デビューから14年、CLSの役割は変わっていないメルセデス・ベンツCLSとは、「ええかっこしぃ」のクルマである。少しぐらい居住空間を犠牲にしてもいいから、車高を低くしてクーペみたいなカッコいいクルマにする、というコンセプトだ。2004年に初代がデビューした時には、賛否がわかれた。賛は「超かっけぇ」というもので、否は「メルセデス・ベンツたるものが実用性を犠牲にしてカッコに走るとは何事だ」というものだった。なかには、「W123(質実剛健を絵に描いたような、1970年代に開発されたミディアムクラスの名車)に謝れ!」とか、「バブル期のトヨタ・カリーナEDは早かった」などなど、さまざまな意見が噴出した。 あれから14年。それはサッカーW杯が4回も開催されるぐらいの長い年月で、いまでは4ドアクーペというスタイルに苦言を呈する人は少なくなり、CLSのフォロワーも続々と登場している。機能性や実用性に優れたミニバンやSUVなどが選び放題の今、4ドアセダンの存在意義は「カッコいい」ということである。カッコに走ったメルセデス・ベンツの戦略は間違っていなかった。 そしてこの度、3代目となるCLSが日本でもお披露目された。初代が登場してから14年を経たけれど、メルセデス・ベンツにおけるCLSの役割は変わっていない。それは新しいデザインの方向を打ち出すということで、CLSはこれからメルセデス・ベンツの造形がどのように変化するかを示している。というわけで、まずはデザインについてふれたい。 近年のメルセデス・ベンツは、「Sensual Purity」をデザインのテーマにしている。官能的な純粋さ、といったような意味で、新型CLSはこのデザイン思想を一歩押し進めたという。つまり「Sensual Purity 2.0」であり、官能的な純粋さは第2章の幕を開けたということになる。 パッと見て、従来との違いがわかりやすいのは、ボディのサイドからキャラクターラインが消えていることだ。新型の発表会の席で「最近のモデルのデザインは、キャラクターラインやエッジ部分がビジィになりすぎた」とその経緯を説明していたが、新型は確かにすっきりとした印象だ。と同時に、これまで目が行きがちだったキャラクターラインというディティールよりも、全体の伸びやかなフォルムを見るようになり、見方が変わったことで新鮮な印象を受けた。 ちなみに、2月に発表された新型Aクラスも似たような手法でデザインされているので、メルセデス・ベンツは全体としてこの方向に舵を切ったと言っていいだろう。世界のプレミアムブランドを見渡せば、レクサスやBMWなど、凝ったラインでデザインを見せる手法が多い。メルセデス・ベンツが独自路線を歩むのか、それとも他社も追従して世界的なトレンドとなるのか、見守っていきたい。 走り出して真っ先に感じたのは乗り心地のよさエクステリアのデザインについては以上。試乗を開始する。新型CLSに用意されるパワートレーンは2種類。2リッター直列4気筒ディーゼルターボ(最高出力194ps)と、新開発の3リッター直列6気筒直噴ガソリンターボ(最高出力367ps)だ。まずは前者、Eクラスにも用いられるディーゼルエンジンを搭載したモデル、CLS 220 d スポーツのステアリングホイールを握る。 インテリアは最新のメルセデス・ベンツの流儀に則ったもの。メーターパネルとカーナビなどを表示する2つの液晶画面を1枚のガラスで覆い、カーナビなどはパソコンのマウスのようなタッチパッドで操作する。見た目もインターフェイスも実にモダンで、そこにステッチの美しいレザーシートなどの伝統的な高級車のテイストが組み合わされ、「クラシック・ミーツ・モダン」な世界観のインテリアを構成している。 走り出して真っ先に感じるのは乗り心地のよさだ。路面の凸凹を乗り越える瞬間のショックがマイルドで、それでいながら凸凹を乗り越えた後の揺れはすぐに収束する。ソフトな乗り心地と、車体をビシッと安定させること、相反するふたつを見事に両立している。アメとムチを使い分けているというイメージだ。 試乗車は、エクスクルーシブパッケージのオプション(57万5000円)を装着していたので、足まわりはCLS 450 4MATIC スポーツと同じ「エア ボディ コントロール サスペンション」となる。簡単に説明するとエアサスペンションと可変ダンパーを組み合わせたもので、普通に市街地を走るような場面ではエアサスのふんわり軽い乗り心地を享受できる。一方、ハードなブレーキングやコーナリング時にはスプリングレートを上げてビシッと引き締める。 山道に入って元気よく走る時にダイナミックセレクトで「Sport」「Sport+」モードを選ぶと、足まわりが筋肉質になる。乗り心地は多少犠牲になるもののロールは明らかに少なくなり、小気味良いコーナリングを楽しむことができる。街中や高速をゆったり走れるし、ワインディングで攻め込んでもついてくる、二刀流の足まわりだ。 最新の運転支援機能の滑らかさに感心したディーゼルエンジンは静かで滑らか。1600rpmという極低回転から400Nmという最大トルクを発生するだけあって、ストップ&ゴーが続く街中でも扱いやすい特性を持つ。ただし、街中で窓を開けると、ディーゼルらしい「ガ行」の音がそれなりに聞こえてきた。この事実から察するに、相当念入りに遮音対策が施されているのだろう。 高速道路やワインディングロードに入っても、バカっ速さはないものの、余裕を持って走れるぐらいの十分なパワーがある。こうした場面で多少回転が上がっても、エンジンフィールも音も滑らかで、まだ直6の直噴ガソリンターボは乗っていなかったにもかかわらず、約250万円の価格差を考えればこちらで十分ではないかと思う。 新型CLSには、Sクラスなどに準じる最新の運転支援機能が標準装備される。まずは先行車両に追従する「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」を試す。 この機能を試そうとして真っ先に気づくのは、操作性の良さだ。ステアリングホイールのスポーク上にスイッチが集中しており、これを親指でちょいちょいと操作すると作動する。慣れれば、メーターパネルに表示される情報をチェックしながら、視線を前方から外さずに、ブラインドタッチで設定できる。 設定を完了して追従を開始すると、今度はその作動の滑らかさに感心する。設定した車間距離を保って加減速しながら前のクルマについて行くわけだけれど、その加減速が滑らかなのだ。カメラとレーダーセンサーからの情報を読み取ってパワートレーンを制御する、その制御のキメが細かいと感じる。高速道路の渋滞で停止したとき、30秒以内に先行車が発進した場合には自動で発進する機能が備わる、と事前のレクチャーで聞いていたけれど、幸か不幸か渋滞には遭遇しなかったので、この機能を試すことはできなかった。 続いて、高速道路でウィンカーを操作すると周囲の安全を確認しながら自動で車線変更を行う「アクティブレーンチェンジングアシスト」を試す。これも以前にEクラスで試した時よりも遙かに動きが洗練されていた。Eクラスの時は「乱暴なタクシーより上手」だと思ったけれど、今度は「普通のタクシーと同じぐらいスムーズ」だと感じた。自動運転が近くに迫っていることを体感した。 予算に余裕があればガソリンエンジンがおすすめCLS 450 4マチック スポーツに乗り換えて気づくのは、エンジン始動のスムーズさだ。アイドリングストップ状態からエンジンが再始動する時など、耳をそばだてないと気づかないくらい、こっそりエンジンがスタートする。 この直噴ガソリンターボエンジンとトランスミッションの間には、ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)と呼ばれる電気モーターが配置される。ISGはスターターとジェネレーターの役割も担い、減速時には回生ブレーキで発電を行い、リチウムイオンバッテリーに蓄える。 こうして、効率アップを請け負う一方で、加速が必要な場面ではエンジンをアシストする。メルセデス・ベンツはあえてそう表現しないけれど、メーカーによっては「HYBRID」のステッカーを貼るところもあるシステムだ。ちなみにエンジンとISG、トランスミッションの間にクラッチは存在しないので、エンジンを切り離してモーターだけで走るEV走行はできない。 エンジンの始動に感銘を受けたけれど、走り出したらこのエンジンはもっともっと良かった。低回転域からのしっかりとしたトルク感、滑らかに回転を上げるエンジンフィール。タイトなコーナーから立ち上がるような場面でのピックアップもいい。欲しいところで、パンッと駆動力が伝わる。ドライバーはモーターの存在を感知できないけれど、おそらく必要なところでモーターがアシストしているのだろう。 価格差を考えてディーゼル、と短絡的に考えていたけれど、この凪の海を進むヨットのような乗り心地には、すべてがスムーズなガソリンエンジンのほうがしっくりくる。クルマのキャラから考えて、予算に余裕があればガソリンを選びたい。というわけで、見た目だけでなく走らせてもハンサムでジェントルなCLS。高級SUV全盛の今だからこそ、こんなクルマが輝いて見える。 スペック【 CLS 220 d スポーツ 】 【 CLS 450 4マチック スポーツ (ISG搭載モデル) 】 |
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