本籍ではないというのはもっともな話。それすらバッチリこなすBMW! とまとめるのは美しいが、細分化が進んだ現在でグランツーリスモはラグジュアリーに特化したモデルである、というのが正しい結論だと思う。 Xシリーズとまでは行かないがセダンやツーリングよりも高いアイポイントを実現したシートに座り、ほどよくカーブしたロングコーナーを楽しむ。 長い旅路を快適に高速移動し、疲れ知らずで現地でのレジャーを堪能する。そしてこうした乗り心地の良さ、その中にもしっかりとした走りの芯がある乗り味こそ、我々日本人好みなのではないか。だからこそ冒頭で、クラウンが取るべき道というか走りとラグジュアリーのバランスが、ここにあったのではないか? と感じたのである。 スペック【 BMW 640i xDrive グランツーリスモ M Sport 】 |
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