注目の音声アシスタントは日本語でも新鮮自動車業界は100年に1度の大変革期にある! とかなんとか言われてもピンとこないんだよね。そう思っている人は多いだろう。僕もそのうちの一人だ。たしかにEVの選択肢は拡がりつつある。カーシェアリングを使う人も増えてきた。常時接続型のナビやインフォテインメントシステムも普及段階に入った。けれど、ユーザー体験として、ドキッとするほど斬新なものがあるかと言えば答えはノー。ガラケーからスマホへの大転換と比べれば、クルマはごくささやかな進化に留まっているのが現状だ。 そんな状況に一石を投じるのが新型「メルセデス・ベンツ Aクラス」である。なかでも注目なのが、AppleのSiri、GoogleのGoogleアシスタント、amazonのAlexaなどでお馴染みのAI音声アシスタントの採用。MBUX(Mercedes Benz User Experience)と名付けれらたこのシステムは、「Hey Mercedes!」をウェイクワードに、対話型自然音声認識で様々な機能を操ることができる。 音声認識はスタンドアローン型とクラウド型の併用で、車載通信端末が圏外のときでも使用可能(ただし選択肢の減少や認識率の低下はある)。「暑い」と言えばオートエアコンの設定温度を下げ、「寒い」と言えば上げてくれる。そうそう、日本人の感覚からすると「Hey」の語感がちょっと…ということで、日本仕様ではウェイクワードを「ハイ メルセデス」へと変更している。とのことだが、実際は「メルセデス」で反応するため、車内で「メルセデスってどこの国のクルマだったっけ?」というような会話をすると、思いがけずアシスタント機能が立ち上がることがある。 ナビの操作や音楽再生なども音声入力で可能。反応速度や音声認識率は、体感的には大手IT系サービスの2割減程度だけれど、クルマ特有の機能を操作できるのは便利だし新しいし楽しい。たとえば手動操作だと手間のかかるアンビエントライト(車内間接照明)の色変更も「アンビエントライト、イエロー」で一発だ。 また、車内には2つのマイクがあって、助手席の人が「シートを温かくして」と言えば、声を発した位置を判別して助手席のシートヒーターだけをオンにしてくれる。「大阪は傘必要?」「寿司屋に行きたい」「めっちゃ暑いで」といった自然言語への対応や、スマホとの連携も抜かりない。専用アプリをインストールすれば、出発前の目的地設定~ナビへの転送~クルマでの移動~到着後の徒歩ルートをシームレスに繋げることが可能。スマホを使ったリモート施錠&解錠もできる。 お楽しみ機能としてこんなものも。「BMWをどう思いますか?」「貴方の考えと同じです。そうでなければこのクルマには座っていないでしょう」 ずいぶん上から目線(笑)。 まあ、一通り遊んだあとは使わなくなるだろうが、こういう遊び心も悪くない。そういうオマケ機能を含め、短時間の試乗では、どこまで音声認識で操作できるのか、この機能はOKだがこの機能はNGといった正確なところまでは把握できなかったが、全体的には音声だけでかなりいけるなという印象をもった。AI学習機能によるブラッシュアップを含め、愛車として使いこなしていけば、かなり便利、かつ新鮮な体験ができるに違いない。 世界最高峰のインフォテインメントシステムエクステリアデザインは基本的にはキープコンセプトだが、シャープな目つきと低くなったフード、ワイドになったボディなどによってスポーティさを増した。横長のリアコンビランプや、直線基調になったサイドのキャラクターラインも新型の識別ポイントだ。室内空間や荷室容量も29L増大していて、とくに室内横方向のゆとりは先代から乗り換えるとはっきりとわかる。「レクサス UX」が荷室スペースを割り切りデザインに寄せてきたのとは対照的に、新型Aクラスはこのクラスのベンチマークである「VW ゴルフ」に負けない実用性を目指しているのが見て取れる。 圧巻なのはインテリアだ。水平基調のダッシュボードに横長の液晶ディスプレイをポンと置いたデザインはとにかく新鮮。ひさしがないため直射日光が当たったときの視認性が心配だったが、高い輝度と入念な表面処理が功を奏しているのだろう。明るい日中でも見難さを感じることはなかった。 「Sクラス」によく似たタービン風デザインのエアアウトレットや、その下にレイアウトしたスイッチ類、ピアノブラック仕上げのパネルなど、質感の高さも特筆レベル。とくに細部へのこだわりはApple製品を彷彿とさせる。液晶パネルの解像度や、凝りに凝ったアイコンデザイン、NVIDIA製高性能グラフィックボードが生みだすヌルヌル、サクサクした操作性も最新スマホに負けていない。そしてそれは、車載用インフォテインメントシステムとしては世界最高峰であることを意味する。 機能が多く、カスタマイズオプションも豊富なので、操作には慣れが必要だ。自信をもって言うが、1週間程度ではとてもじゃないがすべての機能を使いこなせるようにはならない。しかし、コツさえつかめば操作ロジックは比較的シンプルだ。キーとなるのは左右親指で操作するステアリング上の2つの小型タッチパッド。左が中央画面の操作、右手がドライバー正面(メーターパネル)の操作を担当し、上下左右で目指す機能を選んでプッシュで選択する。中央画面はパームレスト付き大型タッチパッドや画面タッチでも操作できるが、ドライバーが操作するならステアリング上の小型タッチパッドが便利だ。 ノーマルもAMGもスポーティだが荒削りな乗り味いくら先進的な装備を備えていても、クルマはクルマ。走らせてなんぼである。とくに「それなり」の価格をとるプレミアムブランドの商品であれば、走りはそこそこでOKというわけにはいかない。静粛性、快適性、走行性能などにキラリと光る部分が欲しくなる。 そんな観点でAクラスを眺めると、いいところと悪いところがある。いいところは、スポーティで小気味よいドライブフィールだ。ワインディングロードはもちろん、街中のちょっとしたカーブや四つ角でも、ソリッドでダイレクトなハンドリングを楽しめる。低回転域から太いトルクと良好なレスポンスを生みだす1.3L直4ターボエンジンと、小気味よい変速をする7速DCTの組み合わせも、そんな印象を強めている。 メルセデスといえば重厚かつしなやかで滑らかなドライブフィールが持ち味、なんて先入観で乗ったら、きっと目から鱗が落ちると思う。Aクラスに限らず、最近のメルセデスはアジリティ=俊敏性というキーワードを好んで使う。新型Aクラスも間違いなくその流れのなかにいる。 この背景には、ブランド全体で若返りを図っていることが挙げられる。BMWやアウディといったライバルよりユーザーの平均年齢が高いのがメルセデスの悩みであり、それを打破するための強力なツールが前述のMBUXであり、若々しいデザインであり、スポーティーな走りというわけだ。 一方で、スポーティな走りは快適性にはマイナスの影響を与えている。16インチタイヤ装着車はトレッド表面が固めの印象で、路面のザラザラを正直に伝えてくる傾向。一方、AMGラインの18インチタイヤは、ザラつきなど微少領域での当たりこそマイルドだが、大きめの段差などで伝わってくるゴツゴツ感は16インチより大きめになる。いずれにしても、昔流のしなやかで滑らかな古きよきメルセデス流の乗り味を期待する人が乗ったらモアコンフォート! と言いたくなるだろう。それでも先代と比べれば乗り心地は相当よくなったが、できればもう1段の洗練を望みたいというのが僕の意見だ。 エンジンの振動特性も気になった。基本的には非常に扱いやすく、パワーも十分あり、燃費も上々なのだが、2500rpm付近にザラついた振動が出る領域があり、それが乗り味の上質感をスポイルしている。高速道路領域の速度ではほとんど気にならないが、発進加速時や街中での加速時にはステアリングに微振動が伝わってきて、これが意外に気になる。街中ではドライブモードセレクターをECOにセットすると、アクセルを深く踏み込まないかぎり2500rpmに達する前にトントントンと素早くシフトアップして振動ピークを回避してくれる。 総額ではゴルフGTIと並ぶが、この先進感は魅力若々しくスポーティーなルックス、実用的なパッケージングに加え、Sクラスにすら搭載されていない対話式音声認識システムを採用した新型Aクラスは、これまでのクルマにはなかった最新のユーザー体験を味わわせてくれるモデルだ。 加えて、オプションのセーフティパッケージを選べば、ウィンカーを操作するだけで車線変更できるアクティブレーンチェンジングアシストを含め、Sクラスにほぼ匹敵する先進安全装備が手に入る。走りには少し荒削りな面が残っているが、それを差し引いてもショッピングリストの最上位に置く価値のあるクルマであるのは間違いない。 価格はベーシックモデルの「A 180」が328万円、装備を充実させた「A 180 スタイル」が369万円。「ゴルフ TSI ハイライン テックエディション」が353万円であることを考えると価格競争力もあるように見える。しかし、ゴルフのハイラインには先進安全装備やナビゲーションシステムが標準で付いてくるのに対し、Aクラスはそれらがオプション扱い。様々な先進安全装備を組み合わせたレーダーセーフティパッケージが24万5000円、ナビゲーションパッケージが18万4000円。合計42万9000円支払わなければ、これまで書いてきたような先進性は手に入らない。A180スタイルだと合計411万9000円となり、ゴルフGTIと並ぶ。さらに「AMGライン」を選択すれば25万5000円のプラスだ。 こう考えると、Aクラスは決して安いクルマではない。また、Cクラスにも言えることだが、レーダーセーフティパッケージをオプション扱いにしているのは「最善か無か」を標榜するメルセデス・ベンツらしからぬ設定だ。とはいえ、クルマに限らずモノの価値は常に相対的なものである。これまで味わったことがないような先進感に魅力を感じる人にとって、それが400万円代前半で手に入るのはかなり魅力的に違いない。 QI(ワイヤレス充電)スペースの横にあるUSBポートをふと眺めると、普及前夜のUSB-Cポートがあった。日本メーカーだったら現段階での汎用性を考えUSB-Aポートを選択するところだが、メルセデスは未来を睨んでUSB-Cを採用してきた。どちらがいいとか悪いという話ではない。が、こうした些細な部分にも、クルマの進歩の在り方に対する姿勢の違いが表れている気がした。 スペック例【 A 180 スタイル 】 |
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