いかにもギアっぽい遊び心あふれるデザイン「新時代の国民車」を探す実地調査企画の第17回目。今回の調査対象は2018年12月に登場したスズキの軽ハイトワゴン、スペーシア ギアである。 「……ついに来たな!」というのが、試乗を終えての率直な感想だ。何が来たかといえば、筆者が言うところの新時代の国民車、すなわち「安価で経済的なのだが、走りが良くて洒落てもいる大衆実用車」がついに現れたか! との感動に打ち震えているのだ。 まずはごく簡単な車両解説から。 スペーシア ギアの元となった2代目スズキ スペーシアは、2017年12月に登場したいわゆる軽ハイトワゴン。「スーツケースをモチーフにした」というシンプル系デザインがなかなか素敵な一台である。 その2代目スペーシアをSUVスタイルに仕立てたというか、いかにもギア(道具)っぽい遊び心あふれるデザインに仕立て上げたのが、今回の「スペーシア ギア」だ。今もやっているのかどうか知らないが、登場時は俳優のムロツヨシさんを起用したテレビCM(遊び心あるな~、というやつ)を大量投下していたので、ご記憶の方も多いかもしれない。 用意されるエンジンは最高出力52psのノンターボと、同64psのターボ。発進時や加速時にモーターがエンジンをアシストする「マイルドハイブリッド」が両エンジンに組み合わされ、トランスミッションはCVT。駆動方式はいずれのグレードにも2WDと4WDが用意されている。JC08モードによるカタログ燃費はノンターボの2WDが28.2km/Lで、ターボの2WDは25.6km/Lだ。 安全装備では「デュアルセンサーブレーキサポート」による衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制機能、車線逸脱警報、後退時ブレーキアシストなどを標準装備。フロントガラス投影式の「ヘッドアップディスプレイ」もメーカーオプションとして装着できる。 で、今回の調査車両はターボチャージャー付きの「HYBRID XZターボ」というグレード。ではさっそくそこらへんの生活道路や国道、高速道路などをごく普通に、たぶん普段のあなたと似たような感じで走ってみよう。 大のオトナも満足できる内装の仕立てに感嘆走り出す前には必然的に「車の外観が視界に入る→車内に乗り込むとインテリアが目に入る」という流れになるので、内外装デザインにもいちおう触れておきたい。 結論から申し上げると大変素晴らしい。 スペーシア ギアの写真を見た段階ですでに素敵だとは思ったものの、「実物はガキっぽいデザインおよび質感だったらどうしよう……」との不安もあった。だがリアルのスペーシア ギアの内外装はまったくのノープロブレムだった。 軽自動車ゆえさすがに高級感みたいなものはない。しかし大のオトナが乗ってもまったく恥ずかしくはない質感およびデザインではあるのだ。 特に内装は、速度メーターの意匠こそ個人的には少々ダサい(安っぽい)と感じたが、その他の部分はかなり今っぽい仕立てである。「……スズキのデザインセンターは知らない間にパリか北欧にでも移転したのだろうか?」と思ってしまうほどだ。そして樹脂部分の見た目も安っぽくない。軽自動車ゆえ実際は安い素材を使っているのだと思うが、ぜんぜんそうは見えないのである。 まあデザインに対する印象は人それぞれなので、結論は各自で出していただくほかない。だが少なくとも言えるのは、「写真を見て期待していた人が現車を見てガッカリすることはないでしょう」ということだ。 では走ってみよう。まずは近所の幹線道路から。 N-BOXに匹敵するような安定っぷりと快適さ3気筒のターボエンジンはなかなかパワフル&トルクフルで、軽自動車でしばしば感じるかったるさはほぼ皆無。むしろ「……けっこう速い」とすら思う。 ただしなかなかスポーティなエンジンだけあって、普通ぐらいの速度であってもエンジン音はそこそこうるさい。だがそれもあまり気にならないのが、人生の不思議というか自動車の不思議である。 スペーシア ギアの場合はなぜ「うるせえなあ……」とは感じないのか、考えてみた。 確かなことはわからないが、おそらくは「エンジン音の出方とパワー&トルクの出方がちゃんと連動していて、ついでに車体の動き(揺れとか傾きとか)ともしっかりリンクしている。要は“すべてが自然”であるため、まるで雨の音や子供たちの元気な声が(昼間)聞こえてくるときのように、気にならないのではないか」という結論になった。 いずれにせよ幹線道路をごく普通のペースで走っているだけでも気持ちいい、なかなか良き軽自動車である。 「同一条件下で繰り返し実験し、記録する」という科学的な検証をしたわけではないので断言はできないが、シャシーの安定っぷりと快適さについても、クラスNo.1とされるホンダN-BOXに匹敵しているのではないかと思われた。 高速道路の追い越しもストレスなく完了。PWRボタンは強烈お次は高速道路だ。ETCでゲートをピコ~ンと通過し、徐々に速度を上げ、おおむね100km/hでしばらく巡航する。その際のエンジン回転数は、フロントガラスに映るヘッドアップディスプレイ内のタコメーターによれば2300回転ほどだろうか。メーターが斜めって映るため実は細かい数字がよく見えないのだが、だいたいそんなところだろう。その際の車内は前述のとおりちょっとうるさいが、前述のとおり不快ではない。 ほぼそのままの速度でS字状のカーブに入ってみても、これだけ背が高い軽自動車であるにもかかわらず、不安感はほとんどない。このあたりもN-BOXに匹敵している。風切り音はN-BOXより若干デカいように感じられたが、これも前述のとおり科学的なテストに基づくコメントではないので、まあ参考程度に。 前方のトロすぎる車を追い越す際は、そのままアクセルを踏み足しつつ車線変更するだけで、特に問題もストレスもなく追い越しが完了する。だがよりスピーディに完了させたい場合は、ステアリングホイールの右手付近にある「PWR」と書かれたボタンを押すといいだろう。これはかなり強烈に作用する。 ただ、このパワーモードスイッチをONにしておくと燃費計の数値が明らかかつ速やかに劣化していくので、常時ONにするのはオススメしない。ここぞというシーン限定で使うべきだろう。ちなみに高速道路ではないが、横浜市内の急な坂道を登る際にも「PWR」ボタンは重宝した。 その後、ややハイスピードでタイトコーナーに進入したときはさすがに車から「や、そういうのちょっと無理だから……」という声が聴こえてきたような気もした。だがそれ以外では、つまり普通の道を普通のペースで走る限りにおいては、「安定!」「けっこう速い!」「気持ちいい!」という3つのフレーズに集約される走りのみを披露してくれた、スペーシア ギア HYBRID XZターボなのであった。 デザイン、走り、価格も良し! 日本国民に強くオススメしたい居住性にも少しだけ触れておこう。最新世代の軽ハイトワゴンだけあって、後席の広さは言うまでもなく抜群。「もしかしたらベンツのSより広いんじゃないの?」と思えるニュアンスだ。 ただしこれは最近の軽ハイトワゴンとしては当たり前すぎるほど当たり前のこと。わざわざ言うほどのことでもないだろう。 以上のとおり各所を走って、当日の燃費は(燃費計によれば)15.3km/L。さすがにカタログ値である25.6km/Lには届かなかったがまずまずの数値であり、調査目的のPWRボタン連打や全開走行がなければもっと伸びたはずだ。 もちろん好みにもよるだろうが、この手のノリを好む人にとっては内外装とも及第点をはるかに上回るセンス良好なデザインであり、繰り返し述べてきたとおりエンジンと車体の動きは、人間の生理を逆なでしない自然で気持ちの良いもの。そして操縦安定性もクラストップレベルで、実用車として使い倒すための仕掛けがいろいろあり、燃費も良好。ついでに車両価格も、近年の軽自動車としてはまあまあお安い。 もちろん購入の強制などできるはずもない。だが筆者としては、より多くの日本国民に「スペーシア ギアのターボ、気になるなら買ってみるといいと思いますよ!」とは強く申し上げたい。それが、今回の結論だ。 【スズキ スペーシア ギア HYBRID XZターボ(2WD)=169万5600円 】 【 スズキ スペーシアのその他の情報 】 国民車とは今、「新時代の国民車」が待たれている。いや、それを待っているのはわたしだけという可能性もあるわけだが、筆者が考える新時代の国民車とは以下のようなクルマだ。 「安価だが高機能かつ低燃費で、それでいておしゃれ感もある、程よいサイズの実用車」 100万円台でまるっと買えるのが望ましく、それが難しい場合でもせいぜい200万円台前半ぐらいまで。自動車オタクが求めがちなマニアックな諸性能はどうでもよく、どんな状況でも普通か普通以上ぐらいに気持ちよく運転でき、燃費が良くて維持費も安く、人と荷物をある程度積載できて、邪魔くさくないサイズで、それでいて大のオトナが乗るにふさわしい質感とデザインも備えているクルマ。 ……そんなある意味ぜいたくな一台を探し出すため、筆者はこのたび「一般社団法人 全日本国民車評議会」を(脳内で)設立し、実地調査に乗り出すことにした。 【国民車調査バックナンバー】 ■第2回 スズキ ジムニー、ジムニーシエラ ■第3回 日産 オールラインナップ ■第4回 スズキ スイフトスポーツ ■第5回 トヨタ カローラ スポーツ ■第6回 ホンダ シャトル ■第7回 ホンダ N-BOX ■第8回 スズキ ソリオ ■第9回 トヨタ シエンタ ■第10回 スバル XV ■第11回 ダイハツ ブーン ■第12回 スズキ クロスビー ■第13回 スバル インプレッサスポーツ ■第14回 マツダ デミオ ■2018年「国民車会議」振り返り ■第15回 トヨタ プリウス ■第16回 ホンダ フリード |
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