GLCと基本部分を共有、未来感は薄めこれまでのどのメルセデスよりもメルセデスらしいかもしれない。メルセデス・ベンツ初の電気自動車であるEQCを試乗して、最初に頭に浮かび上がったのはそんな言葉だった。さらに付け加えるならばその乗り味走り味は、フラッグシップサルーンのSクラスと同等か、あるいは超えるか? と思える緻密さや濃密さを感じた。 皆さんご存知のように電気自動車はそもそも、内燃機関を搭載したクルマに比べると「静かで滑らかで力強い」という特性を持つ。騒音や振動が極めて少なくシームレスな加速が可能で、一切のタイムラグなく最大トルクが得られるというモーターの特性が、そうした印象を走りに与えるからである。ならば電気自動車は皆同じ走りなのか? というとそうではなく、どんな乗り味走り味に仕立てて他と違うものを作るのかがキモであり、メーカーが培った経験やノウハウを存分に活かすことができるのだ。事実、EQCからは冒頭のような印象が強く感じられた。果たしてなぜ、そのように思えたのか? その答えの前にEQCの概要に触れておこう。 メルセデス・ベンツ初の電気自動車であるEQCは今年の初めに発表された。すでに昨年ジャガーのI-PACEやアウディe-tronが発表されていることから考えると、思ったより時間がかかっての登場ともいえる。 ジャガーI-PACEは独自の電動化アーキテクチャを用いて作られ、アウディe-tronは同社のMLBと呼ばれるアーキテクチャをベースとするのに対して、EQCは同社が販売するDセグメントのSUVであるGLCと基本部分を共有するという。もっともGLCとは85%は違う部品を使っているとの説明を受けた。基本部分が共通とはいえ、床下には80kWhという容量のリチウムイオンバッテリーが搭載される。衝突時に重さ650kgのバッテリーに影響が及ばないよう強固なアルミ押し出し材のフレームがバッテリーを囲う構造となる点はGLCと大きく異なる。 3サイズは全長4761mm×全幅1884mm×全高1624mmでホイールベースは2873mm。数値は欧州値で日本仕様はわずかに異なるが、GLCと比べるとEQCは全長で約90mm長く、20mm低い。サイドからフォルムを見ると、GLCよりもリアのオーバーハングが長い上に、ルーフラインは後席に向かって緩やかに弧を描いて下がり、テールゲートも寝ているフォルムだ。これは空力性能を追求したからで、随所に空力向上のための造形が施される。アンダーフロアはほぼフラットな構造とし、CD値0.27を実現した。この手のSUVではテスラモデルXが0.25でトップだが、かなり優秀な数値といえるだろう。 インテリアの基本はGLCと同じだが、ダッシュボードとドアトリム周りは異なる。ダッシュボード周りは最新のメルセデスデザインを踏襲しており、巨大な液晶パネルがドーンと横たわるAクラスに近いものとなる。ただ、エアコンの吹き出し口には、これまでのメルセデスにはないデザインが採用されており、ルーバー自体がカッパー(銅)色で塗られているのが特徴だ。 内外装とも奇抜なところは意外に少ないEQCはある意味かなりコンサバ? と思えたが、これまでのクルマと同じように違和感なく使えるという点では、未来感よりも現代生活への浸透を考えたのかもしれない。 アウディe-tronほどのインパクトは感じられない今回の国際試乗会はノルウェーのオスロで開催された。この地が選ばれた理由は、オスロが欧州随一の”エレクトリック・シティ”だから。水資源が豊富なノルウェーは、国の電源構成比で水力発電が約95%を占めており、CO2の排出量は発電の段階からゼロになる。そうした事情を背景に、オスロの自動車生活はかなり”電化”している。 試乗会はオスロ空港からスタートしたが、その会場は巨大な駐車場内に作られていた。そこに足を踏み入れると圧巻! 各駐車スロットには給電ポートが備わっており、駐車している一般車両はほぼ100%電気自動車。現在、世界で販売されている電気自動車のほとんどがこの駐車場で確認できるほどだった。日産リーフやテスラといったメジャーどころに始まり、キア ソウル EVなど日本で見たことのない電気自動車もあり眺めるだけで楽しい。 ブリーフィングを受けてから早速スタート。海外試乗会では同業者とペアで試乗するのが常だが、僕はあまり順番にこだわりはない。だが今回はワガママを言って先に運転をさせてもらった。なぜならこれまでの経験上、電気自動車は最初に動かした印象で評価が決まってしまう傾向が強いから。例えば昨年の秋にアブダビでアウディe-tronを動かした瞬間の衝撃は圧倒的で、「これまでのクルマをすべて過去のものにした」と表現できる静粛性と滑らかさを伝えてきた。ならばEQCはどうだろうか? 案の定、動かして数メートルで強く確信した。「メルセデス・ベンツもドイツの自動車メーカーらしく、これまでのノウハウを最大限に活かしたクルマ作りをこのEQCでやってきたな」と。つまり、内燃機関を搭載した自動車で目指してきた価値観に照らし合わせた、圧倒的な性能を作りこんできた、ということ。アクセルを踏み込むと、EQCはこれまでのどのメルセデスよりも滑らかにタイヤを転がし動き出した。先にふれたアウディe-tronと比べてどうか? 実は「滑らかさや静粛性の高さは相当に作り込んできたな」と深く感心はしたものの、アウディe-tronほどのインパクトは感じなかった。それは駐車場を出て、一般道にアクセスして速度が高まっていった際に、ある程度のタイヤのパターンノイズ等は聞こえてきたからだった。もっともEQCの名誉のために付け加えるならば、それでも世の高級車と比べて負けないどころか、同等以上の静粛性は実現した上での話なのだが。 乗り心地の良さはライバルと一線を画すしかし走らせるほどに色んなことに気付き始めていく。ふむふむと頷けるような丁寧な作り込みがなされていたのだ。まずバッテリーの容量が80kWhというのは、ライバルに比べると控えめだ。I-PACEの90kWhやe-tronの95kWhからすると数値的には見劣りする。しかしながら最高出力では、前後のアクスルに一つずつ備わる合計2つのモーターで300kWを発生しており、これはI-PACEやe-tronと同じ。一方で最大トルクは760Nmと、e-tronの664NmやI-PACEの696Nmを遥かに凌ぐ。 さらに航続距離はNEDCで445~471km、WLTPでは約417kmと言われており、電費はNEDCで20.8~19.7kWh/100km、WLTPで18.7kWh/100kmとされる。一方のI-PACEはWLTPモードで470kmの航続距離と言われ電費は22.0kWh/100km。e-tronはWLTPモードで417km、電費は26.2~22.6kWh/100kmとなるから、電費は頭一つ抜け出ていることになる。 また0-100km/h加速タイムの5.1秒は、e-tronの5.7秒を凌ぎ、I-PACEの4.8秒には及ばない…といった具合だが、オーバーオールで動力性能や燃費を見ると、ライバルと比べてパワーは同等、トルクは最も太く、電費も優れている、といった商品力を備えているわけだ。 しかも感心するのは実際に走らせると、そうしたスペックなどどうでも良いと思えるような、シミジミと良くできているなという印象をひたすら受けること。例えば先に静粛性についても、アウディのe-tronには劣るが、と記したものの、やはり内燃機関のクルマからすれば遥かに静かであることは間違いないし、何より乗り味が高品質感に溢れている。 先にその乗り味走り味はSクラスと同等、とも記したが、そうした評価の一番は乗り心地に優れることだ。車両重量2495kgのヘビー級ともなると、乗り心地は良くなる方向だし、サスペンションの動きも実に豊か。しかも驚きなのは、そうした乗り心地の良さは他のライバル同様にエアサスによって生み出されていると信じて疑わなかったのだが、後で展示物をみるとフロントは通常のメカニカルなサスペンションで、リアがエアサスという組み合わせだったのである。前後エアサスではなくとも、ライバルとは一線を画す心地良さを実現していたのだから驚きだ。 間違いなくメルセデスの味わい、EVならではの多彩な機能もEQCはさらに電気自動車だからこそのロジックに基づく機能を備えている。例えばステアリングにはお馴染みのパドルが備わるが、これはブレーキの回生量を変えるためのもの。「ー(マイナス)」のパドルを引くとメーター内のD表示の横にーが表示され、これまでよりも回生量が強くなり、アクセルから足を離すと減速がなされる。さらにーのパドルを引くと、今度は「ーー」と表示され、より強い回生量となると同時に減速もかなり強めとなる。この感じは日産リーフのe-Pedalに近い。ただし止まる寸前までは行くものの、そこから先はクリープ程度の前進を行い、完全停止は行わなかった。 また「+」のパドルを長引きするとD表示の横にAUTOという文字が加わり、ナビや標識からの情報を用いて、現在走っているところで回生ブレーキを使うのが良いのか、コースティングした方が良いのかなどをクルマ側で判断して、効率的な走りを実現してくれる(日本仕様への導入は未定)。 ドライブモードには、「マキシマム・レンジ」という選択肢があり、これを選ぶとインテリジェントペダルという、アクセルペダルが奥まで踏み込めない仮想のストッパーが設定され(力強く踏めば奥まで踏み込める)、なるべく電気を使わない効率的な走りが可能になる。 こうして様々なシーンで走らせてみたが、EQCは航続距離や電費に一定以上の回答を出した上で、クルマとしての機能の高さや走りの良さをしっかりと伝えてくるのが印象的だった。スペック的にもライバルを凌ぐのだが、それ以上に走らせた時の感触が間違いなくメルセデス・ベンツの味わいであり、それがこれまでのどのメルセデスよりも緻密で濃密なものに感じられる点に感心したのだ。 それは例えば、メルセデス・ベンツといえばサスペンションの豊かなストローク感で路面の悪い部分などを見事にいなして快適な乗り心地を実現する一方で、決してフワフワした感覚はなく、サスペンションが伸びる方向でも不安定にならない”落ち着き”が特徴だが、このEQCでもそれがしっかりとSクラス並みのものとして感じられる。またステアリングを回した時の、しっかりとした手応えと回転の滑らかさ、そしてタイヤの向きがはっきりと分かる感覚や、操作に対して決して過敏ではないけれど遅れもない忠実な反応、そしてそれらに端を発する安心感が、やはり上級モデルのものとして伝わってくる。 欲しいと思えるほどの高評価も1000万円超えが悩ましいしかしハイライトはアクセルペダルを踏んだ時の感動だろう。モーター駆動ならではの静かで滑らかで力強い走りはもちろん、EQCはそこにメルセデス・ベンツらしさがしっかりと詰まっていると思えた。これまでも内燃機関を搭載したメルセデスのアクセルの感触は、踏み込みこそ重めだが踏んでいく時の操作量は分かりやすく、巡行時にはアクセルの踏み込んだ状態を固定しやすい。言い換えればそれはアクセルペダルだけでも品質の高さを感じさせるものだった。それがEQCでは、これまでのどのモデルよりも濃密に感じるのだ。 なぜならばモーターは内燃機関以上に緻密に回転や出力をコントロールできる。それだけに例えばアクセルを数mm踏んだ時に、これまでの内燃機関では無反応だった部分でもキッチリと反応させることができる。もっともそれだけに、操作に対して過敏になる可能性もあるわけだがそこはメルセデスで、人の感性に逆らわない、いやむしろ感性にジャストミートするフィーリングに仕立てていると感じた。アクセルをゆっくりと少しずつ開けていくと、それに応じてモーターも実にいい具合で反応し、気持ちよく足の動きにシンクロしたスーパースムーズな加速を見せる。そんな一体感の高い操作性はまさに、メルセデスの電気自動車ならでは、と思えるのだった。 しかし一方で気になるのは実際の航続距離や電費などを鑑みた使い勝手だろう。EQCは航続距離も電費もカタログ値では優れていたが、今回の試乗におけるメーター上での電費は悪い時で24.5kWh/100km、良い時で21.0kWh/100kmという具合だった。厳密には言えないが、例えば約100km先に出かけて帰ってくるような状況であれば、無充電でも問題ないだけのパフォーマンスを持っているといえる。が、おそらくメーター表示を見たら、帰りのサービスエリアなどでCHAdeMOを使いたくなる走行可能距離や電池残量になっているのは間違いないだろう。この辺りは、日本上陸後にテストするのが楽しみだ。 さらに気になる価格だが、ドイツでは7万1281ユーロで、導入時記念モデルのEQC Edition 1886は8万4930.3ユーロとなっている(約870~1000万円)。日本でも年央に発表、年内には上陸を果たしそうだが、新型車導入時に記念モデルをまず設定するのが常となっていることを考えると、1000万円は確実に超えてくることになるだろう。 実は今回、僕はEQCに興味津々だった。なぜなら次期愛車候補として電気自動車も視野に入れており、今回乗って判断したいと思っていた。そうした視点からのEQCに対する個人的な評価は「これは欲しい!」と素直に、強く思えるものだったということもお伝えしておこう。しかしながら、価格は高額なので相当に悩ましいのも事実である。またこの価格帯になると、同じSUVタイプとしては今後登場するだろう1クラス上のGLEなども比較検討できる。とはいえ結論としては、走りの良さや性能、そして様々な機能を含めて、新しい物好きとしてこれを生活の中で使ってみたい! と思ったのは本音である。 試乗レポートとしての締めの言葉を記すとするならば、やはりその乗り味走り味の良さに尽きるだろう。その意味でEQCは、電気自動車になってもやっぱりメルセデスといえる1台だったし、これまでのどのメルセデスよりもメルセデスらしい、といえる1台だったのだ。 スペック【 EQC 】 |
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