eKクロスの顔はデリカD:5の単なる軽版ではない三菱自動車の新型eKワゴン/eKクロスに試乗した。忙しいあなたのために数行で結論を申し上げると、動力性能や快適性の面でスズキ、ダイハツ、ホンダが激戦を繰り広げている軽自動車最前線で十分に戦える内容が備わっていた。日産とのコラボを活用して獲得した同一車線運転支援システム「マイパイロット」の分だけ他社にないアドバンテージも得た。 eKワゴン/eKクロスは三菱がアライアンスを組む日産とジョイントベンチャーで設立したNMKV(Nissan Mitsubishi Kei Vehicle)が開発したモデルだ。主要部品を共有する兄弟車の日産デイズもそう。三菱版も日産版も三菱の工場で製造される。先代も同じ図式だったが、先代は三菱側の社員が中心となって開発したのに対し、新型は日産側の社員が中心となって開発したという。 目をそらした瞬間に思い出せなくなりそうなeKワゴンの顔つきに対し、eKクロスのそれは夢に出てきそうなくらいに主張が強い。まずはeKシリーズ最大の特徴であるeKクロスのデザインについて、大石聖二デザインプログラムマネージャーに話をうかがった。 --デリカD:5を思わせるフロントマスクですが、並行してデザインが進んだのでしょうか? 大石:そういうわけではありません。”ダイナミックシールド”という弊社が掲げるデザイン上のキーワードに沿ってそれぞれにデザインした結果です。弊社のデザインは大きく分けてふたつの潮流があります。ひとつは歴代パジェロのデザイン、もうひとつは歴代ランエボのデザインです。eKクロスには、パジェロのようにバンパーを強調した守ってくれそうなデザインと、ランエボのようにフロントマスクの中央部をブラックアウトしハイパフォーマンスを感じさせるデザインを盛り込みました。 --目立つこと自体を目的とはしていない? 大石:あくまでもForm Follows Function(形態は機能に従う)の考え方にのっとってデザインしています。例えば、低い位置に配置したヘッドランプは、ドライバーの目線よりもずっと低い位置から照らすほうが視認性がよいからです。さらに縦に3つ並んだランプのうち一番下がハイビームです。これは対向車が感じるまぶしさを減らすのに役立ちます。 理にかなったデザインならいずれ受け入れられる--他の軽自動車よりも大きく感じました。 大石:フロントマスクの中央部からポジションランプやバンパーが四方へ伸びたデザインを採用することで、限られた横幅で最大限の存在感、特に車幅感を狙っています。フロントのナンバープレートを中央に配置したのもその一環です。軽自動車は規格の範囲で最大限の室内スペースを確保するためにどのモデルもギリギリまで寸法を広げていますから、シルエットでは差が付きません。だからフロントマスクで存在感を示すしかないんです。 --初めて見てギョッとするデザインでもしばらく見続けると見慣れ、さらに気に入る場合もあるということをデリカD:5で学びました。eKクロスも見慣れますか? 大石:奇をてらったデザインは見慣れないか、もしくは見飽きられますが、理にかなったデザインであれば、見た瞬間からではなくともいずれ理解していただけると考えます。eKクロスもあくまで機能に従った形態ですから、かかる時間に個人差こそあれ、多くの人に理解し、気に入っていただけると思います。 エクリプスクロス、デリカD:5、そしてeKクロスと近頃の三菱車のデザインには中途半端さがなく、フルスイングを感じる。グローバルでの販売台数が120万台強、国内では10万台ちょっとの規模のメーカーとして、多くの人にほんのり気に入られるデザインよりも、一部に強烈に気に入られるデザインを追求する様は、コンセプトが明快で、好ましい。 最近では軽自動車を選ぶうえでボディカラーこそ最重要項目だと考える人が増えたという独自の調査結果を受けて、三菱はeKシリーズに2トーン(ルーフとボディを塗り分け)とモノトーンのボディカラーを計11通り設定した。2トーンというと、ルーフカラーに白や黒を設定し、それにさまざまなボディカラーを組み合わせる例が多いが、eKシリーズでは黄色いボディには白いルーフ、青いボディにはシルバーのルーフ、赤いボディには黒いルーフと、ルーフカラーに5色を設定し、組み合わせを固定した。これがなかなかどれもセンスがよく、色選びが楽しそう。 乗り心地の良さはホンダN-BOXに匹敵するレベルターボエンジンを搭載したeKクロスTを試乗した。自主規制によって最高出力は従来同様64psだが、低フリクション化、高圧縮比化を果たしたほか、組み合わせるCVTをワイドレシオ化したことで全域で力強さを増したという。また減速エネルギーをモーターで回生してリチウムイオンバッテリーに貯蔵し、加速時にモーターアシストに用いるハイブリッドを採用。体感的にも、一般道でも高速道路でも軽自動車の動力性能としては最も活発な部類に入る。全開加速をしてもさほどやかましいわけでもない。 現行モデルのなかで軽自動車最良の乗り心地を有するのはホンダN-BOXだと思うが、eKクロスの乗り心地はそれに匹敵するレベルにある。ギャップを乗り越えた際の突き上げがマイルドで、ボディ剛性の高さとサスペンションの適切なチューニングを感じる。高速道路で車線変更した際の腰高感もない。日産三菱にとって久々となる軽自動車の新車で、十分な期間をかけて新規開発したモデルで失敗するわけにはいかないという気合を感じる。 ホイールベースを先代よりも65mm拡大し、それを後席ニールームの拡大に充てた。確かに後席は広い。多くのライバル同様、後席をスライドさせることで荷室と後席ニールームの割合を変更することができる。 おすすめはekクロスにしか設定されないターボモデル日産がもつ同一車線運転支援システムのプロパイロットを三菱版のマイパイロットとして、電動パーキングブレーキとセットのオプション(7万200円)で上位グレードに設定した。完全停止に対応するアダプティブクルーズコントロールと車線中央維持装置の組み合わせによって、高速道路でのダラダラ進む渋滞時などに真価を発揮する。先行車両が完全停止しても3秒以内に再発進すれば自車も自動的に再発進する。いよいよ軽自動車にもこのレベルの装備が付くようになった。早晩他社の軽自動車も追随するだろうが、しばらくは日産三菱のアドバンテージとして販売に貢献するだろう。 スズキジムニー、ホンダS660、ダイハツコペンなど一部に例外はあるが、規格と自主規制でがんじがらめにされた軽自動車は、登録車ほどには性能の開きもなければキャラクターの違いもない。デザインもほとんど顔つきしか違わないといっても過言ではない。価格もしかり。そんな中、6年間新車がなく、他社に遅れをとっていた日産三菱もようやく他社の最新モデルと肩を並べた。 多人数乗車の機会がなく、高速道路もほとんど使わないというならノンターボでもよいが、そうでなければターボがおすすめ。ただしターボはeKクロスにしか設定されない。大胆な顔つきを気に入った場合は問題ないが、おとなしい顔つきのターボが欲しいとなったら悩ましい。でも大丈夫。日産デイズがあるから。 スペック【 ekクロス T 】 【 ekワゴン G 】 |
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