日本の道に合わせた1800mmの全幅は守られた新型では大胆なまでの変革を断行する。「クラウン」のチーフエンジニアはそう決めていたという。先代も、イナズマグリルと揶揄される保守層には受け入れがたいデザインを採用したり、ピンクのボディカラーをまとってみたりと色々試してはみたが、ユーザー層は変わらなかった。表面的な変化ではなく、本質から変わらなければ。そう考えるのは当然だろう。 期待や想像を超える変化。その象徴がクラウン初の6ライトを採用したクーペライクなフォルムだ。賛否両論あるだろう。個人的にも、このスタイリングの良否は、まだ判断できないでいる。けれど、従来のアスリートのイナズマグリルなんて呼ばれていたラジエーターグリルが廃されたのにはホッとしたし、とにかく変わるんだという意思が、にじみ出ているのは確かだ。 「ロイヤル」「アスリート」「マジェスタ」というモデル展開も廃止となり、すべてが単にクラウンとなった。従来は、結局どれがクラウンなのかという感じになっていたところもあるだけに、イメージをハッキリさせる意味が込められているに違いない。 一方で、敢えて守った部分もある。たとえば1800mmに抑えられた全幅は、この国での取り回し性を考えてのこと。最小回転半径も5.3メートルと非常に小さい。そしてゴルフバッグ4つを収めるラゲッジスペース。今では輸入車含めて珍しくなった、天井までしっかり覆うトリムも継承されている。惜しいのは電動オープナーが備わらないことだが、何しろ全幅1800mmである。ヒンジを極限までスリム化しなければゴルフバッグ4つを収めることはできず、今回はそちらを優先したのだという。 注目の2段式モニターを採用したインテリア今やコンパクトカーと変わらないこの全幅のおかげで、室内スペースは横方向には決して広いとは言えない。けれどもダッシュボードからドアまでの連続感が意識された造形に加えて、低いフード、スリム化されたフロントピラーなどが開放感を演出していて、実際には狭苦しく感じるようなことはない。 このインテリアでは2段式のモニターも注目だ。直感的な操作にはタッチパネルが一番だが、視認性を考えればモニターは遠くに置きたい。その相反する要求を満たすための策だが、使ってみればすぐに慣れる。 但し、地図を操作したいのに、下段のモニターに手を伸ばし、地図操作画面に切り替えてというワンアクションが必要となるのは、直感的とは言い難い。細かなところだが、毎日使うとなれば気になりそう。コネクテッド諸機能の呼び出し方も含めて、もう少し動線をスッキリさせたいところではある。 後席の居住性も不満は無い。長いホイールベースによりスペース自体に余裕があるし、6ライトのデザインは開放感と余裕あるヘッドルームをもたらしている。単にデザイン優先ではないのだ。 すぐに感じられるのは軽やかさと上質な乗り味肝心な走りに関する部分は、ほぼすべてが刷新されている。車体の基本骨格として用いられているのはTNGAのGA-Lプラットフォーム。「レクサス LC」「レクサス LS」に続く、トヨタ ブランドでは初採用である。パワートレインは、まずハイブリッドが直列4気筒2.5Lエンジンを使ったものと、V型6気筒3.5Lエンジンを採用して10段変速制御を取り入れたマルチステージハイブリッドシステムの2種類を設定し、更に直列4気筒2.0L直噴ターボエンジンも8速ATとの組み合わせで用意される。 まずステアリングを握ったのは、その2Lターボエンジンを積んだ2.0 RS Advance。走り出して、すぐに感じたのは軽やかさだ。ボディは決して重々しい感じではないのにカッチリとした剛性感があり、骨格の強靱さを感じさせる。 サスペンションの動きも、とてもスムーズ。スポーティ仕立て故に低速域ではそれなりに硬いながらもカドは丸められているし、石畳のような路面でもブルブルとした振動に見舞われることもない、とても上質な乗り味を実現しているのだ。減衰力の切り替え幅が大きく、また速度も速いリニアソレノイドAVS=可変ダンピングシステムの採用も、当然効いているのだろう。 雑味の無いクリアな操舵感を示すステアリングを切り込めば、フットワークは実に軽快。エンジンも気持ち良く吹け上がり、スポーティな走りを楽しめる。但し強いて言えば、豊潤さだったりしっとり感だったりというものは薄めかもしれない。 2.5Gはもっともクラウンらしいすっぴんグレードそう感じる人にとって最良の選択肢となりそうなのが、マルチステージハイブリッドシステムを搭載する3.5 G-Executiveだ。V型6気筒エンジンの滑らかな回転上昇と心地よいサウンドはワンランク上の上質感を味わわせてくれるし、電気モーターならではの豊かなトルクは、ラフにアクセルを踏み込むと瞬間的にホイールスピンを起こさせるほどで、頬緩ませるのに十分だ。 この日、最後に乗ったのはハイブリッドの2.5G。シート地はファブリックで、ダッシュボードがレザー張りではないなど内装はシンプルだが、丁寧な作り込みのおかげで寂しく見えたりはしない。スイッチ類の操作感の良さなど、美点はすべてのモデルに共通である。 走らせても、案外トルクは十分に出ていて扱いやすく、これはこれで不足を感じさせることはなかった。しかも燃費計を見れば、表示されているのは、3.5Lハイブリッドの1.5倍近い数字である。トータルで見た時の満足感は大きい。 タイヤは17インチサイズ。大きなうねりを通過した時などの、豊かなエアボリュームを感じる柔らかな乗り心地が好印象だ。但し、舗装が荒れたところではコツコツという感触が目立つ感もあった。これは、エコ志向の銘柄のチョイスに拠るものかもしれない。 主張は決して強くなく、実際の乗り味も穏やかで大人しい。その意味ではもっともクラウンっぽいのはコレかもしれないとも思えた。但し、その奥底にはベースのポテンシャルの向上ぶりをひしひしと実感できる。すっぴんだからこそ、却ってその辺りが引き立っているとも言えなくはなさそうだ。 クラウンは軽快になった。それが試乗を終えての実感である。実際にその走りが軽やかさを帯びたというだけでなく、歴史の呪縛からいい意味で解き放たれ、身軽になったような印象が漂う。もはや薄れかけていたステイタスシンボル的な役割はある程度見切って、パーソナルカーとして、自分の満足のためのクルマとしての側面が強くなっているように感じられる辺りは、まさに今の時代のプレミアムカーのあり方ではないだろうか。 実際にどれだけの新しいユーザーを惹き付けられるのかは解らない。けれど少なくとも私にとって、これなら真剣に自分のクルマとして向き合うことも出来るかもしれないと、クラウンに対して初めて感じたのは本当である。あとは、見た目だけではないその変化を、いかに世の中に伝えていくかである。 スペック例【 2.0 RS アドバンス 】 【 2.5 ハイブリッド G 】 【 3.5 ハイブリッド G エグゼクティブ 】 |
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