プレミアムカーとして改めて立ち位置を模索アルファ・ロメオが遂にSUVに進出……と聞いても、正直なところ驚きは大きくない。何しろ今や、スポーツカーブランドもラグジュアリーカーブランドも、こぞってSUVをそのラインナップに加えている時代なのだから。 こうして新たにSUVマーケットに打って出ようとするブランドにとって、まずぶち上がる壁が、それまで培ってきたブランドの個性を、どのように表現するかである。デザインの点でも、走りの点でも、それは簡単なことじゃないということは、先達の苦労を見れば解ることだ。 ではアルファ・ロメオの味とは一体どんなものだろうか。私は、実は近代アルファ・ロメオは、そういうものを明確に定義できていなかったと解釈している。だから低迷していたのか、低迷していたから出来なかったのかは、まさにニワトリと卵の話になってしまうが、ともあれアルファ・ロメオは、ここに来てその“らしさ”を再定義しようとしている最中だ。FR及びそこから派生した4WDという駆動レイアウトの採用によって、改めてプレミアムカーとして立ち位置を確保しようとしているのが、今のこのブランドである。 その第一弾が昨年登場した、久々のFRセダンとなるジュリア。しかも、これに使われた「ジョルジョ」と名付けられた新しいプラットフォームは当初から目下、市場規模が爆発的に拡大しているSUVの開発も考慮しており、それほど間を開けることなく、ブランド初のSUVがお目見えすることとなった。前置きが長くなったが、それがアルファ・ロメオ ステルヴィオである。 ロール角を徹底的に抑え込んだセッティングジュリアとプラットフォームが共通ということで、ステルヴィオは2820mmという長いホイールベースと、そのぶん切り詰められたフロントオーバーハングによるスポーティなプロポーションを有する。一方で、ヒップポイントはジュリアより190mmも上に移動し、最低地上高も余裕あるロードクリアランスを確保できる200mmに達する。 運動特性的には不利な条件だが、ステルヴィオは定評あるジュリア譲りとなるフロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクという形式のサスペンションを採用し、トレッドを前54mm、後29mm拡大するなどしてロール角を徹底的に抑え込んでいる。実際、同クラスのセダンをも凌ぐほどロール角を小さくできたという。 パワーユニットは2タイプ。まず登場したのが、最高出力280psを発生する直列4気筒2.0Lターボで、8速AT、通常は駆動力を100%後輪に配分し、滑りやすい場面などでのみ瞬時に前輪も駆動する電子制御のオンデマンド式4WDシステムのQ4と組み合わされる。続いて、最高出力510psを誇るV型6気筒2.9Lツインターボエンジンを積むクアドリフォリオが設定される予定だ。 今どきのアルファ・ロメオは先進安全装備、運転支援システムも充実している。歩行者検知機能付きの緊急自動ブレーキ、車線逸脱警報、完全停止・再発進にも対応するACCなど、ひと通りの装備が揃うし、SUVらしくヒルディセントコントロールも装備される。 筋肉質なフォルムを描きながらもCd値は0.30以下今回試したのは、日本導入第一弾となるファーストエディション。2.0Lターボエンジンを積み、外装には20インチの大径タイヤ&ホイールやレッドブレーキキャリパー、内装にはプレミアムレザーシートやウッドパネルなどを装備した仕様である。 明らかにジュリアからの流れを汲む、そのエクステリアはとても個性的だ。何と言ってもキャラクターが立っているのは、その顔。ジュリアと同じくトライローブ(=三つ葉)をモチーフとした盾型のグリルとバンパー左右の大型エアインテークを配置したデザインは、まさにアルファ・ロメオのファミリーフェイスである。 しかも、これだけ大きな開口部を持ち、力強いリアフェンダーに象徴される筋肉質なフォルムを描きながらも、Cd値は0.30を下回る数値を実現しているという。それにはリアオーバーハングを長めに取ったパッケージも貢献している。 インテリアも、やはりジュリアと共通のイメージだが、作り込みのレベルはジュリアよりも一段引き上げられた感がある。無理のないデザインのおかげでもあるのだろう。不満の無いクオリティ感が実現されていると言っていい。 居住性も上々。前席もそうだが、特に長いホイールベースを活かした後席の広さが印象的だ。外観はクーペライクだが、ルーフが後方に引き延ばされているため頭上にも十分な余裕があるのも良い。ラゲッジスペースも通常時で525Lという大容量。オーバーハングの長さは、機能面でも有効なのだ。 SUVらしからぬ“意のままになる感覚”走りの第一印象は鮮烈の一言。何しろクルマの動きが軽快で、それこそ交差点ひとつ曲がるだけでも俊敏さに頬が緩む。それを可能にしているのは、ひとつには12:1というクイックなステアリングギア比があるが、これまでもアルファ・ロメオは決して、それだけを走りの個性としてきたわけではない。吟味されたジオメトリーによって接地性や乗り心地を犠牲にすることなくロールを抑え込み、まるでノーズが平行移動するかのようにスッとインを向いていくハンドリングこそが、アルファ・ロメオの真骨頂である。 このステルヴィオも、単に操舵応答がクイックなだけではなく、前述した通りの凝ったサスペンション、更にはジュリアと同様のダイヤゴナルなロール姿勢などによって、SUVらしからぬ“意のままになる感覚”を身に着けているのだ。 もちろん前後50:50に限りなく近い重量配分、そして必要な時以外はFR車として走るQ4システムも、この走りに貢献しているのは間違いない。ワインディングロードでの身のこなしは、まさにSUVであることを忘れさせるほどで、タイトな切り返しでも大げさなアクションは不要だし、コーナー立ち上がりでアクセルペダルを踏み込めば、リアから押し出されるような心地よいトラクションを感じることができる。まさにFR車の感覚である。 動力性能も十分、活発と評することができる。400Nmの最大トルクと、トルクバンドを外さない8速ATの組み合わせは日常域から瞬発力抜群だし、アクセルを深々と踏み込めば、回転上昇とともに心地よいパワーの伸びも味わえる。155や156のツインスパークユニットのような弾けるキャラクター性のようなものこそ乏しいけれど、今の時代にそれを求めるのは、きっと酷というものなのだろう。 FR的でスポーティなハンドリングが存在感を発揮すでにライバル達は出揃った状態のプレミアムSUVマーケットにこれから参入して、存在感を発揮するのは簡単なことではない。しかしながら、ジュリアに続いて新しいプラットフォームを採用し、FR的な質高くスポーティなハンドリングという個性をまとって登場したステルヴィオは、その中で埋没することのない存在感をうまく発揮できているように思えた。 セダンのジュリアだけでなく、SUVであるステルヴィオが同じ方向の個性を宿した存在として揃ったことで、いよいよ新しい時代のアルファ・ロメオの定義が、明確になりつつあると言ってもいいのではないだろうか。 個人的には、家族や仲間たちと出掛ける機会が多いはずのSUVのフットワークはもっと穏やかでいいと思っているけれど、敢えてアルファ・ロメオのSUVを求める人たちの期待には、これぐらいじゃなければ応えられないだろうというのも解る。万人向けではないけれど、気に入った人にしてみれば、他の選択肢はもう考えられなくなるに違いない。プレミアムカーはそれでこそいい。 つい先日、このブランド再建を推し進めたFCAの元CEOのセルジオ・マルキオンネ氏が急逝されたというニュースが世界を驚かせた。アルファ・ロメオの変革の行く末を見届けられなかったのは、きっと無念に違いない。さて、ではマーケットはどうだろうか。ユーザーが、このアルファ・ロメオの新しい世界をどう受け入れるかは、大いに注目である。 スペック【 ステルヴィオ ファースト エディション 】 |
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