なぜセンチュリーがパレード車両に選ばれたのかセンチュリーの後席でくつろいでいる時、運転を任せていたbtyの岸本さんがステアリングにあるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)のスイッチを押した。スムーズに先行車を追従する。停止から発進や走行から停止など、状態が変化する瞬間の挙動は、人々が乗り心地の良し悪しを判断する際の大きな要素だが、センチュリーはそれらがいちいち滑らか。ボディの高剛性化、サスペンションチューニング、あらゆる部分のフリクション低減といったコストがかかるわりに言葉にすると地味な作業を積み重ねた結果だろう。 乗り心地には大変満足なのにどこか釈然としない。それはなぜかしばらく考えた末に、岸本さんがACCに運転を任せている点に納得がいっていないことに気づいた。もちろんACCは自動運転ではなく運転支援レベルだが、作動中、運転が楽になっているのは間違いない。つまり私は結果的にACCに運転を孫請けに出した格好になったというわけだ。だれかのためにセンチュリーを運転なさる皆様、仕事中はなるべく自分で運転しましょう。 さて今回のセンチュリー試乗は、2019年10月に行われるパレード「祝賀御列(おんれつ)の儀」で新しい天皇陛下が乗る車両がトヨタ・センチュリーに決まったという報道に接し、その記念としてセンチュリーの試乗を岸本さんが依頼してきたというのが経緯だ。「僕は岸本さんに運転を頼んだのに……」とか偉そうに書いたが、よく考えたら彼はクライアントだった! ごめんなさい。 それはともかく、国はパレードの車両のために約8000万円の関連予算を計上し、センチュリーをパレードに用いるという。皇位継承式典事務局によると、トヨタ、日産、ホンダ、ロールスロイス、メルセデス・ベンツ、BMWの計6社に打診。安全性や環境性能のほか、後部座席に乗る新天皇、皇后両陛下の姿が沿道から見えやすく、車列を組むほかの車両より大きいといった条件をすべて満たすのがトヨタのセンチュリーだけだった。(1月18日朝日新聞ウェブサイト記事より) センチュリーの新車価格は1960万円。約8000万円もの予算が計上されているのはパレード用にオープンカーに改造するから。現在天皇陛下が乗る御料車は先代センチュリーをストレッチしたセンチュリー ロイヤルだが、数の限られた御料車を改造してしまうと後々困ることもあるのだろう。平成に代替わりする際のパレードではロールスロイスのコーニッシュが用いられた。ロールスは当然素晴らしい。しかし特別な式典で日本の皇室が使う車両は、深い意味はないが国産車であってほしいと思うので、センチュリーが採用されたのは喜ばしい。 ノウハウとコストが違うロールスにはさすがに敵わない後席インプレッションの続き。あらゆる速度域や道路環境でマジックカーペットライドを期待していたが、実際には都心の一般道を40~50km/h付近で走行すると、路面の不整をわりとコツコツ拾う。当たりはソフトなので不快というわけではないが、センチュリーにとって最も大事と思われる速度域でこんな感じなんだと少し意外に感じた。とはいうもののセンチュリー試乗ということで期待値を高めすぎたかもしれない。ただ乗り心地というのはノウハウが重要であると同時に、コストをかければかけるほどよくなっていくのだろう。価格が約3倍のロールスロイス・ファントムはあらゆる局面で前後席ともに乗り心地も静粛性も数段上だった。 後席は背もたれの角度や座面のスライドをセンターアームレストに備わるタッチパネル式コントローラーで左右独立して調整することができる。すべての席に腰を掛けてみたが、やはり要人の定位置とされる左後席が特等席だ。というのも、コントローラーで助手席を一番前へ追いやって足元空間を最大化し、助手席のヘッドレストを前へ倒し、背もたれをマイナスの角度まで前へ倒すと、左リアのサイドウインドウから右リアのサイドウインドウにかけて、ピラーと運転手の頭こそあるものの、なかなかにパノラミックな風景が広がるからだ。 助手席の背もたれには左後席用のフットレストが備わる。背もたれの一部が後ろに倒れて後席の座面とつながり、足を伸ばせるタイプもあるが、センチュリーの場合は助手席が十分に前へいくためにくり抜く必要はなく、背もたれの背後に備わる足置きが倒れて、足を載せるタイプだ。サイドウインドウに備わる白いレースのカーテンが電動ではなく手動だったのは意外だったが、確かに実際に操作してみるとさっと手で開閉するほうが手っ取り早い。 「瑞響(ずいきょう)」と名付けられたウールファブリック仕様のシート地が心地よい。シート地は本来レザーよりもファブリックのほうが高級という位置づけで、だからこそ大昔の高級車は運転席がレザーで後席がファブリックというパターンが多かった。馬車まで遡ると運転席は外だからレザーのほうが雨風に強いという理由もあったのだろう。明るい色合いのウッドも一見して上質だとわかる。そしてシート上部を覆うレースのカバーは、日本の格式の高いホテルのインテリアを思わせる。インテリアの全体が和風テイストなのは、このクルマの客層を考えると理解できる。日本人よりよっぽど日本びいきの外国人にもきっとウケるだろう。 100km/h+α未満を想定した国内専用車の世界があるちゃんと自分でも運転した。後席で過ごすことに慣れていないために運転席のほうが落ち着く。全長5335mm、全幅1930mm、全後1505m、ホイールベース3090mmとフルサイズだが、運転席の座面が結構高く、四角張ったスタイリングということもあって見切りは悪くない。そしてこれはよいことなのかどうかわからないが、狭い道路でのすれ違いでは、対向車が側壁にめり込むんじゃないかと心配になるほど避けてくれるので恐縮する。センチュリーを開発したトヨタやそのユーザーにそういう意図はないのだろうが、立派なメッキグリルと「神威(かむい)」という大仰な名のついた黒のボディカラーは、結果として対向車にとっては威圧的なのだろう。 新型センチュリーには5.0L V8エンジン+ハイブリッドという先代レクサスLSのパワートレーンが採用された。はっきり言って先代のV12エンジンが恋しいが、これも時代が求めるダウンサイジングというやつだろうか。ハイブリッドなので走行中もエンジンのオンオフは頻繁に繰り返されるが、遮音対策、制振対策のおかげで気にならない。意外なことに他のトヨタ/レクサス車同様にスポーツモード、スポーツプラスモードが設定される。試しにスポーツプラスモードで走行すると、センチュリーとしてあるべき上品さを保ちつつもアクセルがレスポンシブになり、エンジンを積極的に始動してパワーを確保するようになる。ECOモードもあって、それだとなるべくバッテリーにある電力だけでクルマを動かそうとする。アクセルペダルを踏み込んでもECO領域を外れないようペダルが重くなる。 センチュリーの乗り味がとにかくソフトなのは、海外輸出を考慮していないため、完全に100km/h+α未満を想定して開発されているからだろう。高価なので要求レベルは高いだろうが、客層と使われるステージをかなり絞ることができるので開発はしやすいのかもしれないと想像する。常用域でややコツコツする感覚を除けば快適だった。経済力にかかわらず、欲しいとか欲しくないという観点でチェックすべきクルマではないが、プライベートで乗ったとしても満足できるのではないか。ともあれこの仕事をしていてもセンチュリー試乗の機会はめったにない。他のモデルと違ってプロモーションの必要性がほとんどないのに広報車両を用意してくれたトヨタに感謝したい。 スペック【 トヨタ センチュリー 】 |
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