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ホンダ クラリティPHEVは今出すべき高級セダンだったのか?

2018-8-22 07:00| post: biteme| view: 897| コメント: 0|著者: 文:五味 康隆 /写真:小林 俊樹

摘要: 航続距離の他にもホンダらしい話題が欲しかった 充電して電気自動車として走れる一方、電池が減ってきたら通常のハイブリッドモデルのようにエンジンを稼働させてガソリンで走る。この“外からプラグイン(充電)で ...

ホンダ クラリティPHEVは今出すべき高級セダンだったのか?

航続距離の他にもホンダらしい話題が欲しかった

充電して電気自動車として走れる一方、電池が減ってきたら通常のハイブリッドモデルのようにエンジンを稼働させてガソリンで走る。この“外からプラグイン(充電)できるハイブリッド”=PHEV、PHVは、知るほどにコンセプト設計が難しい製品だ。EV航続距離をどうするか、急速充電に対応するのか、エンジン排気量の選定や、そもそもどのようなハイブリッド形式にするかなど、パッケージの選択肢は無数にある。しかも、その時々の背景や各国の支援策が絡んできて、さらに複雑になる。

そんななか、ホンダから登場した「クラリティPHEV」には「あと1、2年でも早く登場していれば…」という歯がゆい思いを抱いてしまった。まだ街中を走っているPHEV車両の台数は少ないとはいえ、このところ幾つかのメーカーがPHEVモデルを揃えはじめているから、話題性もいささか乏しい。注目される機能や個性が少なければ、次世代車に乗り替えるだけのモチベーションが弱くなるものだ。

もちろん、電気だけで航続距離100kmオーバーの実力を備えていることはクラリティPHEV最大の特徴として挙げられる。いま販売されているPHEVのなかで、このEV航続距離がトップランナーであることは事実だ。

しかし、充電環境がマンション等で整わなかったり、環境的には可能でも毎回充電なんて面倒くさいと感じている人も多いなど、まだ今の市場環境を踏まえると、航続距離の長さの前に、何かもっとホンダらしい仕上げがあったように思えてならない。

3.0L並の加速力と長いEV走行レンジが自慢

クルマのスペックから見ていこう。クラリティPHEVは17kWhものバッテリーを床下に積み、カタログ数値のJC08モードで航続距離は114.6km、WLTCモードで101kmを誇る。試乗車で確認するに、実際の航続距離は満充電で65~80km程度に落ち着きそうだ。その電動ドライブの動力源には、最高出力184ps、最大トルク315Nmという、自然吸気エンジン換算で排気量 3.0L級の加速力を発揮する駆動モーターが活躍する。

街中での加速などは一切のストレスはなく、高速道路の追い越し加速はもちろん、飛ばし屋が常用しそうな速度域でも必要十分だろう。しかもその加速は、変速感がないのは構造上当然として、アクセル操作にとても素直でどこにも段付き感がなく、滑らかな速度変化が高級感や上質感を高めてくれる。滑らかで上質な世界観はガソリン車では得られないものであり、高級セダンとしてのクラリティのベースを作り上げている。

電動モーターは高速領域で加速の伸び感が弱くなりがちだが(※クラリティの場合、常識的な速度領域ではあまり体験しないはず)、強い加速が欲しいときや、バッテリー残量が減ったとき、さらにはドライバーがバッテリー消費を抑えるモードを選択した際には1.5Lエンジンを組み合わせたエンジン直結クラッチ付きの2モーターハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-MMD」が、気持ちよくクルマを走らせる。

ちなみに、そのHVモードボタンを長押しすると、バッテリーチャージモードになるなど、モード選択の幅も広い。という風に仕上がりは悪くないが、もう一歩、例えばオデッセイのハイブリッドに積んでいる2.0Lエンジンを組み合わせ、スポーツモードではパワーや鋭さなどを持ち合わせたスポーツPHEVの世界を予感させても良かったかもしれない。

EV走行を助けるペダルのクリック感が好印象

そんななか、ホンダらしいと表現できる味付けは、走りを意識したパドルシフト制御だ。日産やBMWのアクセルを戻すだけで強い回生ブレーキによる減速感を出すワンペダルドライブはあえて行わず、既存モデルから違和感なく乗り換えられる。イメージは「アウトランダーPHEV」に近く、左側のマイナスパドルを操作すると減速率が強まる。減速率は最大0.11Gに抑えられて、EV感や次世代感は弱まるが、ガソリン車で1速シフトダウンした感覚に近く抵抗なく使いこなせる。しかし、これも価格など度外視して言えば、いま出す商品であれば、他メーカーで好評を得ているワンペダルを、モードで選択できるようにしても良かったかもしれない。

一方、EV走行時にメーター内の表示に加えて、ペダルに抵抗感のようなクリック感(ECONモード時)を持たせ、それ以上踏むとエンジンが掛かることを感覚でも伝えているのは好印象だ。プリウスPHVを所有している立場からすると、これは有難い。EVで走りたいときに不意にエンジンが掛かると損した気分になりやすいし、エンジンが掛からないように気を遣う必要もなくなり、気持ちよくEVドライブを使いこなせるからだ。

ハンドリングや乗り味は癖が若干あるが次世代感が出せている。特にバッテリーの床下配置による低重心が効いていて、足回りは路面にあおられて若干フワッとする時もあるが、基本的に柔軟性に富み、突き上げも緩和され、バッテリーの重さを上手く使った味付けになっている。

カーブでの安定感もあるのだが、気になるのはその際のハンドルの感触。高速道路での直進安定性や連続するカーブを曲がる際の操作性はピッタリなのだが、低速走行時は若干重く抵抗感を感じる。スポーツモードにした時だけ今の操作感で、街中はもっと軽いほうがいいかもしれない。

総合的に静かだと感じるクルマを作る視点が欠けている

そんななか、最も微妙なのが静粛性だ。EV走行距離が強みであり、そのEV走行時の移動品質にこそクラリティPHEVの真骨頂があると勝手に期待したのだが、音としては抑えられているが静かとは言えないのだ。低速時はロードノイズ、高速走行時は風切り音があり、他の音が静かな分だけその音が目立つ。また荒れたザラメ路面だとフロア振動の収束に時間が掛かるのも気になった。

もちろん高速道路の追い越し車線をエンジンの振動や音もなく滑らかに走る感覚は病みつきになりそうだし、それを実質70km近い航続距離で味わえるのは立派な魅力だ。しかし、今後の次世代車競争において“ジャパンパワー”の源はモノづくりや、モノを通して感じる体験の質の高さであると考えたとき、ホンダには今までのように(開発陣が縦割りで)要素別に静粛性を追求するだけではなく、総合的に音を判断しながらクルマ全体としての体感的な静粛性を極め、乗り味の質を仕上げるようなステージまで進んでほしいのだ。

別の角度から言えば、いま他がPHEVをラインナップしているなかで、ホンダのPHEVここにあり! を表現するには、これまで指摘した部分も克服した上で、さらに今のホンダらしさを見せてほしかった。さらに言えば、この物足りなさが、588万円というプライスが少々高額に感じてしまう理由にもなっている。

基本パッケージは悪くないが、次の時代を戦えるか?

EVに限りなく近いPHEVを、5人乗り、512Lの十分なラゲッジルームの積載力と、高級セダンに準ずる上質なインテリアとしてパッケージすること自体は決して悪くないのだが、その先が欲しいというのが、クラリティPHEVに触れて率直に感じたことだ。もちろん、正解はひとつではないと思う。

本来ならFCVとPHEVとEVを1つのプラットフォームで効率よく作り分けるクラリティの「3in1コンセプト」にも拍手を送りたいところだが、これもあと1、2年早くEVまで含めて3つが商品になっていたら…と思ってしまう。

実質70kmほど走れる17kWhのバッテリーを搭載しているなら、屋根などにソーラー発電を搭載して、使用環境によってはプリウスPHVのように無充電無給油という夢の直接的エネルギー補給ゼロの世界を見せる手もあった。スマホのアプリを使ったコネクテッド技術も同時に出ているが、トヨタにも共通するが、これもテスラが数年も前から実装しているリモートでの施錠等の機能が、日本メーカーには国交省の認可問題があるとしても欲しくなる。

何にせよ人件費が高い日本において、10年、いや20年後でも競争力のあるジャパンパワー確立のためには、デザインや性能や機能や乗り味において、より質の高い商品を提供する必要がある。開発のスピードアップや柔軟性はもちろん、今までの価値観なども良い意味で壊していく姿勢が求められるだろう。それが今回、ホンダの最新次世代車、クラリティPHEVに触れて改めて感じたことだ。

スペック

【 クラリティ PHEV EX 】
全長×全幅×全高=4915×1875×1480mm
ホイールベース=2750mm
車両重量=1850kg
駆動方式=FF
エンジン=1.5リッター直列4気筒DOHC
最高出力=77kW(105ps)/5500rpm
最大トルク=134Nm(13.7kg-m)/5000rpm
モーター=135kW(184ps)/5000-6000rpm
最大トルク=315Nm(32.1kg-m)/0-2000rpm
使用燃料=レギュラーガソリン
バッテリー=リチウムイオン電池(17.0kWh)
サスペンション=前:マクファーソンストラット式
        後:マルチリンク式
タイヤサイズ=前後235/45R18
JC08モード燃費=28.0km/L
EV航続距離(JC08モード)=114.6km
車両本体価格=588万600円


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