「普通」「ちょいゴージャス」「ちょいワイルド」の3パターン「新時代の国民車」を探す実地調査企画の第18回目。今回の調査対象はニッポン軽自動車界のど真ん中、スズキ ワゴンRである。 結論から申し上げると現在販売中の6代目ワゴンRは、巷で話題の「ワークマン製アウトドアウェア」のような実用車であった。つまり「高機能×低価格×まあまあおしゃれ」ということだ。以下、順を追ってご説明しよう。 スズキ ワゴンRは(今さら言うまでもないと思うが)ハイトワゴンタイプの軽自動車で、現行6代目のデビューは2017年2月。 スズキが誇る軽量高剛性な新型プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」を採用することで、先代以上のボディ剛性を確保しながら約20kgの軽量化に成功。ガソリンエンジンの排気量は当然660cc(正確には658cc)だが、最廉価グレード以外の全車にマイルドハイブリッドシステムが採用されている。 これはリチウムイオン電池と小さなモーターによってエンジンを補助するという仕掛けで、以前のワゴンRでは「S-エネチャージ」と呼ばれていたもの。しかし6代目ではモーター出力が約1.4倍になり、電池の容量も3倍以上に強化されたことで、S-エネチャージから「マイルドハイブリッド」という名称に昇格(?)したのだ。 「デュアルセンサーブレーキサポート」など計6種類の先進安全機能が(最廉価グレード以外には)用意され、主にフロントマスクを中心とするデザインは「普通」と「ちょいゴージャス」「ちょいワイルド」の3パターンを用意。 最廉価グレードのFAと、中間グレードであるハイブリッドFXには普通顔が適用され、上級グレードのハイブリッドFZにはトヨタ ヴェルファイアを思わせる2段重ねのゴージャス顔を適用。そして標準車とは別のラインである「ワゴンRスティングレー」には、キャデラック エスカレード風のワイルド顔が採用されている。 今回の試乗車両は標準車の上級グレードであるハイブリッドFZ、つまり「2段重ねのゴージャス顔」を持つグレードだ。 「スーパー」が付かないハイトワゴンと比較して100kg以上軽いではさっそくそこらの生活道路や幹線道路、高速道路などを、ごく普通ぐらいのペースで走り回ってみることにしよう。が、その前に内外装デザインにも少し触れておく。 「2段重ねのゴージャス顔」は、写真で見るよりは下品じゃないというか、ボディ全体の小気味良いカタマリ感とまあまあマッチしている。そのため、この種の顔つきを好まない人であっても受け入れは可能かと思われる。 ハイブリッドFZの場合は黒基調となるインテリアは、現行型ジムニーほどのスーパーおしゃれ感はない。万人向けというか、「あくまで日々使う道具であることを重視しました」的なデザインだ。ただし各部の質感は(車両価格を考えれば)十分上質で、特に樹脂部分のシボ(表面の模様)はいい感じである。 生活道路をゆるゆると通り抜けて幹線道路に出てみると、その「元気の良さ」のようなものに若干驚く。といっても十代少年のような荒ぶったニュアンスではなく、あくまで落ち着いた乗り味なのだが(ただし安価な軽自動車ゆえ、どこかザラついた感じはどうしたってある)、とにかく力強いのだ。動きが若々しいのだ。 そう感じさせる理由のひとつは「軽さ」だろう。 近年の軽自動車のメインストリームであるスーパーハイトワゴン勢と比べて、「スーパー」が付かないハイトワゴンであるワゴンRの車重は、それらよりおおむね100kg以上は軽い。その軽量っぷりが、ある意味筋骨隆々な新型プラットフォーム「HEARTECT」に支えられているのだから、動きが若々しくなるのも必然と言えよう。 一般道では好印象だが高速で90km/h以上出すとキツイもうひとつの理由は、先代よりも大幅に強化されたリチウムイオン電池&モーター。この「エレキなサポート」が、かなり効いている。 先代までのS-エネチャージでは、加速時のサポートは「利いてるような、利いてないような……」とも感じるやや微妙なものだった。しかし今回のマイルドハイブリッドは、ちょっとしたアクセルの踏み増しに鋭く反応し、エレキの力をモリモリと分け与えてくれる。「……この車、ターボ付きだったっけ?」と一瞬勘違いするほどに。 ターボチャージャー付きではないエンジンを搭載する軽自動車でしばしば感じる「かったるさ」のようなものは、少なくとも一般道を走る限りでは皆無。ワゴンR スティングレーの最上級グレードに用意されるターボエンジンをわざわざ選ぶ必要はないと、筆者には感じられた。 ただし高速道路に上がると、6代目ワゴンRの印象はやや変わってくる。 ときおりエレキなアシストが入りながらスムーズに加速を続け(モーターアシストは約100km/hまで、最長30秒間行われる)、メーター読みで90km/hぐらいに到達させる。そこまでは非常によろしい。 だがそこから100km/h巡航に入ろうとすると、エンジンが「モオーッ、モオーッ!」という感じでうるさく吠える。そしてやや大きめな段差を越える際に、どうしても車体が跳ねるような感覚が付きまとう。これは60km/hほどで一般道を走っていた際にはなかった現象だ。 「……なるほど」ということで一番左の車線に移動すると同時にアクセルペダルをやや緩め、メーター読み90km/hぐらいでの巡航体勢に変更する。 するとワゴンR ハイブリッドFZは、一般道を走っていた際とほぼ同じ(厳密に言えばセクシー感はやや落ちるが)快適で安定した巡航を再びスタートしてくれる。 近距離スペシャルという本来の使い方をするならおすすめフロントマスクについては好みが分かれるかもしれないが、インテリアは総じて「道具としての品格」を感じさせるデザインおよび質感。市街地を走る際にはそもそもの基本性能の高さと前述のエレキ(マイルドハイブリッド)により、安定感たっぷりでありながら元気いっぱいの走りを披露してくれる。 そしてここまで触れるのを省略していたが、居住性も実に優秀だ。特に後席居住空間は「……ここまで広くする必要ってあるの?」と思ってしまうほど広い。後部ドアがスライド式ではなくヒンジドア(スイングドア)であるという弱点(?)はあるが、この居住性があれば、わざわざスーパーハイトワゴンを選ぶ必要はないご家族ないしは個人も多いはず。 以上のような6代目スズキ ワゴンRの美点を総合して、筆者は「まるでワークマン製アウトドアウェアのような素晴らしい製品である。つまり高機能×低価格×まあまあおしゃれなのだ」と感じた次第である。 それに加えてもしも高速巡航も得意であったなら、スズキ ワゴンRは「完全無欠」とまではいかないにしても、「きわめて重要な国民車候補」となっただろう。 だがさすがに軽自動車規格ならではの限界というのはあるわけで、ワゴンRは決して高速巡航向きの車ではなかった(ま、当たり前なんですが)。 とはいえ「近距離スペシャル」という本来の使い方で活躍させる限りにおいては、全国民に「今型のワゴンR、なかなかいいっすよ!」とあまねく周知広報したい、ナイスな小型実用車であった。 全日本国民車評議会(通称:国民車会議)議長としての勝手な評価まとめは以下のとおりだ。 【スズキ ワゴンR HYBRID FZ(2WD)セーフティパッケージ装着車=140万9400円】 【 スズキ ワゴンRのその他の情報 】 国民車とは今、「新時代の国民車」が待たれている。いや、それを待っているのはわたしだけという可能性もあるわけだが、筆者が考える新時代の国民車とは以下のようなクルマだ。 「安価だが高機能かつ低燃費で、それでいておしゃれ感もある、程よいサイズの実用車」 100万円台でまるっと買えるのが望ましく、それが難しい場合でもせいぜい200万円台前半ぐらいまで。自動車オタクが求めがちなマニアックな諸性能はどうでもよく、どんな状況でも普通か普通以上ぐらいに気持ちよく運転でき、燃費が良くて維持費も安く、人と荷物をある程度積載できて、邪魔くさくないサイズで、それでいて大のオトナが乗るにふさわしい質感とデザインも備えているクルマ。 ……そんなある意味ぜいたくな一台を探し出すため、筆者はこのたび「一般社団法人 全日本国民車評議会」を(脳内で)設立し、実地調査に乗り出すことにした。 【国民車調査バックナンバー】 ■第2回 スズキ ジムニー、ジムニーシエラ ■第3回 日産 オールラインナップ ■第4回 スズキ スイフトスポーツ ■第5回 トヨタ カローラ スポーツ ■第6回 ホンダ シャトル ■第7回 ホンダ N-BOX ■第8回 スズキ ソリオ ■第9回 トヨタ シエンタ ■第10回 スバル XV ■第11回 ダイハツ ブーン ■第12回 スズキ クロスビー ■第13回 スバル インプレッサスポーツ ■第14回 マツダ デミオ ■2018年「国民車会議」振り返り ■第15回 トヨタ プリウス ■第16回 ホンダ フリード ■第17回 スズキ スペーシア ギア |
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