クローズドのテストコースではなく公道で開催する意味毎年スバルが「テックツアー」と銘打って開催する雪上試乗会は、他メーカーと異なり一般公道で行われるのが特徴だ。理由は「リアルワールドでスバルの性能を感じてもらいたい」から。以前は北海道のクローズドテストコースだったがその後一般公道となり、これが好評だったことから公道での開催が恒例となった。 昨年は青森県の酸ヶ湯で行われ、今回は山形県の肘折温泉周辺となった。理由は日本の歴代最深積雪ランキング1位が前回の酸ヶ湯で、今回の肘折温泉は歴代2位の445cmを昨年2018年に記録しているからだという。さらにこの肘折温泉の近くには出羽三山のひとつ「月山」があり、かつてスバルが冬季試験を行なったゆかりの場所でもある。 今回は昨年フルモデルチェンジした「フォレスター」の2.0L 水平対向4気筒+モーターのマイルドハイブリッド「e-BOXER」を搭載した「アドバンス」と、2.5Lの水平対向4気筒エンジンを搭載した「X-ブレイク」という2グレードを試した。ルートは各自自由で、筆者は往路では山形市内から銀山温泉街を経由して中継地点の肘折温泉へ。そして復路は肘折温泉から出羽三山神社を経由してゴールの庄内空港というルートを選んだ。 今回スバルが強調したのは、いわゆるフォレスターの新型車としての性能や商品性ではなく「スバルならではの総合雪国性能」。総合雪国性能というのは、単に雪道に強いAWD等の技術的各論を検証するための試乗やテストではなく、それらを基盤として、スバル車に備わる「雪国での生活で使われて発揮される」性能のことだ。 フォレスターの総合雪国性能に関してまず記すべきは、最低地上高がスバル車の中で最も高い220mmに設定されていることだろう。これにより深雪等に耐えうる走破性を実現する。最近はSUVといっても最低地上高が通常のセダンやワゴン等と変わらないものもあるほどだが、この点に関しては基本ディメンジョンで雪国での使用を想定しているわけだ。XVやアウトバックはクロスオーバー的な位置付けだが、それでも最低地上高200mmを確保しており、こうした雪国で使うことの基本をしっかりと押さえることがスバルの言う総合雪国性能なのだ。 雪国のカーライフで体感できるスバル車らしさ総合雪国性能の追求は当然ながら車高以外にも及んでいる。例えばこれはフォレスターに限った話ではないが、スバル車では全車で優れた視界を確保する「ゼロ次安全」が基本とされ、一般的にはウインドウの配置や高さなどの基本要素で死角を限りなく減らす設計がなされている。が、雪国では通常のクルマのワイパーでは、ワイパーが停止する位置に雪が固着して動かなくなったり、結果ウインドウをうまく拭けない場合がある。スバルはこうしたことでゼロ次安全が妨げられないよう、スバル車のワイパーにはデアイサー(ワイパー停止位置に熱線を入れることで雪溜まりやワイパー固着を防ぐ装備、モデルによってはオプション)が備わり、そうした状況に陥らない対策がなされる。 今回は街中こそ雪は少なかったが、ルートを進むに連れて雪深くなり、天候も一時はホワイトアウトする様な状況が何度もあった。だが、そんな状況でもフロントウインドウ自体の視界が変わることはなかった。今年の北海道での他メーカーの雪上試乗会の際、中にはワイパー停止部分に雪が溜まって視界を遮るクルマもあったため、余計にその効果を実感した。 そして雪国だからこそ重宝するステアリングヒーターや、こびりついた雪を落としヘッドライトを確実に機能させるヘッドライトウォッシャーなど雪国で必須の性能が確保される。またエアコンのユニットも、吹き出し口を足元近くに配置するなどして、冬場の冷えを感じる要因となる足元への暖かな送風も考えられている。さらにシートヒーターなどは前後席とも当然用意されており、バックレスト上側まで範囲を拡大するなど、さりげない冬季性能を盛り込むのも特徴だ。 その他にも雪国での使用に役に立つ機能を細かに盛り込む。前輪にチェーンをつけた際、前輪の駆動力が増すことで相対的に後輪の駆動力が低下し、前後の駆動力バランスの関係でスピンしやすくなる特性を是正する制御も行っている。今回試したe-BOXERでは、回生ブレーキ時のアンダーステアを低減した他、X-MODEでは低車速域でモーターのトルクを優先的に配分してアクセルワークに対して忠実なトルク応答を実現するなどの制御も入る。これは思いの外有効で、滑りやすい路面での発進などではアクセル操作に遅れることなく適切なトルクが得られるので、スムーズに発進することができた。 フルタイムAWDだからこその信頼感今回は雪国で一般の方が普段の生活で使っているようにフォレスターを走らせたが、どちらのモデルにも共通しているのはそこに安心を感じさせる感触が明確にあることだった。数々の機能がさりげなく盛り込まれることや、メカニズムの成り立ちや作動からその感覚は生まれるのだろう。実際にフォレスターはドライ路面で試乗すると、例えばSIドライブのIモードなどでは、エンジンの反応なども穏やかなので、印象としてやや眠い感じを覚えることもある。が、そうした特性もタフな環境で試すと安心して身をまかせられるものになる。 また同時にこうした環境では、日本で一番売れているブリヂストンのブリザックVRX2というスタッドレスタイヤと組み合わせることで、雪国では無敵と感じるほどのタフな走りを披露してくれた。 今回の試乗コースは刻々と状況が変わりハードだった。最も厳しかったのは途中凍結もある長い下りの緩やかなワインディング。カーブで時たま滑ってしまい、時折吹く風でホワイトアウトしてしまう。そういった状況下でも、フォレスターの逞しさや信頼を感じた。スバルのクルマはモデルによって様々なAWDシステムを積むが、フォレスターに搭載されるのは最も多くのスバル車が用いるアクティブトルクスプリットAWDというシステム。日産エクストレイルやマツダCX-5などのライバルたちが採用するFFベースのオンデマンドの4WDと比べると高い信頼がおけるのが特徴だ。 刻々と路面状況が変化するようなシーンでは、オンデマンド4WDだと時として対応が遅れることもあるが、スバルのAWDは常時全輪駆動を基本に、状況に応じて駆動力配分を可変する。往復でハードな雪道を含む約200kmというルートにおいて、常にリラックスして運転ができ、状況によっては走り自体を楽しめるようなシーンをもたらしてくれたことも付け加えておきたい。結果として疲れは少なく、なおかつジワジワと染み入ってくるクルマの良さに、筆者は改めてこの感覚が「スバルらしさ」だろうと感じた。 電動化など次世代の技術への取り組みにも期待とはいえ200kmの行程を走ってみると、課題が見えてくるのも事実。例えば視界は良好だが、走りのためのインターフェースは新型車の割に意外と整理されていない。メーター、ダッシュボード中央上方、そしてナビ画面といった具合で液晶表示パネルが3つもあるため、かなり雑然とした感覚を覚える。フォレスターの情報視認性はスバルの掲げるプリンシプルにはそぐわないだろう。 さらに付け加えれば、この辺りは他メーカーのモデルではもっと整理が進んでおり、操作系との連携も含めての改善が望まれるポイントと言えるだろう。それだけにステアリング周りのアイサイトの操作スイッチを含むHMIに関しては、より簡単かつ使い勝手の良い「機能としてのデザイン」が今後要求されると思える。 また今回は、凍結もある長い下りの緩やかなワインディングを走ったが、こうしたシーンではAWDとて一度滑るとグリップが回復するまで待つしかない状況に何度も陥ったし、常時全輪駆動でも限界と感じるアンダーステアも多く経験した。 こうした点に関しては他メーカーでもAWDの可能性を引き上げる制御技術が確立されつつある。例えば日産リーフでは、同様の状況でe-pedalを用いるとアクセルから足を離した瞬間から4輪に独立したブレーキ制御を行うため、人間が操作するより最適かつ安定した減速ができる。 今後はこうしたモーター駆動のきめ細かな制御が、従来型の4WD技術を上回っていくことも十分に考えられる。スバルがこれまでのAWDはもちろん、今後の電動化されたメカニズムを用いてどんな答えを出して、スバルならではの総合雪国性能としていくのかは実に興味深い。 今回の雪上試乗会ではスバルならではの総合雪国性能を存分に味わうことができた。ならば、次はそこにどんなテクノロジーやアイデアを組み合わせて、さらなる総合雪国性能を実現していくのかに期待したいところだ。 スペック【 フォレスター アドバンス(e-BOXER) 】 【 フォレスター X-ブレイク 】 |
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