軽量化しながらコストダウンが裏テーマスバル WRXの500台限定モデルである「STI タイプ RA-R」を群馬サイクルスポーツセンター(通称:グンサイ)で試乗した。 まず断っておかねばならないのはこれが即日完売してしまったこと。やはり限定車であった「S208」が一番安いモデルでも税込みで626万4000円、最上級モデルの「NBR チャレンジパッケージ カーボンリヤウィング」では710万6400円と国産スポーツモデルとしては超高額なプライスとなってしまったことから、「なんとか500万円を切る価格で登場させたかった」というSTI開発陣の熱意が通じたわけだが、それにしても499万8240円もするクルマがあっという間に完売したというのだから驚いた。 そんな「RA-R」の特徴はというと、まず軽量化への徹底した姿勢が挙げられる。それはインプレッサ時代(2010年)に軽量モデルであるスペックCをベースに仕立てられた「R205」と同じ文法であり、「RA-R」クレジットとしては2007年以来の復活となる。 では実際にどれほどの軽量化がなされたのかというと、その車重は標準仕様のWRXに対して-10kg、限定モデルであったS208と比較して-30kgとなっている。つまり軽量化をひとつの理由として、より買いやすいコンプリートモデルをデリバリーすることが、今回の裏テーマだったとボクは推測している。 走りに直接関係しない装備を省略ただしその軽量化メニューは、超が付くほどマニアックだ。目立つところではBBS社製の18インチ鍛造ホイールを採用し、これにミシュラン「パイロットスポーツ4S(PS4S)」を組み合わせた。BBSはスーパーGTにおける現在のパートナーであり、ミシュランも'13年から2年間を共にした間柄だった。 ちなみにPS4Sはパイロットスポーツシリーズでも「CUP2」に次ぐハイスペックタイヤであり、その軽さと性能のバランスがRA-Rに一番マッチングしたことからSTIが熱望。これにミシュランも応える形で、日本にはラインナップされない245/40R18サイズが導入されたという美談が付く。 さらに限定モデルに相応しいところでは、なんとエアロドアミラーカバーにドライカーボンを用いた。このミラーカバーは表面に形取られた清流フィンが空力パーツとしても機能し、RA-Rのフロントリフト量を4%も低減させたというのだが、カバードタイプだと軽量化の意味がなくなってしまうという理由で、純正ミラーの表側を外して装着されているのである。 この他にも快適性をなるべく下げないで済む場所としてトランクルームを選び、スペアタイヤパンのメルシートを省略した。またフロントフードインシュレーターやフロア下のアンダーカバーといった防音材さえもが取り払われている。 ウォッシャータンクも4リッターから2リッターへと縮小されるという細かさ。そしてヘッドライトウォッシャーやリアワイパーも省略された。室内ではサイドシルプレートやリアのアームレストまで、“走りに直接関係しない”装備が極力取り払われた。代わりにそのスパルタンさを表す証として、STI30周年記念エンブレムや、イメージカラーであるチェリーレッドストライプのフロントグリル(およびリアバンパー)などが与えられたのである。 エンジンの熟成ぶりに感心RA-Rが軽量化にこだわった理由は、コストを下げながら性能を上げるため。つまりパワーウェイトレシオ(以下、PWR)を下げようとしたのだ。PWRは1馬力当たりが加速させる重量を示しているから、数値が小さいほど性能が高いということになる。その結果1480kgとなった車両重量を329psのエンジン出力で割ると、PWRは4.498kg/psになった。これは当然ながら同じエンジンを搭載するS208の4.598kgよりも低い値である。 一般的にPWRが5を切る数値を示すと、高性能スポーツカーの仲間入りをすると言われている。その点でRA-Rは4.498kg/psと優れた値を示しているが、たとえばフェラーリ488GTB(車重:1370kg、出力:670ps、PWR:2.04kg/ps!!)といった欧州スーパースポーツに比べれば、倍以上の数値となっている。それでもRA-Rの加速に退屈どころか恐ろしさすら感じるのは、WRXが4WDターボというパッケージングを持っているから。その高いトラクション性能が、329psのパワーを余すことなく路面へと伝えてくれるからである。 ただその速さ以上に素晴らしいと感じたのは、エンジンの熟成ぶりだった。低重心で左右対称なレイアウトを持つことから運動性能は高くとも、横方向にブロックを伸ばすことでどうしてもストロークが稼げない水平対向エンジン。さらに1994ccという排気量からパワーを絞り出す方法としてターボを選んだため、どうしてもターボラグの影響が大きく出てしまう。 これをいかに解決するのかがスバルとSTIの歴史だったわけだが、このエンジンは実に“待ち”が少ない。エンジン回転が2000rpmまで落ちたような状況からアクセルを全開にしても、たとえそれが3速のギアを選んでいても、もたつくことなく7000回転後半まで吹け上がってくれるのである。 またパーシャルで留めるような場面からアクセルをジワッと踏み込んでも、ギクシャク感を伴うことなく、過給がきれいに追従してくれる。速さは感じてもその質が暴力的じゃないのは、こうしたパワーの出し方に洗練を帯びたことと、軽量化したとはいえ通算4代目となったWRXの、基本骨格の重さの両方が影響している。 ただいくら爆発的ではないと言ってもフロントウィンドから流れる景色は恐ろしいほど速い。左右を緑で遮られたグンサイだからということも十分あり得るが、感心を通り越して呆れるほど速いと思う。そしてその速さをアクセル操作でスムーズにコントロールできることに、感動を覚えたのである。 ボディ剛性が足りず操縦性に若干難ありこのパワフルかつスムーズな出力特性は、まずターボの軸受けに専用のボールベアリングを採用したことで得られた。またピストン及びコンロッドは量産部品よりも公差が50%も抑えられた。これ以外にもクランクシャフトは85%、フライホイールやクラッチカバーには50%の回転公差低減を施したダイナミックバランスが取られたというのである。つまりこれは、メーカーが施したフルバランスドエンジン。クルマ好きにとって、ひとつの究極なのである。 エミッションコントロールの関係から次世代への継続が難しいのでは? と言われている名機EJ20ターボ。つまりその最終究極系を手に入れるということだけでも、RA-Rを購入する意義はあったと言うことができる。 ただこのRA-Rに残念な部分があるとすれば、それは操縦性だ。フロントを倒立式としてストラットサスペンションの弱点である剛性を高め、車高を10mm下げた足回りはガッシリとしている。しかし若干だがしなやかさに欠け、RA-Rが持つ素晴らしい速さを、安心してぶつけられる懐の深さが感じられないのだ。 具体的にはサスペンションのストローク感が少なく、グンサイのバンピーな路面を越えたときの引き戻され感が強い。突起を乗り越えて再びタイヤが接地したときの“ガツッ!”としたトラクションの激しさが、ちょっと怖い。 これが平坦なサーキットであれば、さほど問題は感じなかったと思う。11:1のレシオに仕上げられたステアリングは、この超クイックなレシオを使い始めたときのような不自然さがなく、しっかりとリセッティングされていたのも好感がもてる。電子制御式センターデフ(DCCD)が優れた回頭性を実現しながらもスタビリティを確保してくれているから、挙動そのものは安定している。しかしどこかに心を許しきれない反発感のようなものが、そわそわと感じられるのである。 それを端的に言ってしまえば、「VAB型」のボディ剛性が、既にSTIの求める速さに対応しきれなくなっているのだと思う。特にこのRA-Rは、動的質感の高さを求めたS208とキャラクターを変えるべく、その足回りをよりレスポンシブな方向へとセッティングしたというからなおさらだ。もしシビックタイプRであれば、同じコースを走ってもより高い安心感で行けたとボクは思う。 ※本文中に一部誤りがあったため修正いたしました。(7月31日) 希に見る刺激もさらにドライバビリティにこだわりをだがいくら“後出しジャンケン”に負けたからと言って、WRXの魅力がなくなるとは思わない。S208のようなウィングや、STIの剛性パーツを盛り込めば、こうした状況は安定方向へと向くのかもしれない。しかし個人的な印象としては、S208と同じかさらにしなやかな足回りを組み込んで、ボディの剛性に合わせた操縦性を与えれば良いと思う。 そういう意味では、ヒール&トゥがやりにくいブレーキとアクセルペダルの高低差を埋めたり、やや遠いと感じられるシフトノブの位置をなんとかしてくれることの方が、硬くて俊敏な足回りを与えるより大切だと思えた。もちろんこれらは生産車の基本構造問題なのだが、スバルと密接な関係を持つSTIなのだから、その段階からドライバビリティにこだわって欲しいのだ。 速さはもう十分。必要なのは日常域から限界領域まで、ドライバーが安心して、思わず感動してしまうようなバランスと接地性、そして操作性を与えることだとボクは思う。スバルWRX STI タイプ RA-Rはヤワになったスポーツカー市場において希に見る刺激的な1台であり、チューニングのベース車として考えれば文句のつけようもないスポーツセダンだ。 しかしまだまだSTIにはやれることがある。だから、もう一回くらいコンプリートモデルを出して欲しい。限定500台の争いに漏れたファンのためにも、それは素晴らしいことだと思うのだが、どうだろう? スペック【 スバル WRX STI タイプ RA-R 】 |
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