ディーゼルには未来がない、と言うのは早計ヨーロッパでは、このところディーゼル乗用車の人気が急降下中――と、そんなニュースを耳にした人は少なくないだろう。確かにそれはデータとしても現れているし、主にイメージ低下に伴うこの先の下取り価格の下落を懸念して、一般ユーザーにディーゼル車買い控えの動きが顕著になっているという話を、ドイツ在住の知人からも聞いた覚えがある。 改善されない大気汚染の原因がディーゼル車にあるとして、その乗り入れを禁止する都市が現れ始めた――と、これもまた最近、たびたび耳にするフレーズ。もっともこちらは、多くの報道から「最新のモデルは対象外」という一節が抜け落ちているのが問題点。乗り入れ規制の対象となるのは、あくまでも最新の排ガス浄化システムを持たない”旧式のモデル”のみ。本来は極めて重要であるべきこのポイントが、どうにも正確に伝えられていないのだ。 そもそも、人気が低下とは言ってもドイツやイギリスでは日本よりも遥かに多い3割ほどの乗用車が、まだディーゼルで売れている。さらにディーゼル比率の高かったフランスでは現在でも4割ほど。また、イタリアではまだ過半がディーゼルで売れているという。 多くのメーカーが、”電動化”に対してかつてなく力を入れているのは事実ではあるし、「2025年までに80種の電動車を投入する」と発表したVWグループのように、具体的な数値目標を掲げることでこのカテゴリーでのトップランナーであることを印象付けるブランドも少なくない。けれども、そうした動きをもって「ディーゼルにはもう未来がない」と言い切るのは、早計だろう。 いずれにしても、そんなこんなで逆風が吹きすさぶ2018年というタイミングに、実に「20年ぶりの日本上陸」ということで現れたのが、VWのディーゼルエンジン搭載モデルなのである。 最低地上高+30mmの4WDモデルを追加当初は数年前の予定で手はずを整えていたと聞くVWのディーゼル・モデル導入計画が、ここまで遅れる結果となったのはもちろん、改めて言うまでもない自らの手による例の不正行為が、その一因となってしまったことは間違いナシ。 一方で、そんなハードルを乗り越えた末にようやく日本への導入を果たしたディーゼルエンジンは、尿素SCRやDPFといった最新の排ガス処理システムを搭載して真に「クリーンディーゼル」というタイトルを謳うことが出来る、最高190psの出力と最大400Nmのトルクを発する、ターボ付き2リッターのコモンレール式直噴4気筒ユニットだ。 この新たな心臓と6速DSGを組み合わせ、2018年の2月から搭載したのは、VWでは「ヴァリアント」を称するステーションワゴンと4ドア・セダンという、2つのボディのパサート。ただし、いずれも駆動輪は前輪のみのFWD仕様に限られていた。これは、特に降雪地帯のユーザーにとっては大きな不満の種であったに違いない。 ここで紹介するのはそんな悩みを一気に解決する、前出のTDIエンジン+4WDシャシーという組み合わせを採用した「パサート オールトラック」なる追加モデル。FWD仕様に比べると最低地上高が30mmプラスとなるのに加え、アクセル操作に対する線形とABS制御が滑りやすい路面により適したものへと一括変更され、さらにブレーキの自動制御によって急な下り坂の車速コントロールを行う”ヒルディセントアシスト”が作動する「オフロードモード」も用意するなど、降雪地帯に住むユーザーやウインタースポーツを趣味とする人には待ちに待った内容の持ち主と言える、最新のVW車である。 500万円超のモデルとしては気になる点もオールトラックのエクステリア・デザインは、ステーションワゴンのマーケットが皆無に等しいアメリカでの販売も見込んでか、”ヴァリアント”をベースとしながらも軽くSUV仕立ての雰囲気で纏められていることが特徴だ。アンダーガード付きの前後バンパーや、ホイールハウスのエクステンション。マットクローム仕上げのドアミラーケースなどが、ヴァリアントとは異なるこのモデル専用のコスメティクスとなっている。 一方のインテリアでは、ダッシュボードやドアトリムに専用のデコラティブパネルが採用されたり、アルミ調のペダルクラスターが用いられたりといった差別化は図られているものの、こちらはヴァリアントとの雰囲気の違いは無いにも等しい仕上がり。もちろん、大人4人が乗り込みながら広大なラゲッジスペースも確保されるなど、使い勝手の良さはパサート・ヴァリアントならではの美点として寸分違わずに受け継がれている。 センターコンソール上のスイッチを押して心臓に火を入れると、即座に独特のエンジン音が耳に届いて“ガソリンエンジン車では無い”ことは明白だ。ボリュームは特に小さいわけではないものの、同時に決して耳障りな音質でもなく、結果として「ノイズは余り気にならない」というのが実感になる。 アイドリング・ストップ状態からのリ・スタートがなかなか素早いのは褒められる点だが、気になるのはスターターモーターが作動する瞬間に、ワイパーが”一時停止”してしまうこと。実はこれは、過去にも多くのVW車で体験をして来た現象。実用上の問題はナシとしても、再始動のたびに目の前でワイパーの動きが一瞬止まってしまうというのは、特に500万円超のモデルとしてはプレミアム感が著しく殺がれると、納得行かないユーザーが多いのではないだろうか。 シリーズ全体の商品力アップにも効果センターデフ機能の代わりにハルデックス・カップリングを採用するなど、4WDシステムには比較的シンプルな方式を用いるオールトラック。が、それでも同エンジンを搭載するFWD仕様のヴァリアントに比べると、重量はおよそ70kgの上乗せ。それゆえか、スタート時の蹴り出し感は「やや重々しい」というのが率直な印象だ。 2速と3速間のギア比がやや離れ気味ではあるものの、それでもひとたび動き始めてしまえば加速力に不満がないのは、やはり1900rpmにして400Nmという大トルクを発する、現代のターボ付きディーゼルエンジンの成せる業。もちろんそうした好印象の演出には、瞬時に変速動作を終えることで「シフト時にもターボブーストが落ちない」というDCTを組み合わせたことによるメリットも、ひと役買っているに違いない。 最高出力の発生回転数は、その上限が4000rpm。ただし、それをオーバーしてもさしたる頭打ち感は発生せず、「意外に高回転に強い」と思わせるのも好感を抱けるポイントだ。そんなエンジンのキャラクターもあって、4人乗りで荷物を満載…といったシーンでも、なかなか頼もしい走りが期待出来そうではある。 今回テストドライブを行った「アドバンス」グレードには、電子制御式の可変減衰力ダンパー”DCC”が標準装備。正確なハンドリング感覚はいかにもVWの作品らしいが、「ノーマル」モードでは少々揺すられ感が強く、かと言って「コンフォート」モードを選択するとややダンピングが物足りなく…と、フットワークのテイストは少々悩ましい結果になった。 ちなみにそうしたテイストには、このグレードがベーシックグレードに対して径が1インチ・アップで、かつ幅もより広い18インチのシューズを履くことがちょっとばかりの悪さを招いた可能性も考えられそう。”釘踏み”の瞬間にその穴をただちに埋めるシール材入りのタイヤを採用していることも、あるいは重量増などで乗り味にはやや不利に働いているかも知れない。 とはいえ、現状のパサート・ラインナップを眺めると「これこそが真打ち」と感じる人は少なくなさそう。かくして、シリーズ全体の商品力アップにも効果がありそうな、”フラッグシップ・パサート”の登場である。 スペック【 パサート オールトラック TDI 4モーション アドバンス 】 |
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