ぬいぐるみ系自動車デザインの完成形「新時代の国民車」を探す実地調査企画の第11回目。今回の調査対象は、2018年10月10日に行われたマイナーチェンジに伴って誕生したダイハツ ブーン第3のモデル、「ブーン スタイル」である。 まずはブーンという車のごくごく簡単な概要から。 ブーンというのはダイハツが2004年から販売している“リッターカー”クラスの小型車。初代と2代目はトヨタとダイハツが共同で開発し、トヨタ版を「パッソ」、ダイハツ版を「ブーン」として販売していたが、2016年4月に登場した現行3代目はダイハツが企画・開発から製造までのすべてを担当している。 エンジンは排気量1Lの直列3気筒で、カタログ燃費はFF車が28.0km/L、4WD車が24.4km/L(JC08モード)。そして通常デザインの「ブーン」に加え、ダイハツによれば「スマートなイメージと上質感を重視した」という「ブーン シルク」というモデルもラインナップしてきた。 で、このたび「第3のブーン」として追加されたのが、今回の調査対象である「ブーン スタイル」だ。北海道地区を除く車両価格は2WD版が152万2800円で、4WD版が171万8280円。今回試乗したのは、より一般的でお手頃な2WD版のほうである。 さて。ブーン スタイルの場合、まずはこの「デザイン」から話を始めねばなるまい。 ……小鳥さん系とでも評せばいいのか、個人的には絶妙な顔立ちであると思う。ブーン スタイルの顔立ちは、2004年のダイハツ ムーヴラテあたりから始まった「ぬいぐるみ系自動車デザイン」の完成形とすら言えるのではないだろうか? いや完成形とまで高く評価するかはさておき、少なくとも「かなり適切なアップデート版」だとは言えるはずだ。 安価な大衆実用車=国民車としてのポテンシャルを感じたが…00年代のムーヴラテやミラココアのデザインは過剰に甘すぎた。洋服で言うと「ものすごい量のフリルが付いたワンピース」のような。 まぁ00年代はそれで良かったのかもしれないが、今や時代のムードは変わった。女性の皆さまも、一部のゴスロリ系各位を除けば「過剰なフリフリ」はあまり欲していない。欲しているのは、フェミニンであっても決してフリフリ過ぎない「シンプル」だったり「エアリー」だったりという、ややユニセックス寄りな何かだ(と、筆者はにらんでいる)。 そしてダイハツの開発陣も、おそらくはそう読んだのだろう。それが証拠にカタログの頭にはこう書かれている。 「甘すぎないのがマイルール」 そう。フェミニンな感じ(女性らしいニュアンス)は重視しつつも、「過剰に甘ったるいデザインではない」というのがブーン スタイルの顔立ちであり、それがために、性別不問であまねく乗られるべき安価な大衆実用車=国民車としてのポテンシャルを感じたのだ。 ブーン スタイルの顔立ちを見て「ミニのパクリ」と評する方もいるようだが、筆者はそうは思わない。絶妙な小鳥さん顔であり、オリジナリティと創造性にあふれていると思う。たとえそれがミニにインスパイアされたものであったとしても、だ。 ただ、車内に乗り込むと微妙な点もでてくる。 ダッシュパネル中央にあるパノラマモニターを囲む枠というのかクラスターというのかが、取って付けたようなボディ同色(ジューシーピンクメタリック)で縁取られているため、もともとのブーンにあった「増築感」のようなものが否応なく加速してしまう。 そしてシート座面および背面の柄も、ダイハツのデザイン部隊としてはおそらく大いに頑張ったのだろうが、大変申し訳ないが「おばちゃんのセーターみたい」という気もしてしまう。外装デザイン(主に顔立ち)を傑作レベルまで仕上げたところで精神的にも予算的にも力尽きたのだろうか? ただしシートの座り心地自体はなかなか良好であった。 国民車目線で見るとちょっと違う走り出してみても微妙なすれ違いは続く。いや、とはいえ普通には走るのだ。特に危険なく走行させることは十分可能なダイハツ ブーン スタイルではある。 だが「運転者がハンドルを切る」という入力に対しての出力(曲がり始めること)が常に感覚的には0.2~0.3呼吸ほど遅れて発現するため、運転していてしっくりこないのだ。 これが0.2~0.3ではなく0.5呼吸遅れだと「かなり違和感あり」なのだが、ブーン スタイルは決してそこまでではない。普通に乗ろうと思えばわりとフツーにも乗れる。ただ気持ちよさ視点で見ると、しっくりこないのである。 市街地を抜けて高速道路に入ると、100km/h巡航時のエンジン回転数はだいたい2500回転ぐらい。エンジン自体はまあまあ静かだが、風切り音は小さくない。そこから追い越しをかけようとするとエンジン音も盛大にうるさくなり、レーンチェンジをしようにも例によって(感覚的には)0.2~0.3呼吸遅れでグラっと曲がるところがある。 ……以上のとおりこのたび登場したダイハツ ブーン スタイルは、その「小鳥さん顔」には大きな価値を認めるものの、性別不問であまねく乗られるべき大衆実用車=国民車としてのポテンシャルは備えていないと、少なくとも筆者には感じられた。 無論、地方都市に住む若いOLさんなどが主に通勤のために使うのであれば悪くない存在だとも思う。ステキな小鳥さん顔だし。その場合も「同じダイハツの軽自動車でもいいんじゃない?」とのアドバイスをしてしまう可能性はあるが。 もちろん、こういったリッターカーの存在自体が今のところまだ貴重だ。その意味で、筆者としては「次期型のブーン」に期待したいと思っている。 全日本国民車評議会(通称:国民車会議)議長としての勝手な評価まとめは以下のとおりだ。 【ブーン スタイル STYLE“SA III”(FF)=152万2800円】 国民車とは?今、「新時代の国民車」が待たれている。いや、それを待っているのはわたしだけという可能性もあるわけだが、筆者が考える新時代の国民車とは以下のようなクルマだ。 「安価だが高機能かつ低燃費で、それでいておしゃれ感もある、程よいサイズの実用車」 100万円台でまるっと買えるのが望ましく、それが難しい場合でもせいぜい200万円台前半ぐらいまで。自動車オタクが求めがちなマニアックな諸性能はどうでもよく、どんな状況でも普通か普通以上ぐらいに気持ちよく運転でき、燃費が良くて維持費も安く、人と荷物をある程度積載できて、邪魔くさくないサイズで、それでいて大のオトナが乗るにふさわしい質感とデザインも備えているクルマ。 ……そんなある意味ぜいたくな一台を探し出すため、筆者はこのたび「一般社団法人 全日本国民車評議会」を(脳内で)設立し、実地調査に乗り出すことにした。 【国民車調査バックナンバー】 ■第2回 スズキ ジムニー、ジムニーシエラ ■第3回 日産 オールラインナップ ■第4回 スズキ スイフトスポーツ ■第5回 トヨタ カローラ スポーツ ■第6回 ホンダ シャトル ■第7回 ホンダ N-BOX ■第8回 スズキ ソリオ ■第9回 トヨタ シエンタ ■第10回 スバル XV |
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