とにかくカッコいいエクステリアこの度モデルチェンジしたスズキ・ジムニーとジムニーシエラ(以下シエラ)は、ガードの堅いスズキにしては珍しく発売前にスクープ写真が何度か出回り(スズキの仕込みか!?)、それがカッコよかったものだから発売前からファンは大盛り上がり。20年ぶりのモデルチェンジということもあって、発売後の現在は、日頃あまり軽自動車やオフローダーに関心のない人まで巻き込んでちょっとしたお祭り騒ぎになっている。 新型はエクステリアデザインが実によい。丸目2灯のヘッドランプと5スロットのフロントグリル、そしてボディサイドまで回り込んだ貝殻状のエンジンフードは初代ジムニーへの先祖返りのようであり、どの世代とは言わないがジープ・ラングラーのようでもある(あっちは7スロット)。そして四角いシルエットはモデルチェンジする前のメルセデス・ベンツGクラスのようにも見える。古今東西のさまざまなモチーフを盛り込みつつ全体としてはオリジナリティを感じさせるスズキらしいスタイリングといえよう。 実車を見る前には軽自動車規格にとらわれないシエラのほうがカッコよいのではないかと予想していたが、実際にはシエラのフェンダーはやや大仰で、ナローなジムニーのほうがすっきりしていていいなと思えた。シエラのほうが迫力はある。好みの問題。 乗ってすぐ感じた20年分の進化インテリアは先代より多少モダンになったものの、右(速度計)と左(回転計)が独立したタイプのメーターナセルを使ったり助手席前にオフローダーのお約束であるグラブハンドルを備えたりと、あえての古臭さ、無骨さを演出している。Aピラーが立っているせいで、外から眺めても、乗り込んで中から外を見ても、オフローダー然としている。そのことは実にユーザーの冒険心をくすぐる。その気になればいつだって通勤ルートをはみ出して、道なき道をどこまでも行けるのだ! と思わせてくれる。 ジムニーにせよシエラにせよ、走り始めると即座に20年分の進化を感じることができた。フレームシャシー(編集部注:はしご型をしたラダーフレーム)は先代用をベースとしながらもクロスメンバー2本とXメンバーが補強として追加された。先代のシャシーはすぐに結果を予想できるあみだくじで、新型のは複雑で予想が不可能といったところか。その結果、ねじれ剛性が1.5倍となった。ジムニーでオフロードを走行中に大きな入力を受けた際に低級なきしみ音が一切聞こえず、不快な振動もほとんどなかったことに感動した。ドンと衝撃が一度あって終了だ。 シャシーとボディの緩衝材たるゴムマウントが、垂直方向にソフト、水平方向にハードな特性をもつものに変更された。オンロードでコーナリングした際にその恩恵を感じることができた。先代ジムニーをはじめフレームシャシーのクルマにありがちな、コーナーでボディとシャシーが別々の動きをして予想外のロールの量や速さに驚かされるといったことがなくなったのだ。これと同じ進化を、先月新旧Gクラスを乗り比べて感じたばかり。もちろんマウントだけのおかげではないのだろうが。 もう少しエンジンパワーが欲しいジムニー、シエラともにエンジンは新世代へ切り替わった。ジムニーが積むのはアルトワークスをはじめ、現行の多くのスズキ車に採用されるターボエンジンだ。例によって軽自動車の最高出力は64psに事実上制限されているため、先代よりもパワーアップしたわけではない。燃費効率や環境性能を向上させるための変更だ。このエンジン、車重が670~740kgのアルトワークスに載せるとそこそこパワフルなのだが、1030~1040kgのジムニーに載せると必要最小限という印象。副変速機が備わるため、オフロードでトルク不足を感じることはない。静粛性が明確に向上したが、それは車体側の遮音対策の結果だろう。 速く走らせたいならほかを当たるべきではあるのだが、無意味な64psの規制を取っ払って80psくらいにすれば、もう少し伸びやかに走らせることができるのに惜しいなと思う。まぁ軽自動車メーカーにしてみれば、登録車との税制の差をさらに縮められると困るので、このタイミングで下手に目立つことはできないだろう。 シエラは従来の1.3リッター直4自然吸気エンジンに代え、新たに1.5リッター直4自然吸気エンジンが採用された。スイフトスポーツの1.4リッター直4ターボはぜいたくだとしても、クロスビーの1リッター直3ターボ+ハイブリッド、あるいはせめてバレーノの1リッター直3ターボ(非ハイブリッド)を採用してもよかったと思うし、スズキ社内でも議論があったようだが、結局、おとなしい自然吸気エンジンが彼らの最終決断となった。 今回シエラに試乗できたのは一般道を10分×2回という限られた時間だけだったので断定的なことは言えないが、印象に残るエンジンではない。全域でやや非力。といっても辟易とするほどではない。チーフエンジニアの米澤宏之さんいわく、仕向地ごとにエンジンを変更すると開発コストが上がるため、1種類で全市場に対応させたい。そのうえでオフローダーとしての性能要求(極低回転での一定のトルク)、燃料品質に対する寛容度、販売価格などを考慮した結果、この選択になった。理解はできるが、別の選択肢“も”あってよいのではないか。日本では排気量が小さければ税制上有利でもあるし。長く売るクルマなので今後に期待したい。 トランスミッションについて。ジムニー、シエラともに5MTと4ATを選択できる。どちらを選んでも大勢に影響はないが、5MTのほうが常時エンジンの回転を自分のコントロール下に置くことができる分、痛痒を感じにくいかもしれない。ギアリングはやや異なるものの、どちらも基本的に先代からのキャリーオーバーだ。しかたない。エンジンが縦置きなので他の軽自動車用のATもMTも使えない。かといって1車種のために新設計するわけにもいかないのだ。技術的にやれないわけではないが、価格に反映されてしまう。 スクエアな居住空間は思った以上に広い新型はパッケージングに優れる。軽自動車は長さも幅も上限が定められているので、先代よりもすごく広くするのは不可能だが、新型は車高が増した上に車体上部の絞り込みがほとんどないボクシーなデザインを採用したため、ヘッドクリアランスが増した。 横開きのハッチゲート(運転席が右にあるのでヒンジを左にして欲しいのだが実際は逆)を開くと最後部にリアシート背もたれがあり、4人乗ったら荷物はほとんど入らない。しかし背もたれを倒すとフラットでスクエアな空間が広がる。特に荷室幅1300mmは立派。軽自動車に限らず小型車でも荷室幅が1300mmに達するクルマは少ない。期待せず、どれくらい幅が足りないのかを試すつもりでゴルフバッグを入れてみたら真横に収まって驚いた。ジムニーがゴルフに向いているというつもりはないが、この幅広さは何を積載するうえでもアドバンテージとなるはず。助手席の背もたれを前に倒すことができるので、その気になれば長尺物も収められるし、マットレスを用意すれば車内泊もできる。廉価グレードを除いてリアシートは分割可倒式なので、1~2人と大荷物、3人とそこそこの荷物、4人とわずかな荷物という具合に使い分けられる。 じゃあ幅広のシエラならもっと荷物が入るはずだと思っている方がいるかもしれないが、そうではない。シエラの全幅は1645mmとジムニーのそれ(1475mm)よりも170mm広いが、これはジムニーよりもタイヤを外側に配置し(タイヤ自体も太い)、その分を覆うオーバーフェンダーが装着されているからであって、ボディのつくりはジムニーと同じ。だから室内や荷室容量もジムニーと同じだ。乗車定員も4名のまま。ハスラーとクロスビーは同じように見えてそれぞれ専用ボディで広さはまったく異なるし、乗車定員数も違う。ジムニーとシエラで同じことをしても面白いと思うし、ジープ・ラングラーアンリミテッドのようにホイールベースを延長して5ドア化しても面白そうだが、スズキはそのことには興味がないようだ。 今回の試乗は時間と場所が限られていて、ジムニーもシエラも高速走行を試すことができていないので、これ1台で趣味と実用を兼ねることができるかどうかという総合的な評価を下せないのが歯がゆいが、一般道での挙動、悪路走破性、ユーティリティー性など、確認できた部分については不満がないどころか大満足。欲しいと思わせた。これがニッポンのコンパクトオフローダーの最新版だと世界に自慢したい。 スペック【 ジムニー XG 4WD(5MT) 】 【 ジムニーシエラ JL 4WD(5MT) 】 |
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