SクラスクーペやコンチネンタルGTがライバル「6シリーズ」に代わってBMWのラグジュアリークーペの最高峰に据えられた「8シリーズ」だが、BMW曰く、このクルマは決して6シリーズの後継車ではないという。8シリーズはラグジュアリークーペのセグメントに投入されるスポーツカーだと彼らは言う。要するに「メルセデス・ベンツ Sクラス クーペ」と正面から対峙し、「ベントレー コンチネンタル」などの市場にも食い込んでいくのが、その使命というわけだ。 実際、そのスタイリングは非常に伸びやかで、まさにラグジュアリーな雰囲気が濃厚。ライバルと見据えるモデル達に負けない存在感を放っている。ボディサイズは全長4843mm×全幅1902mm×全高1341mmで(※840d xDrive クーペ)、実は全長は6シリーズ クーペよりも短いくらいなのだが、見た目にはそうとは信じられないほどだ。特に、古典的スポーツカーの様式美といえるダブルバブルルーフからリアエンドにかけての流れるようなラインは贅沢な匂いに満ちている。 それにしてもこのエクステリア、フォーアイズ、キドニーグリル、L字型のテールライトといった要素は一応は継承されているものの、いずれも解釈はずいぶんと大胆だ。ヘッドライトは4灯というわけではなく、デイタイムライトがそのように区切っているだけだし、キドニーグリルは何と中央で連結されてひとつに。ボディ前後を貫いていたショルダーラインは消えて、フロントフェンダーのエアアウトレットを起点とする抉りがボリューム感あるリアフェンダーへと続く造形となっている。フォルムは美しいし、未だBMW以外に見えるわけではないけれど、特にサイドビューなどは、一瞬でBMWと解る要素は薄まっている感も無くはない。新しいファンはともかく、昔からのBMWファンは、これをどう受け取るのだろうか。 インテリアも、やはり新しい文脈で描き出された。遂に完全デジタル化されたメーターパネルは、ゲームっぽいグラフィックスに戸惑うものの情報はよく整理されている。ヘッドアップディスプレイも大きく、見やすい。センターコンソールはスイッチ類がずらりと並んでいて、先進感という意味ではもう少しという感も。レザーが全面に貼られたダッシュボード、クリスタルを使ったシフトセレクターなども含めて古典的なラグジュアリー感が漂うが、いざ触れてみればスイッチ類は触感フィードバック付きだし、ジェスチャーコントロールも充実しているなど、操作感は未来的だったりもする。 ラグジュアリークーペに相応しいソフトな乗り心地ポルトガル リスボン近郊で開催されたプレス向け国際試乗会で用意されていたのは「M850i xDrive クーペ」であった。ラインナップは現状、これと「840d xDrive クーペ」の2種類のみとなる。 その心臓はV型8気筒4.4Lツインターボエンジンだ…と書くと、「5シリーズ」や「7シリーズ」からの流用かと思われそうだが、実際にはこのエンジン、クランクケースが完全に新しくされるなど中身はほぼ新設計で、最高出力は530ps、最大トルクは750Nmに増強されている。トランスミッションは8速AT。xDriveつまり電子制御式4WDシステムを介して、パワーは4輪に伝達される。 フロントにそれを載せるボディは、キャビン前後の支持構造にはじまりボンネット、ルーフ、ドアにフロントバルクヘッドまでアルミ製とされ、更にダッシュボード内側を走るリーンフォースにはマグネシウムを、センタートンネルにはCFRPを使って軽量、高剛性化を果たしている。更にオプションでCFRP製ルーフも用意される。減量できるのは1kg程度だが、高い位置での1kgはドライビングダイナミクスに少なくない恩恵があるはずだ。 シャシーは、後輪操舵を含むインテグラル・アクティブステアリング、電子制御式ダンパー、電子制御式ディファレンシャルなどが設定され、オプションで可変スタビライザーを用いたアクティブロールスタビリゼーションも用意される。フットワークはM社の手で入念なチューニングが行なわれたといい、特にキャンバー剛性の確保には大きな注意が払われたという。 M社が手がけたという先入観をいい意味で裏切るのが、その乗り心地の柔らかさだ。ドライビングエクスペリエンスコントロールをSPORT、SPORT+に切り替えても決してガツガツとした感触を伝えてくることはなく、入力を優しく受け止めてくれる。優雅に乗りたいビッグクーペだけに、この乗り味は嬉しい。 自然な4WS制御だが限界域では顕著なアンダーも一方、操舵に対するレスポンスは鋭く、それこそステアリングに添えた掌に軽く力を込めた瞬間から曲がりはじめるような軽やかさを備えている。これには後輪操舵を含むインテグレーテッドアクティブステアリングの恩恵が大きいのは明らか。通常、後輪は72km/hまでの速度で前輪とは逆位相に切れるが、SPORT、SPORT+では切り替えポイントが88km/hになる。最大舵角は2.5度。制御が更に緻密になってきたのだろう。後輪が切れていること自体は体感できるが、イヤな動き、違和感はますます無くなっている。 もっとも、エストリル・サーキットで限界域を試すと、さすがに車体が大きく重く、アンダーステアも顕著と感じられた。その分、破綻する心配をしなくて済むとも言えたが、通常時には後輪側に駆動力を寄せているxDriveはじめ、曲げるためのデバイスが満載されていることを思うと、もう少し…と思ってしまう。 フットワークと同様、エンジンも軽快なレスポンスが印象的だ。アクセルペダルを踏む右足の動きに常に遅れ無く、欲しいだけのパワーを取り出すことができるから、パワーもトルクも有り余るほどあるのに持て余すことがない。緻密な吹け上がり、伸び感もさすがの一言である。 そんな具合で、サーキットに持ち込まない限りは走りっぷりに引っかかるような部分は何もなく、優雅にもスポーティにも思い通りに行けるのだが、率直に言ってしまうと新鮮味はさほど強くはないのも事実だ。6シリーズに対してより速さを増し、洗練されているが、たとえばモノコックに大胆にCFRPを使ったカーボン・コア構造の7シリーズは、5シリーズとはまったく違った走りを体感させてくれるが、そこまでの衝撃度は無いかな…という具合。勝手な期待だが、数字が大きくなった分、やはり世界が違うと体感したいと思うのは許されることだろう。 いや、本当にこういうクルマを選ぶ人にしてみれば「何を余裕のないことを言ってるんだ」という話かもしれない。ビッグクーペは、大人の余裕で優雅に乗るべきクルマなのだ。但しそれでも、もっと刺激的な何かを……と考える人のためには、すでにBMWはM8クーペの投入をアナウンス済みである。 スペック【 BMW M850i xDrive 】 【 BMW M840d xDrive 】 |
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