最低地上高は210mmを確保するミドルクラスのステーションワゴンである「ボルボ V60」の車高と最低地上高を上げると同時に4輪駆動システムを与え、悪路の走破性能を高めたモデル。「ボルボ V60 クロスカントリー」をひとことで説明すると、そういうクルマだ。ただし試乗をしてみると、ちゃちゃっとお手軽に付加価値を盛った、なんちゃってSUVではないことがよ~くわかった。 たとえば悪路走破性能の指標のひとつとなる最低地上高を見ると、V60比でプラス65mmの210mm。ちなみに同じボルボのSUV「XC60」が215mmだから、相応のロードクリアランスを確保していることがわかる。 インプレッションの前に日本仕様のスペックをお知らせすると、パワートレーンは2.0L直列4気筒直噴ターボエンジン(最高出力254ps)と8ATで、この組み合わせはボルボが言うところの「T5」。これに4輪駆動システムが付いて「T5 AWD」となる。ボルボ V60のT5はFF(前輪駆動)のみの設定だから、ここからもV60 クロスカントリーにタフな性格が与えられていることがわかる。日本仕様のグレードは、「T5 AWD」と、ナッパーレザーシートやharman/kardon(ハーマン カードン)のプレミアムサウンドシステムを標準装備する「T5 AWD Pro」の2種類となる。試乗したのは後者。 クロスカントリー専用の前後バンパーやフェンダーを備えることで、V60から少しサイズがアップしており、全長はプラス25mmの4785mm、全幅はプラス45mmの1895mm、全高はプラス70mmの1505mm。日本の多くの立体駐車場は全高1550mm以下なら入庫できるから、ほどよい背の高さだと言える。ただし横幅が広がっているので、立体駐車場を使う人はガレージのスペックを確認したほうがいいだろう。 ルックスは優雅でエレガンスだが走りは意外にもスポーティ運転席に座ると、多少アイポイントは高いものの、眼前に広がるインテリアはV60と共通であることがわかる。センターコンソールにはテスラを思わせる縦長のタッチパネル式の大型液晶画面がドンと構え、ナビも空調もオーディオもこの画面で操作する。結果、スイッチ類の断捨離が進み、すっきりとして居心地のいい、北欧テイストが強まっている。 走り出すと、このクルマがドライバーズカーであると確信する。パッと見は優雅でエレガントな雰囲気が漂うけれど、走りは意外にもスポーティなのだ。まず、2.0L直4ターボがシュンと軽やかにまわる。低回転域から充分なトルクを発生するので高回転域まで無理に回す必要はないけれど、加速が欲しい場面でアクセルペダルを踏み込むとレスポンスよく反応してくれる。回せば回しただけパワーが出るし、控え目ながらいい感じの音も響くから、回し甲斐のあるエンジンだ。 エンジンの好印象を影で支えているのがアイシンAW製の8ATで、段差を感じさせないシームレスで素早い変速は、クルマ全体の動的な質感向上に大きく貢献している。ドライブモードで「ダイナミック」を選ぶと、ステアリングホイールの手応えがグッと骨っぽくなるのと同時に、8ATはより上まで引っ張る設定となり、スロットル操作に対するエンジンのレスポンスもシャープになる。ダイナミックモードだと、クロスカントリーという牧歌的なネーミングより、スポーツワゴンという呼び方がふさわしくなる。 広いスペースや落ち着いたデザインとあいまって快適な後席パワートレーンと同様、乗り心地とハンドリングもスポーティだ。ルックスとクロスカントリーというネーミングで、つい“ゆるふわ”系の乗り心地を想像してしまうけれど、ソールの薄いスニーカーのようにピシッとしている。そして、コーナーではあまりロールを感じさせずに、スパッと曲がる。ただし、車高が上がったから横傾きを抑えるために足を固めた、というのではない。見かけによらずかけっこが得意というのは、ベース車両のV60も同じ性格だった。 ボルボでは、90シリーズを「ソフィスティケイティッド」、60シリーズを「ダイナミック」、40シリーズを「ユースフル」とキャラクターわけしているけれど、V60 クロスカントリーの走りも、洗練された優雅さというよりは、ダイナミックでスポーティなのだ。 ただし、乗り心地が悪いというわけではなく、フラットで引き締まった乗り味は、これはこれでアリだ。ピシッとした印象を強く持ったのは、試乗車が「T5 AWD Pro」だったので、235/45R19サイズのタイヤを履いていたという理由もあるかもしれない(ベース仕様は215/55R18)。ただし繰り返しになるけれど、“ゆるふわ”をお望みの方は、一度試乗をすることをお薦めしたい。 興味深かったのは、前席と後席の乗り心地が変わらなかったことだ。「運転席はいいけど、後席は突き上げがキツいね」というクルマも多い中、ボルボV60クロスカントリーは広いスペースや落ち着いたデザインとあいまって、後席が快適なのだ。車高を上げることに伴い、V60からコイル、ダンパー、スタビライザーの設定が見直されているとのことで、それが奏功しているのだろう。 V60には存在しない「オフロード」モードがあるボルボが「INTELLI SAFE(インテリセーフ)」と呼ぶ、安全・運転支援機能がグレードに関係なく全車標準装備するのはボルボの流儀。久しぶりにボルボの全車速追従機能付きACCを操作してみると、改めてそのインターフェイスのよさに感心した。視線を動かすことなく直感で操作でき、2アクションで完了するのだ。つい内外装だけを見て「最近のボルボはデザインがいい」と言ってしまうけれど、使ってみると、インターフェイスまできちんとデザインされていることがわかる。 ドライブモードによるフィーリングの違いを確認していると、V60には存在しなかった「オフロード」というモードがあることに気付く。残念ながらオンロードでの試乗だったので試すことはかなわなかったけれど、このモードは20km/h以下で作動し、デフロックのほか、下り坂で自動的に速度をコントロールするヒルディセントコントロールも備わるという。このあたりを見ても、雪山や悪路で使う人のことを考えられていることがわかる。 ボルボが2年連続で日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得したことが話題になったけれど、グローバルの販売台数を見ると、2014年が46万5866台だったのに対して2018年が64万2253台と、ジャンプアップしている。これはデザインとともに、使う人の身になった商品を提案できていることの証拠だろう。 ボルボV60クロスカントリーも、広い後席と荷室、本格的な悪路走破性能など、この手のクルマが欲しい人のことが真摯に考えられている。このクルマがあったら、家族や友人で遠出をすることを安全に楽しめるだろうと、提案している。つまり、真面目な遊びグルマなのだ。 スペック【 V60 クロスカントリー T5 AWD Pro】 |
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