BMWがパートナーとしてベストの組み合わせいやぁまずはめでたい。自国ブランドからスポーツカーという縁起物が登場するのはいつだって慶事だ。まったく新しいスポーツカーが出るのもうれしいが、復活劇はめでたいうえに涙を誘う。2002年、当時の排ガス規制を満たさなくなって生産を終了した「トヨタ スープラ」の17年ぶりの復活は、電化や自動化、それに完検不正問題や金商法違反の疑いなどの話題以外で久々にクルマが広く取り上げられるニュースになるだろう。正式発表日の夜の「ワールドビジネスサテライト」で、事前に試乗したキャスターがクルマを降りた直後に「これはすごいですね」と半笑いで何がすごいのかよくわからないリポートをする姿が目に浮かぶ。おそらく「ガイアの夜明け」も絶賛密着中だろう。「アド街ック天国」も豊田市を取り上げるかもしない。いやミュンヘンか? そうミュンヘン。スープラは復活するが、トヨタが単独で一からつくるわけではない。BMWとの共同開発であり、あちらはオープンスポーツの「Z4」、こちらはクーペのスープラを製品化する。できればメーカーの技術力やセンスを直接的にあらわすスポーツカーは単独で開発してほしいと思うが、どこかと組むのがマストならBMWはパートナーとして最高じゃないか。日本人が長年憧れを抱いてきたブランドだ。両者は元々「次世代技術を融通し合いましょう」みたいな提携だったはずだが、ある時「一緒にスポーツカーつくる?」的な話で盛り上がったのだろうか。 スープラ。憧れたなぁ、A70のターボA。ともあれ試乗だ。しかしなんたることか。袖ヶ浦フォレストレースウェイは雨本降り。ただ結果的には低い速度で限界域を垣間見ることができたので僕にはよかったかもしれない。 Z4と違って燃費を気にしないで開発できた外観。ボディ全体がカムフラージュされ、スタイリングの細かな抑揚などがわかりにくいが、コンパクトだなというのが第一印象だった。プロトタイプということで、来春の発売までにもうひといじりするそうで、サイズやパワースペックなどに関しては一切情報提供なし。ホイールベースが2470mmでZ4と同じということはわかった。2シーターのスープラは+2のリアシートをもつ「86」よりも100mmもホイールベースが短いわけだ。 ドアを開けて乗り込む。内装にもところどころ黒い布が被せられ、デザインが隠されている。が、カーナビなどを操作するダイヤルがBMWのiDriveそのまんま。ウインカーやワイパーのレバーもBMWのものがそのまま使われていると見受けられた。だからモノは基本的にBMWなのだ。 ワイパーを間欠か通常かで迷う程度の雨が降る中、スタート。そんなにたくさん周回できるわけではないので、最初からスポーツボタンを押しておく。クォーンと直6以外ではあり得ない澄んだ音となめらかな回転フィーリングに包まれる。86の100倍くらい気持ちよい。そしてパワフルだ。Z4の場合、最高出力340ps、最大トルク500Nm。スープラも遠からずという感じのはずだ。 ところで、おそらくBMWと細かい契約があり、互いに話せないことのほうが多いのだろう。例えば「この点、Z4とはどう違うのですか?」などと質問してもほとんど返ってこないのだが、しつこく聞いて引き出せたのは、多田哲哉チーフエンジニアの「うち(トヨタ)はこのクルマに関して燃費を一切気にしなかったが、BMWさんはそういうわけにもいかないのではないか」という発言だった。つまりトヨタには他に燃費のよいクルマがあるから仮にスープラの燃費が悪くてもCAFE(企業別平均燃費)をクリアできるが、ハイパフォーマンス車が多いBMWはZ4でも少しでも燃費を向上させたいはずだというのだ。ということはもしかしたらスープラのほうがより高出力を絞り出しているかもしれない。 インプレッションに話を戻そう。探るようにステアリングを切ってみる。ギアレシオがクイックという感じはしなかったが、どうしたって向きを変えたがるディメンションのクルマだ。わずかなステアリング操作でグイグイ向きが変わる。ペースアップする。コーナー手前でブレーキング、ややブレーキングを残してステアリングを切る。出るかリア…? 出ない。ならばと立ち上がりでステアリングを戻しながら挑発的にアクセルペダルを深く踏んでみる。今度こそ出るか…? 出ない。フロント:255/35ZR19、リア:275/35ZR19のミシュランのパイロットスーパースポーツのグリップが高い。次の周回の同じコーナーで同じことを少しペースを上げて試みる。遅めのブレーキング、ステアリングを切って、出るか…? 出ない。立ち上がり。探りながらもアクセルをペダルを深く踏む。出な…出たーっ! かなり唐突にリアがブレークしてクルマが一瞬横を向く。が、横滑り防止装置オンの状態だと瞬時にパワーが絞られ、左前輪のみにブレーキが利いて元の姿勢に戻る。 それならと次に横滑り防止装置オフで臨む。先ほどまでと同じようになかなかグリップを失わないが、ある時にポーンとリアが出る。カウンターステアを当ててアングルを維持したいのだが、しばらくすると身体が揺さぶられるほど急激にグリップが回復する。難しい。ドライでも同じことが起こるはずだが、その速度域はとんでもなく高いのだろう。 ドリフトを卒業したタイム重視のスポーツカースープラは86とは全然違う。これについて多田CEは「86と同じものをつくっても仕方ないですからね。86でスポーツカーの楽しさを知ったうちのお客さんのうちの何割かは、もっとスポーツカーの奥深いところを知りたいと感じ始めてくださった。スープラはその受け皿になりたいと思っています」と話す。乗ってみても86よりかなり上級編であることは間違いない。とにかく回頭性にこだわったという。ホイールベースとトレッドの比率がスープラは1.6以下だそうだ。ホイールベースが2470mmだから前後トレッドは1544mm超ということか。原則として数値が小さいほど回頭性がよい。レーシングカートが1.1程度で、マツダ・ロードスターが1.54あたりだから、スープラはロードスター並みに回頭性がよい500NmのFR車ということか。そりゃ運転が難しいわな。 回頭性にこだわったというが、ホイールベースとトレッドの関係性はトヨタが自由に決められるものではない。なにしろプラットフォームはあちらのものを使うのだから。そこに大激論があったと多田CEは言う。「彼らには彼らの理想があるでしょうからね」。多田CEが今回のプロジェクトのためにBMWを初めて訪問したのは12年。最初はこのあたりから議論がスタートしたのかもしれない。 ただ回頭性をよくすればするほど、直進安定性の面で不利になる。ディメンションで回頭性を優先させる一方、直進安定性を確保すべくできる限りの努力をしたそうだ。一番はエアロダイナミクス。徹底的なフラットボトムを目指したほか、サスペンションアームなど、風が当たるパーツにフィンを付けるなどして、整流に努めたという。この辺りは高速道路での試乗の機会を待つしかない。 取材と試乗を通して、スープラはドリフトを楽しむ86を卒業した大人が、今度はグリップの範囲でできるだけスムーズに速く走らせることを楽しむスポーツカーだという印象を得た。エンジンがああである以上、BMWの雰囲気はかなり色濃いが、決して悪いことではない。ターゲットは「ポルシェ ケイマン S」だと多田CEはいう。ATの出来に自信があるそうで、今のところMTの予定はないそうだ。市販が待ち遠しい。 |
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