ルビコントレイルという過酷なオフロードで開発されてきた新型ラングラーおよびラングラーアンリミテッドの試乗会に参加した。舞台はルビコントレイル。アメリカ・カリフォルニア州レイクタホ近くの過酷なオフロードで知られる峠道だ。峠といってもハチロクやロードスターがドリフトするような舗装路ではなく、未舗装もいいとこの岩がごろごろ転がる上り坂と下り坂の連続。人間ならところどころ手も使って進んでいくようなルートだ。 その歴史は古く、19世紀半ばに同州で金が採れるという噂が広まって採掘者が殺到したゴールドラッシュと関係する。東部から西部の金脈へ到達するにはどうしてもシエラネバダ山脈を超えなくてはならない。ルビコントレイルはそのための峠道だった。今ではオフロード走行愛好家の聖地として親しまれているが、元々は一攫千金を目指し命がけで馬車を往復させたルートなのだ。 そのルビコントレイルとジープ・ラングラーは切っても切れない関係にある。歴代ラングラーはルビコントレイルで開発され、悪路走破性を高めてきたからだ。ラングラーの中で最も悪路走破性が高いモデルは伝統的に「ルビコン」と名付けられるが、それはルビコントレイルをクリアできるクルマという証でもある。 2L直4ターボを設定し、ATは5速から8速に新型ラングラー(JL型)が昨秋LAショーで初お披露目されたとき、その見た目の変わらなさが歓迎された。現行のJK型は過去最も成功したラングラーなので大きく変える必要はなかったということもあるが、そもそもラングラーは歴代できるだけ変わらないことが期待されてきたクルマだ。新型でも丸目2灯、7スロットグリル、スクエアなボディに前後オーバーフェンダーと、お約束は総じて守られた。正確には変わっていないのではなく、変わっていないように見せているだけだ。よく見るとフロントグリルは上半分がスラントし、ハードトップの角がわずかにすぼめられるなど、このカタチのまま空気抵抗を減じる対策が施されている。 サイズはやや大きくなって、アンリミテッドではホイールベースが3000mmを超えた。これは主に後席の快適性向上のため。また素材にも変化が見られ、エンジンフード、ドア、フロントウィンドウフレームなどがアルミ化されたほか、リアゲートはマグネシウム製に。当然いずれも軽量化のためだ。空気抵抗削減も軽量化も効率向上、すなわち燃費向上のため。本格的なオフローダーでさえもそこから逃れられない時代となった。もっと根本的な効率向上対策が新エンジンの追加だ。従来の3.6リッターV6エンジンに加え、2リッター直4ターボエンジンがラインアップに加わった。いずれもアイドリングストップが付き、先代から一気に3段増し! の8速ATとの組み合わせとなる。 現行型は2ドアのラングラーと4ドアのアンリミテッドが同時に発売されたが、新型は本国では同時に登場するものの、日本仕様としてこの秋最初に導入されるのはアンリミテッドのみだ。 エンジンは3.6リッターV6のほうが若干好印象泥濘路、砂地、雪上、氷上などオフロードにもいろいろあるが、今回のルビコントレイルは岩場。クルマ全体がのっかるほど巨大な岩からソフトボール大の岩まで、無数の岩が乾いた大地に広がっている。最初に3.6リッターV6エンジンを搭載したアンリミテッドで走行した。このエンジン、リファインされたという説明はあったが基本的に従来と同じものだ。乗った印象も同じ。パワーもトルクもピーク値を追求するのではなく、低回転からなるべく広い範囲で粘り強く力を発揮する性格のエンジンだ。 ローレンジに入れ、5km/h未満の歩くような速度で岩をひとつひとつ乗り越えていく。ルビコンのローレンジは4:1。すなわちトルクが約4倍に増幅されたのと同様の効果をもつわけで、どんな路面に対しても停止してしまうようなことはなく、乗り上げて進んでいくのが痛快。同時にサスペンションのストロークと動きのスムーズさに驚かされる。ルビコンにはフロントスウェイバーディスコネクトという機能が備わる。これは低速走行時にスタビライザーの機能を一時的になくすシステムで、作動させるとサスペンションストロークが最大化され、片輪がボディにめり込むように縮んでいる時、もう片輪が呆れるほど垂れ下がるようになる。これによって4輪とも路面に接地している状態を保つことができ、常にトラクションが確保される。それにしても4:1のローレンジは機械式のヒルディセントコントロールのようなもの。急な下り坂でアクセルから足を離すとじわりじわりと下ってくれる。 試乗中、何度か1輪ないし2輪が接地しきれずトラクションを失ってしまったことがあったが、あわてずにリアデフロックのスイッチを入れると、簡単に局面を打開することができた。今回はお世話になることはなかったが、ルビコンはさらにフロントデフもロックさせることができる。これはつまり4輪が完全に同期され同じだけ回転することを意味し、4輪車としてこれ以上ないトラクション能力を発揮する。トラクションの鬼となるわけだ。ただしこの状態ではステアリングを切ってもほとんど曲がることができない。脱出のための最終手段だ。なお今回は試乗できず、日本導入のタイミングも不明だが、サハラグレードはラングラー史上初のセンターデフ付きフルタイム4WDシステムが備わるという。 2リッター直4ターボのアンリミテッドに乗り換える。オフロード走行の印象は3.6リッターV6とほとんど変わらない。自然吸気のためか岩場でのアクセルワークにおいてほんの少しV6のほうがレスポンシブに思えたが、その差はわずか。ただオンロード走行では、スペックで優れる2リッターターボのほうがトルキーで好印象なのではないかという事前の予想が外れ、体感的なパワー感は変わらず、回転が伸びやかな分、V6のほうが若干好印象だった。ターボエンジンのほうが車重が10kg強重いとはいえ(ルビコンの場合)、パワーアップ分が相殺されるほどでもないのだが……。とはいえ片方がよくてもう片方がダメというわけではなく、好みで決めてよいキャラクターの違いという印象だ。日本では2リッターターボが税制面で有利になるのが悩ましい。 オンロードの快適性や安全装備が今後の課題今年はオフローダー当たり年。メルセデス・ベンツGクラス、スズキ・ジムニーに続き、秋にラングラーが導入されることで、同じ年に本格オフローダーが3モデルも日本で発売されることになった。3モデルをざっくり比較すると、これまで3モデルとも前後リジッドアクスルだったのが、Gクラスのみ新型でフロント独立懸架に切り替わった。これによってオンロードでの乗り心地が数段レベルアップした。ジムニーはジムニーで前後リジッドを堅持したが、ラダーフレームを大幅補強したことによってやはりオンロードでの乗り心地が大幅に改善された。 こうなるとラングラーも前後リジッドアクスルを維持しながらも何らかの方法でオンロードでの快適性を向上させてくるはず! と期待に胸を膨らませて試乗したが、さほど変化は見られなかった。走行中に何らかの入力があるとブルッと車体が揺れる昔ながらのラダーフレームシャシー車のくせはそのまま残っている。ラングラーはラングラーだった。そもそも快適性を最優先する人が選ぶクルマではない。どういう成り立ちでどういう目的のクルマかを理解した人のみが選ぶべきで、見た目だけに惹かれて飛びつくべきクルマではない。見た目で飛びついてから初めてラングラーの世界を理解するのもよいかもしれない。 残念なのは、10年ぶりのモデルチェンジにしては安全装備が乏しいこと。ブラインドスポットモニタリング(斜め後方の死角から近づく車両を知らせる)とリアクロスパスディテクション(後方を横切ろうと接近する車両を知らせる)はオプションとして設定されるが、自動ブレーキ、ACC、レーンキーピングアシストなどは備わらない。今後に期待。 スペック例【 ラングラー ルビコン 4ドア 3.6L V6 】 |
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