高級GTクーペのように大きく見えるついにフルモデルチェンジした「ポルシェ 911(タイプ992)」。国際試乗会はスペインのバレンシア。最近、ポルシェのスポーツカーの試乗会は必ずサーキットを走れる。ポルシェのパフォーマンスを体験するには、公道では難しいからだ。もちろんロードコースも用意され、乗り心地や扱い易さなどもチェックできる。 初対面した「新型911カレラS(4S)」の印象は、ドキッとするくらい大きく立派に見えた。セクシーで高級なGTクーペの雰囲気を醸し出している。オイルやタイヤの溶けた匂いがするのが私のカレラのイメージだったが、新型はタキシードでも乗れるボンドカーのように思えた。 今回の試乗会はカレラS(4S)オンリーだったので、ベースモデルのカレラは後日のお楽しみとなった。とはいえサーキット内に作られたラウンジではカレラSのカブリオレも展示され、新型911ファミリーは着々と開発が進んでいるのがわかる。 ところで、なぜカレラSから試乗会なのかを考えてみた。現在、ドイツでは新しい燃費と排ガスの走行モード「WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedures)」に切り替えるために、政府の認証手続きが混乱している。その影響で、まずはハイパワーなカレラSから型式認定を得たのではないだろうか(個人的な推測)。…と、ここまでが試乗前に感じたことだ。 新型はボディの85%にアルミを採用「タイプ992」と呼ばれる新型911シリーズの技術的なトピックスはプラットフォームが刷新されたこと。ポルシェはMMB(モジュラー・ミドエンジン・プラットフォーム)を開発している。MMBの特徴は、フロントアクスル、フロア、リヤアクスルの3つのモジュールで設計される。そして、リヤアクスルの部分を替えると、ミッドシップも作れるマルチモジュールを持っている。「アウディ R8」や「ランボルギーニ ウラカン」のプラットフォームにも利用できるということだ。その点をポルシェのエンジニアに聞くと、「イエス」との答えが返ってきた。 992は先代の「タイプ991」以上にアルミ比率が高まった。重量比で85%も使っている。当然、アルミといっても押出材やキャスティング材などが組み合わされ、最も強度が必要なBピラー付近にはホットスタンプでプレスされる高張力鋼板(スチール)が使われる。アルミを主にしながらも、スチールと合わせて適材適所の素材を採用している。 カットボディを見ると、アルミボディへの強いこだわりが理解できる。もっとも苦労したのはアルミとスチールの結合技術だろう。昔はアルミとスチールの接点は腐食する問題があったが、最近はボンディング技術(接着剤)の進化によって、しっかり結合することが可能となった。 側面衝突に耐えるべくサイドシルは大型化しているので、実際のカップルディスタンスはあまり広くない。2人で乗る分には、キャビンが広くなったとは感じない。 もはや一昔前のGT3並みのパフォーマンス先代の後期モデルからターボ化された3.0Lフラット6はさらにパワーアップしている。カレラS(4S)のターボエンジンは先代よりも+30psの450psを絞り出し、最大トルクは530Nmと強烈なパンチ力を持っている。その結果、0-100km/h加速はカレラSが3.7秒、カレラ4Sが3.6秒。このスペックは一昔前のGT3のパフォーマンスではないか。ここまでパワフルだとカレラ4をチョイスしたくなる。 バレンシアのサーキットではいつのようにコンボイ走行。イントラの「GT3RS」を追い越すのはご法度だが、GT3RSよりカレラSのほうがトルクが大きいので、どんなバトルになるのか楽しみだ。 ウォームアップが終わりペースが上がる。やはりPDKで2~3速でクリアするコーナーの立ち上がりはカレラSのほうが速い。イントラが手を抜いているとは思えないが、どうしても出口でイントラカーに迫ってしまう。無線で「間隔を空けろ」と注意を受ける。「だって、カレラSはターボのトルクで速いから、あなたがもっと速く走ってよ」とは言わなかった(笑)。 ポルシェのフラット6はビッグボア(シリンダーの内径)×ショートストロークなので、タンブル(縦渦)が作れないが、2本の吸気バブルに位相差を与えて開き、スワール(横渦)を作りだす。さらにピエゾインジェクターを使い、5回に分けて燃料を噴射する。ガソリンエンジンの出力を高めるには、燃焼速度をいかに速くできるか。ここがポイントだとエンジンの担当者は述べている。 3.0Lターボのパフォーマンスを十分に堪能できたが、実はもっと驚いたのはハンドリングだ。ステアリングのギア比が10%ほどクイックになったことで、コーナーリング性能が非常に高く感じた。ステアリングを切り込むと吸い込まれるような感覚で、クリップポイントにノーズが向く。まるでゴーカートのようだ。 PDKから始まったパッケージ改革が完成した新型はねじり剛性を5%高めているし、重心点もわずかに低くなっている。しかし、より重要なのは、4つのタイヤと、エンジンやドライバーという重量物の位置関係の変化だろう。 2011年に登場した現行型タイプ991のパッケージではちょっとした謎解きがあったのを思い出す。911のボディパッケージのイノベーションは、大胆なロングホイールベース化を果たしたこのタイプ991から始まったが、そこにはポルシェの非凡さを感じさせる伏線が張られていたのだ。その伏線を辿ると、先代の「タイプ997」から採用されたツインクラッチトランスミッションのPDKにまで遡ることになる。 PDKは、同社がそれまで使っていたティプトロニック(トルコンAT)よりもかなり全長が短く設計されていた。このため、PDKが初めて採用された997型では、リア車軸の位置が合わず(997型のシャシーがティプトロに合わせて開発されていたため)、専用のハウジングを間に挟んで置き換えていた。 謎は次の991型で解けた。PDKは991型(とそれ以後)の、ロングホイールベース化されたシャシーを睨んで開発されていたのだ。991型では、PDKはハウジングを必要としないエンジン直前の本来の位置に収まり、リヤタイヤは結果的に70mmも後ろに移動したのである。 新(現行991)旧(先代997)を比較するとドライバーとエンジンの搭載位置(距離)はほぼ同じだが、991はギアボックスが短くなり、リヤタイヤが後方に移動しているのが良く分かる。コンパクトなPDKが完成したことで、重量物を中心寄りに集めるパッケージのイノベーションが可能となったのだ。 タイプ991は縦方向の慣性モーメントを向上させたが、今回のタイプ992は横方向(左右)の慣性モーメントを改善している。フロントトレッドはカレラS(4S)で+46mm拡大され、リアトレッドは39mm拡大している。左右のタイヤの接地点に対して、エンジンや乗員などの重量物が中心寄りに集まっているのだ。 つまり、997のPDK搭載を伏線として始まったパッケージのイノベーションは、タイプ991で前後、タイプ992で左右の慣性モーメントを大幅に改善し、ついにポルシェ911の理想のパッケージが完成した。その意味では半世紀以上もの時間をかけて進化してきた911は、タイプ992をもって最終章を迎えたと言えそうだ。 プラグインハイブリッドは次世代911で実現この先、新たなる章は始まるのだろうか? 今回新開発したPDKは8速ギアを持つが、モーターを内蔵することも可能という。つまりモーター内蔵のPDKは次世代の911シリーズにプラグイン・ハイブリットとして登場することを示唆している。アルミ化された大型のサイドシルをみると、ここにバッテリーを格納することもできそうだ。 安全装備も充実している。ACCやレーンキープ、84個のLEDチップを用いたマトリックスヘッドライト。さらに赤外線カメラを用いたナイトビューなど、メルセデスやBMWのスポーツモデルと遜色はない。さらに雨天の走行を音で聞き分け、滑りやすい状況であることを自動的に知らせてくれる。 完成の域に到達したリヤエンジンの911はあまりにも孤高だ。だが、新型はリヤのデザインがセクシーすぎる。リヤエンジンであることを主張するには十分すぎるデザインなのだが、もっとスレンダーな911が私の好みだ。 とはいえ、速さや乗り易さは格段に進化している。992を試乗したすぐあとで、日本で現行の991型を試してみたが、その進化ぶりには驚いた。悔しいけれど、ここまで完璧な進化を見せつけられると、批判家の立場でもぐうの音も出ない。 このパフォーマンスが1700万円弱で手に入るのは奇跡かもしれないが、ベースモデルの「911カレラ」の登場を待ってからでも遅くはない。 スペック【 911 カレラS 】 |
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