最も動力性能の高いトップモデル的な位置づけ2013年末に国内発売となったホンダ・ヴェゼルは、デビューからすでに丸5年が経過した。そろそろ次期型のうわさが聞こえはじめても不思議ではないのだが、今のところフルモデルチェンジにまつわるウワサは漏れてこない。……と思ったら、ヴェゼルについて、それとは違う大きなニュースが伝えられた。新エンジンとなる1.5リッター直噴ターボの追加である。 もっとも、日本におけるヴェゼル販売成績はいまだに堅い。昨18年の国内新車販売ランキング(軽自動車をのぞく)では全体で14位だった……と書くと「以前よりは落ちてきたのでは?」と指摘する声もあるかもしれない。 もちろん「全体でトップ10圏内、SUV部門1位」が定位置だった全盛期ほどの勢いがないのは事実だが、現在のSUV部門1位のトヨタC-HRも全体では12位。つまり、ヴェゼルとのランク差はわずかに2つ。この事実からは、ヴェゼルが発売6年目となった国内市場でもバリバリ現役感がうかがえる。 また、ヴェゼルは今やシビックやCR-V、フィットに次ぐホンダ屈指のグローバル商品となっており、日本と中国市場以外では主にHR-Vを名乗っている。そんなヴェゼル(HR-V)は中国、そして北米、中南米などでの発売は日本より1年遅れの14年、そして欧州はさらに翌年の15年発売だから「このクルマにはまだまだ頑張ってもらう」というのがホンダの戦略であり、フルモデルチェンジはもう少し先になるようだ。 というわけで、この新しい1.5リッター直噴ターボは、グローバルでも最も動力性能の高い、トップモデル的な位置づけのヴェゼルとなる。ご承知のように日本では1.5リッターと1.5リッターハイブリッドを搭載してきたヴェゼルだが、グローバルで見ると、ほかに1.8リッターや1.6リッターディーゼルなどもある。 欧州からの要望と生産戦略の見直しが誕生の発端とはいえ、ヴェゼルでも全体の6割をハイブリッドが占める日本市場で、そのハイブリッドより高価なのに燃費性能もゆずる1.5リッター直噴ターボに、どれほどのニーズがあるのか……には疑問もわく。その点はホンダも「日本では全体の1割くらいを占めてくれれば……」とさほど強気ではない。このクルマに「さらなるハイパワーモデルを!」という市場からの声が大きかったのは、じつは欧州だという。 世界的なSUVブームとかいわれつつも、日本の場合は昨年の販売トップ10圏内にSUVは入っておらず、20位まで範囲を広げて、やっとC-HRとヴェゼル、そして日産エクストレイルがギリギリでランクインする程度(笑)である。対する欧州(EU)では、たとえば昨18年上半期の実績でいうとVWティグアンと日産キャッシュカイ、ルノー・キャプチャーがトップ10入りしており、さらにトップ20となると、プジョー2008と同3008、ダチア・ダスターも加わる。このように欧州ではB~CセグメントのコンパクトSUVの販売競争は、明らかに日本より熾烈である。 ヴェゼルに関しては、もうひとつ大きなトピックがある。ホンダの生産戦略の見直しにより、今後の欧州向けヴェゼル(HR-V)の生産拠点が日本の寄居工場に移されることになったのだ。ちなみに、これと最近話題の「英国スウィンドン工場の閉鎖問題」とは無関係。現在スウィンドンで生産されているホンダ車はシビックのハッチバックモデル(タイプRを含む)のみで、欧州向けヴェゼル(HR-V)はこれまでもメキシコ製だったからだ。 ヴェゼルの高性能ガソリンモデルは日本市場だけで考えるとビジネス的に微妙なところだが、欧州市場からの強い要望があり、しかもそれを日本でつくるとなれば「どうせなら日本でも売っちゃえばいい」となった。……というのが、乱暴にいってしまうと、このクルマが誕生した経緯らしい。 パワフルなわりに意外なほど静粛性は高いもちろん、実際はそんな簡単な話ではなく、5年前に発売された国内のヴェゼルには、2度目の車検をむかえる「買い替え需要期」が到来しつつあるのも、今回の背景にはある。兄貴分となる新型CR-Vが昨年秋に国内発売されたのも、こうしたヴェゼルからのステップアップ需要を見越した側面があろう。 しかし、ヴェゼル最大の魅力はBセグメントとしては大きめとなる絶妙なボディサイズと、それに輪をかけて広い室内空間であり、そこにひかれてヴェゼルを購入したユーザーがビッグサイズのCR-Vに大量移行するとも思えない。となると「ヴェゼルからヴェゼル」という営業パターンも想定するのが自動車ビジネスの定石である。この1.5リッター直噴ターボがお馴染みの「RS」ではなく新グレード名の「ツーリング」をあえて名乗るのもまた、既存のヴェゼルユーザーに買い替えの“言い訳”を与える意図的な戦略の意味も持つ。 そんな新しいヴェゼルツーリングだが、ホンダの1.5リッター直噴ターボは素直にパワフルだ。とくに今回のようなウェットでは不用意に踏み込むと、トラクションコントロールのスキを見て前輪が空転しかけるほどの大トルクである。 このエンジンは従来の2.0~2.4リッターユニットの代替を想定したもので、性能的にも重量でもヴェゼルにはちょっと過剰気味であることは否定できない。もちろんごく普通の運転で破綻するわけではないが、同じ非ハイブリッドとなる既存1.5リッターと比較すると、ツーリングの車重は約150kgも重く、足まわりも明確に硬い。そのフットワークはきれいな路面ではそれなりにしなやかなのに、4輪をバラバラに蹴り上げるような不整路面ではとたんにユサユサと揺すられてしまう。 ただ、それでも不快さや不満より「チューニングが大変だったんだろうな」と開発陣の苦労をしのびたくなるのは、ボディ全体にガシッとした剛性感があり、その強力な動力性能のわりに意外なほど静粛性が高かったからだ。 欧州仕様ベースで味わいが変化。ハイブリッドとの比較は…その最大のキモはおそらくツーリング専用に締め上げられたボディだろう。ツーリング専用ボディは、RSやハイブリッドの上級モデルにも使われているパフォーマンスダンパーが専用チューンになるだけでなく、ボディ骨格そのものもほかのヴェゼルとは異なる。 具体的にいうと、フロントセクションのサイドメンバー、サイドシル、フロア中央のクロスメンバー、バルクヘッドなどにほかのヴェゼルにない強化部材が追加されているのだが、これはそもそも欧州向けヴェゼル(HR-V)に使われていたものという。今回のツーリングはそんな「ユーロボディ」をベースに、さらにフロントのコアサポートとバンパービーム、そしてトランク下のリアフロアパンをターボ専用部品に換えている。 また、足元の18インチタイヤもミシュラン・プライマシー3とこれまでのヴェゼルにはなかった銘柄で、そのサイドウォールには“メイドinスペイン”の刻印があったのが興味深い。ヴェゼルはもともとボディ剛性やステアリングの正確性に定評があったが、今回のツーリングの味わいはそれに輪をかけて硬質で手応えのあるものになっていた。そこにはボディやタイヤなどに見られるユーロチューン(?)の効果もあると思われる。これが寄居工場で欧州仕様も生産されることになった恩恵だとすれば、今回の生産戦略見直しは少なくともマニアには歓迎できるものだ。 いっぽうで、日本仕様と欧州仕様でボディ構造にまで明確なちがいがある……という現実に、あらためて複雑な思いを抱く日本のマニアは多いだろう。ただし、新しいツーリングと1.5リッターRSには前記のように150kgの重量差があるが、そのうちの数十kg分は専用ボディによるものと推測される。つまりはそこにはメリットとデメリットの両方があるということだ。それに、今回は比較用に既存のハイブリッドZも試乗できたが、日本の日常的な乗り方ではハイブリッドのほうが快適で、十分に活発で正確に走ってくれたのも事実である。 スペック【 ヴェゼル ツーリング ホンダセンシング 】 |
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