商用小型バン市場で約67%という圧倒的なシェアを獲得「高速で見かけない日はない」とも言われるトヨタのプロボックス/サクシード。自動車メディアで脚光を浴びるタイプのクルマではないが、日本経済を陰で支える裏方視聴率は極めて高く、その点においてはハイエースと双璧を成す存在と言っていいだろう。そんな働くクルマの代名詞的モデルに、昨年末の12月3日、遂にハイブリッド車が追加された。 カローラバンとカルディナバンを統合する形で、2002年7月に誕生したプロボックス(トヨタカローラ店扱い)とサクシード(トヨタ店とトヨペット店扱い)は、累計で90万台以上販売されてきた超ロングセラーモデル。現在の商用小型バン市場で約67%という圧倒的なシェアを獲得している。そして満を持して追加されたハイブリッドは、発売から間もないにも関わらず、モデル内の販売比率において既に約35%を占めているそうだ。 ハイブリッドを買うか買わないかの決断を下すのは、会社を代表する社長さんということになるのだろうが、実際に乗るのは現場を任された営業さんやセールスドライバーさんである。その中には「プロ/サクのハイブリッドって正直どーよ?」と気を揉んでいる人も少なからずいるに違いない。かくいう筆者も会社員時代に社用車のプロボックス(1.5Lガソリンの5速MT車)を転がしていたひとり。熱い日も寒い日も仕事をともにしたかつての相棒が、ハイブリッドというおニューな武器を手に入れたと聞いて妙に胸を熱くした一方、一般的に高速燃費が不利と考えられるハイブリッドが、果たしてプロボックス/サクシードに必要なのかという一抹の疑念も頭をかすめたのであった。 アクアと同じなのに燃費が違うのは最終減速比が違うから今回試乗の機会を得たのはサクシードの最上級グレードである「TX」のハイブリッド車。同一グレードのガソリン車と比べると、車両本体価格は27万円アップしている。採用されたハイブリッドシステムは、アクアと同じ1.5LのTHS IIで、ニッケル水素電池は後席の下に搭載されている。残念ながらリアにもモーターを備える4WDのE-Fourは荷室容量に影響を与えることから設定されず、ハイブリッドはFFのみのラインナップとなっている。 商用に最適化するため、さまざまな改良も施された。まず航続距離を確保するため、アクアでは36Lとなる燃料タンクを42Lへと拡大。ちなみにガソリン車のタンク容量は50Lで、ハイブリッドの42Lは「高速での使用が8割という使い方を想定してガソリン車同等の航続距離を確保できる」ことから導き出された値とのことだ。 そんなハイブリッドのJC08モード燃費は27.8km/L。1.5LガソリンのFF車の19.6km/Lに勝るのはもちろんだが、アクアの34.4km/L(最良値は38.0km/L)と比べると見劣りしてしまう。その最大の理由は最終減速比のローギアード化。商用車として求められるフル乗車・フル積載での登坂性能などを考慮すると、致し方ない処置とのことで、シエンタと同じギア比が採用されている。同じくフル積載でもしっかりと制動力を発揮できるよう、ECB(電子制御ブレーキ)も最適化された。 さらに昼間の歩行者検知機能を備えた「トヨタ セーフティ センス」、盗難防止のイモビライザー、充電用USBなどを全車に標準装備。ハイブリッド車は空調が全車オートエアコンとなり、運転席シートヒーターがオプション設定されるなど装備類も充実。この辺りは働く人々からも素直に歓迎されるに違いない。 キーをいっぱいまで捻った 「しかしなにもおこらなかった」実車を目の前にすると、ハイブリッドの専用エンブレムを別にすれば、外観からは取り立ててガソリン車との違いは感じられない。内装材のチープさも昔のままで、「なんだ意外に変わんないじゃん、お前」と少し胸をなでおろした。 だが、ハイブリッドの洗礼(?)は、いざ発進させようという段になってやってきた。 まずは何の変哲もないキーを、これまた見慣れたキーホールに差し込むことに困惑。「ハイブリッドなのにパワースイッチじゃないのか(笑)」と面食らいながら、キーをいっぱいまで捻ってみた。反射的にエンジンが掛かかるものと待ち構えてしまったが、メーターに「READY」のインジケータが灯るのみで車内は静寂を保ったまま。なぜかはわからないが、むやみに恥ずかしい気分に襲われてしまった。 さて、そんなこんなの儀式をようやく終えて、「フワ~ン」といういつものアレを耳にしながら飛び出した試乗コースは、交通量の多い国道や道幅の狭い生活道路を含む一般道。撮影時間との兼ね合いで高速までは足を踏み入れなかったが、実際にユーザーが日常的に出くわすであろうシーンを走行することができた。 乗り心地を強化するためバネ上の制振制御も新たに採用されているそうだが、率直な第一印象はザ・普通。ひらひらと軽いステアリングや制動時のアシストがぶわっと立ち上がるブレーキタッチなどは、以前に乗っていたプロボックスの印象そのもので、ハイブリッドとはいえ良くも悪くも商用車らしい操作感が貫かれていた。かつて乗り慣れたガソリン車と比べると、ハイブリッド車はアクセル操作に対するダイレクト感に欠けるというのも偽らざる感想である。 一方、信号待ちでのエンジン停止や走行中にエンジンが発電に回ることによる燃費の改善効果、ごく短い距離とはいえモーターのみでスムーズに発進できる点は、やはりハイブリッドならではの魅力。休憩中に車内で食事したり仮眠したりする使い道も考えると、冷房の電源に回生電力を流用できるハイブリッドのうま味も生きてくる。登坂時や加速時には、モーター駆動による力強さも実感することができたので、もちろんハイブリッドにはハイブリッドの良さがあることも確認できた。 身体に伝わるクルマとの密接さといったファクターは希薄だが個人的には、かつて社用車のプロボックスで経験した、エンジン回してなんぼ!のグルーヴ感、不思議と身体に伝わるクルマとの密接さといったファクターは、ハイブリッドだと少々希薄ではあると思う。だが、もちろんすべてのプロ/サク ユーザーが高速をかっ飛ばしたいわけではないだろうし、果たして自分は会社員時代に、なぜあんなに燃費を気にせず飛ばしていたかと振り返れば、燃料代を自分が払うわけではなかったからという答えにぶち当たるのも事実だったりする。 「リースで年3万km走行の想定ですと、27万円の価格上昇分はガソリン代ですぐにペイできます」と、開発担当者が胸を張るプロボックス/サクシード ハイブリッド。厳密なそろばん勘定の前では、「クルマとの対話」といった個人的かつ抽象的な価値は、あまりに無力だ。また、ハイブリッドにはハイブリッドなりの楽しみ方があるのも事実で、オプションの純正ナビに表示されるエネルギーフローを確認しながら、「次の下り坂で回生狙える!」と、エコ運転を意識しながら走るのも一興ではないだろうか。 「ハイブリッドの販売比率は、できれば50%まで伸ばしたい」と、開発担当者は目標を語ってくれた。企業イメージの向上にも貢献するであろうハイブリッドモデルが、プロボックス/サクシードのメインストリームになる日は、すぐそこまで来ている。 スペック【 サクシード ハイブリッド TX】 |
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