ゴルフを完全に超えた強烈な完成度「このクラスのベンチマークである『VWゴルフ』は完全に超えていますね」。試乗会場のホテルから出発して、わずか2~3分で僕の口からは、そんな言葉が出た。 僕は試乗の際、動画を撮影するので必ずカメラを回すが、それを見返すとのっけから深く感心する様子が映し出されていた。これぞ、新型「マツダ3」を端的に表したひと言である。いきなりVW ゴルフを超えたと言ってしまえるほど、このクルマは強烈な完成度の高さを見せていたのだ。 実は試乗前の車両概要説明で、開発主査の別府耕太氏は今回、「あらゆる質感を飛躍的に高めることを目指しました」と語った。そんな言葉を受けて我々ジャーナリストはヒソヒソと、「言葉通りだったら理想の1台だし革命的だけど、そうじゃなかったら…気まずいねぇ」と話していたのだ。これまでも数々の試乗会で、こんな風に大きく出た開発主査は何人もいたわけで、果たしてお手並みは? という感じで試乗車に乗り込んだのだった。 そしてクルマを動かした直後から、僕は饒舌になった。「いま試乗を始めましたが、あーなんだろうすごく気持ち良い感じ、なんだろうこの滑らかな感じは、かなり印象的な滑らかさです」というコメントを一般道に出る前に口にして、さらに驚きの部分へのコメントが続く。 「それとウインカーレバーのタッチ、そしてウインカーの音に至るまで丹念に作り込まれています」。僕自身、ウインカーレバーの操作感とその音について語ったのは初めてだ。 ここからも分かるように新型マツダ3は、このクルマを構成するひとつひとつのパーツを徹底的に開発して、そして組み付けて磨き上げたような1台で、これまでに経験したことのない隙を感じさせないプロダクトだった。 Aクラスに勝るとも劣らないインテリアの質感既にLAショーや東京オートサロンでお披露目されたマツダ3はまず、インパクトあるハッチバックのデザインが高く評価された。今回も欧州仕様のハッチバックからの試乗だったが、やはりリアからの眺めが印象的で、このクルマならではのアイコンになっている。さらにボディサイドにはキャラクターラインが存在せず、ボディパネルの面自体に複雑な抑揚を持たせ、塗装面に当たる光によって刻々と変化していくサイドビューも印象的だ。 もっと感動したのはインテリアだ。端的に言って現在のマツダの上級モデルを超えた高い品質感の内装が構築されたと断言できる。もちろんCセグメントの中でも、間違いなくトップクラスのクオリティだ。 マツダは雑さを感じさせる余計な合わせ目やつなぎ目、不要な見え方をするパーツを徹底的に排除した。目の前に広がるインテリアに、作り手都合の切り欠きやサービスホールなどはほぼ存在しない。美しいインテリアとは何かを考えて設計したからこその空間が広がる。 インテリアの仕上がり具合は、国産モデルのライバルだろう「スバル インプレッサ」や「トヨタ カローラスポーツ」を遥かに凌駕し、輸入車のVW ゴルフと同等以上であることは間違いなく、新型「メルセデス・ベンツ Aクラス」と比べて派手さで負けるが、落ち着きという意味で勝る…というレベルに達している。走る前からドライバーはうっとりさせられるし、高い品質に驚かされて気分も良くなっているのである。 クラスを超えた衝撃的な乗り心地と静粛性新色であるポリメタルグレーを纏った欧州仕様のハッチバックを走らせ始めた。トランスミッションは6速MTで、装着タイヤはサマータイヤだ。 スターターセルの音は小さく、振動も少ない。クラッチを踏んでシフトをローに入れた時点ですでに、心に響く感触がある。作動の仕方、その感触まで作りこまれて心地いい。もうこの辺りで、最初のコメントが口をついて出たのだった。 そして一般道を走り出した瞬間、すぐ走りの良さに衝撃を受けた。タイヤが転がり始めると、まるで路面をならしたかのような滑らかな乗り心地で抵抗感なく進む。確実に上級のアテンザを凌駕したと判断できるレベル。1クラス上のDセグメント群と比べられるか…いや、あれらほど重厚でなく、もっと軽やかなのに滑らかな独特の感触。無理にタイヤを路面に押し付けて踏ん張らず、しかし路面からの入力は綺麗に受け止めてボディが揺さぶられない。単純に乗り心地が良いというより、極めて自然で快適な走りがそこに構築されている。 同時に室内の圧倒的な静粛性に驚かされた。このクラスならばあるはずのロードノイズが皆無だし、エンジン等のノイズも聞こえてこない。間違いなくクラストップの静粛性。この時点で既に、主査の別府氏が言う「あらゆる質感を飛躍的に高めた」の言葉の意味を素直に理解できた。 試乗コースはまずハリウッドの街中を走らせるが、どうやらマツダは敢えて路面が荒れたところを選んだようだ。通常のクルマならばゴツゴツと入力があってボディが揺すられるシーンを、マツダ3は見事にいなしつつ、滑らかさを失わずに進む。 新型マツダ3は次世代車両構造技術「スカイアクティブ ビークル アーキテクチャー」のスモールプラットフォームを採用した第1弾。環状構造のボディ骨格を持つのが特徴で、新たに減衰ボンドを使って走行時の入力をいなす構造を取り入れた。 驚きなのはサスペンション形式で、フロントは標準的なマクファーソンストラット式だが、リアは従来のマルチリンク式ではなく、トーションビーム式を採用した。これはコストダウンとも取れるが、実際にはこのトーションビームも相当に検討を重ねて開発され、走らせてみるとクラスの頂点を確信させるほどの性能を発揮しているのだ。 街中を抜けてフリーウェイに入っても、コンクリート路面からのざらついた入力を見事にいなしてしっかりと直進する。速度が上がっても相変らず静粛性は高い。もはや完璧、と言って間違いないなと僕も感じ始めていた。ではパワートレーンの印象はどうだったのか? 2Lハイブリッドも2.5Lガソリンもパワー不足今回試乗した欧州仕様のハッチバックには、2.0Lガソリンエンジンにベルト式ISGを組み合わせたマイルドハイブリッドが搭載されていた。そう、これまで聞いたことのなかった「M Hybrid」だ。興味深いのはスペックで、2.0Lのガソリンだが最高出力は122psと周りの2.0Lに比べると低く、一方の最大トルクは213Nmと2.0LのNAエンジンとしては標準的な数値だ。燃費は6.3L/100km、日本的にいえば約15.9km/Lとなる。ただしこのエンジンは欧州のみの展開だという。 ちなみにこの後、北米仕様のセダンにも試乗したが、こちらは2.5Lのガソリンが搭載されていた。最高出力が186ps、最大トルクが252Nmとなる。燃費はEPA値で30mpgだから、約12.8km/Lということになる。 街中から高速に入ったところまではエンジンも好印象だった。回転は滑らかでキレイに回り、音も静かで軽やか。しかもベルト式ISGでゼロから発進する際にモーターのアシストが入る他、加速時にも単にエンジンの力ではないプラスαが加わるのが感じられた。さらにMTとの組み合わせながら、シフト時には回転落ちによるショック等を軽減する工夫もされていた。だからシャシーの素晴らしさと相まって、実に軽やかなパワーユニットと思えた。しかもMTのフィーリングは先の通りの好印象だから、ドライブトレーン全体に好印象を覚えていた。 しかし高速に入って加速するためにアクセルを踏み込むと予想に反してレスポンスが弱い。加速自体にもトルク感が薄く、純粋にパワーの物足りなさを感じた。特に100km/h付近から5速、6速で再加速すると、アクセルを踏んでから力が得られるまでに時間がかかった。 このパワートレーンの悩ましさは、この後に乗る北米仕様セダンの2.5Lガソリンエンジン搭載車でも感じた。やはり周りと比べるとパワーを感じないし、エンジンそのものに魅力が薄い。特に最近の電化されたガソリンエンジンを積んだ「メルセデス・ベンツ Cクラス」の1.5LのBSGや、「ホンダ インサイト」の1.5Lのi-MMDなどと比べると、パワーユニット自体の魅力が薄い。 クラストップの魔法のようなハンドリングエンジンに関しては少し残念に感じたが、ワインディングを走ると、再びそれを忘れさせるような衝撃を受けた。マツダ3のハンドリングはマツダの言う、「クルマの存在を意識させないほどの『究極の人馬一体』」を感じさせる、魔法のような驚きのものだった。 カーブに対してハンドルを切ると、通常ならば、ノーズが向きを変えてロールが生まれ…という一連の動作を感じる。しかし、マツダ3はそのコーナリング時の一連の動作が極めて連続的な運動になっているために、むしろハンドルを切ってノーズが向きを変えていくのを感じた後は、ロールを意識することなく曲がり終えている感覚だ。 しかも目を見張るのは、操舵によってコーナリングしていくクルマの反応が穏やかであり続けること。動きが遅いわけではない。素早い操作にも反応するのに、あくまでも落ち着いた穏やかさを感じる。ここが実に不思議な部分で、マツダ3のハンドリングの真骨頂だ。「楽しい!」というより、「どこまでも気持ち良い!」と考えてもらえばいい。 北米仕様のセダンに乗り換えて帰路につく。こちらはオールシーズンタイヤのせいか、トレッドが柔らかく路面の動きをボディに伝えてしまうため、ハッチバックほどの感動はなかった。ただそれでも走りのレベルはクラストップといえるものだ。 ベンチマークとして名前が挙がる日は近いかもホテルまでの道のりでマツダ3の印象をまとめてみる。 デザイン、内外装のクオリティ、静粛性と乗り心地、街中と高速での乗り味の良さ、ワインディングでのハンドリングはパーフェクト。もうこの時点でCセグメントの頂点。 ではウィークポイントはというと、エンジンだろう。とはいえ今回試した2.0L M Hybridと2.5Lガソリンは真打ではないのも事実。まだ本命のスカイアクティブXを試していないし、さらに販売の面で主役になるだろう1.8Lディーゼルや、M Hybridなしの2.0Lガソリンも試していない。このあたりは今後の国内試乗などで評価が決まってくるだろう。 ユーザー目線では、マツダコネクトのHMI(ヒューマンマシンインターフェース)が新たにゼロから開発されて扱いやすくなったものの、先進性は薄い。 例えばメーター内の液晶はコストの問題からか、センター部分の速度表示だけというのは古臭い。ライバルは全面液晶を採用しつつある。マツダコネクトの液晶パネルのサイズも、後発ながら大きさでライバルに敵わない。さらに最近では自然言語で会話するようにナビやその他の設定ができるクルマも登場している。 さて、パワートレーンと先進性ついては不満もあったが、オーバーオールでは驚愕の仕上がりだったことは間違いない。試乗を終えて感じたのは、マツダがこれまでコツコツと積み上げてきた自分たちの価値観が、ついに世界のライバルを超えるほどの境地にまでやってきたのか、という日本人としての嬉しさであり感慨深さである。 もちろん、まだまだ手放しの絶賛には至らない。が、その可能性を存分に見せてくれていることには大いに期待したい。実際にマツダは最近、事あるごとにその商品をブラッシュアップして常に鮮度の高いものとして我々に届けてくれる。そう考えると、日本での発表および試乗や、本命スカイアクティブXが組み合わされる時が実に楽しみである。 そしてその先には、クラスのベンチマークとして名前が上がる姿もまた、見えてきたともいえる。それほどまでに、高い完成度を持っているのが今回の新型マツダ3だ。 スペック【 スカイアクティブG 2.5(セダン・北米仕様) 】 【 スカイアクティブG 2.0 Mハイブリッド(ハッチバック・欧州仕様) 】 |
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