家族で楽しむ道具としては悪くない選択「新時代の国民車」を探す実地調査企画の第19回。今回の調査対象は2019年1月に一部改良が実施された「今、日本で一番売れてる車」ことトヨタ ヴォクシーだ。 「今、日本で一番売れてる車(登録車)」は、正確にはCMでおなじみの日産ノートである。だが「顔とかが違うだけ」とも言えるヴォクシー/ノア/エスクァイアの3兄弟を「結局は同じ車」として考えるなら、一番売れてる登録車はその3兄弟ということになるのだ。 軽自動車を含む無差別級でカウントするなら、さらに上にホンダN-BOXがいるわけだが、それはさておき、日本一売れている登録車3兄弟の長兄がトヨタ ヴォクシーである。で、さすがは日本国民にあまねく売れてる人気車だけあって、このたびの試乗車両であるヴォクシー HYBRID ZSに、ある1点以外の「重大な問題点」は認められなかった。 まぁ「走る歓び、操る楽しさ」のようなものは皆無に近いのだが、この種のミニバンにそういった要素を過剰に求めるのはナンセンスだろう。 「ビュッと加速してシュッと曲がる」的な走行は苦手であり、高速道路で追い越しのため100km/h以上のメーター読み速度まで上げようとすると、1.8Lエンジン+モーターのハイブリッドシステムからはボーボーモーモーと不快な音が押し寄せてくる。 だが日本の交通法規にのっとった速度で、大切な家族を後ろに乗せているつもりでジェントルに加減速しつつ、スムーズに曲がったり直進したりする限りにおいては何の問題もないのだ。背が高い車だが、慎重に走らせればユラユラもしない。 ヴォクシーというミニバンの正しい使い方、楽しみ方は――今さら言うまでもないだろうが――以下のとおりである。 走りのフィーリングうんぬんについての個人的な嗜好はとりあえず封印し、まずは安全第一、そして乗員の車酔い回避を第二としながら、粛々と走らせる。そして乗員全員で楽しくおしゃべりをしたり、お菓子を食べたり、ドライバー以外の乗員にはすやすや居眠りしてもらうなどして、家族とともに生きる歓びをかみしめる。そのための道具だと思えば、トヨタ ヴォクシーは悪くない選択だ。 車としてではなく、走る狭小住宅と考えれば格安車内各部のデザインや質感はどことなく「建売住宅」っぽい感じで、つまり各部がやや小さめにできていたり、値段の割にはちょっと安っぽかったりもする。だが同時に「建売りだっていいじゃないの! 戸建てに住めるというだけで十分幸せなんだから!」という見方だって世の中にはある。 その意味で、パッと見はなんとなく豪華でなんとなく都会的でもあるインテリアに包まれながら「家族でのおでかけ」を楽しむという行為は、決して否定されるべきではない。 各媒体で繰り返し紹介されている話ではあるが、後部スライドドアの開口部は広くかつ低床であるため、乗り降りはかなり容易。そして7人乗り仕様の2列目キャプテンシートは810mmの超ロングスライドが可能ゆえ、レッグルームにはひたすら余裕がある。 ただし左右方向は建売住宅的に狭いと感じた。キャプテンシートの肘掛けに肘をのせると、横の乗員の肘とぶつかってしまうのだ。4名乗車の際は、内側の肘掛けは無用の長物と化すだろう。 そして室内高も1400mmはあるため、小学生男子(例えばサッカー少年)であれば車内で立ったまま着替えが可能。そしてサードシートへのアクセスも大変に容易である。 今回の試乗車であるHYBRID ZS(7人乗り/FF)の車両本体価格は328万6440円で、もろもろのオプション装備を含んだうえでの支払総額は400万円ちょいぐらいになるだろうか。 「400万円ちょいの車」というのは、個人的にはなかなか高いと感じでしまい、特に「走らせる楽しみは特にない車に400万円ちょい」というのは、いささか割高に感じる(※個人の感想です)。 だがそれはヴォクシーを「車」だと思うから高いと感じるのだ。 ヴォクシーは、あるいはヴォクシーと同ジャンルに属するミニバンは、古典的な意味での車ではない。「走る狭小住宅」なのだ。ある意味で。 狭小とはいえ戸建て住宅を買おうと思ったら、例えば都内であれば数千万円は下らない。さらにそれを「走る狭小住宅」にカスタマイズしようと思ったら、よく知らないが2億円ぐらいはかかるのではないだろうか? だが狭小住宅を苦心して走行可能な状態にカスタマイズするのではなく、最初からヴォクシーを買えば400万円ぐらいで済む。超絶格安というか、割安である。 そういった意味で、つまり古典的な意味での「車」ではなく「家族のための移動狭小住宅」が欲しいのであれば、一部改良後のトヨタ ヴォクシーは決して悪くない選択だ。 「ACCの設定なし」は今どきのミニバンとしてはヘビーな欠点とはいえ筆者はここまで「悪くない選択」という表現を2回使い、一度も「良い選択」とは言っていない。その理由は、ヴォクシーおよびその兄弟車にはACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)が設定されていないという、割とヘビーな欠点があるからだ。 運転そのものを楽しむタイプの車であれば「ワシは全車速追従のACCなんていらん!」という考え方もあるだろう。だがヴォクシーあるいはこの種のミニバンは、そういった類の車ではない。 率直に言ってどうでもいい交通局面では、なるべく機械任せにしてラクをしたい類の車だ。そしてラクをする分だけ、車内で家族とのコミュニケーションに注力したり(もちろん安全に留意しながらではあるが)、目的地に到着してからフルパワーで遊べるようにしたいものである。 しかし残念ながらヴォクシー3兄弟に「今や必須」と言える全車速追従機能付きのACCは設定されておらず、あるのは「今や古くさい」と言える定速クルーズコントロールだけ。 これは2019年のミニバンとしては重大なウイークポイントであり、筆者個人としてはACCなしのミニバンなど選択肢にすら入らない。 もしもミニバンを買う必要に迫られたとしたら、おそらく日産セレナe-POWERまたはホンダ ステップワゴン スパーダを選ぶだろう。その2車であれば、ヴォクシー ハイブリッドとおおむね似たようなプライスで、おおむね似たような走りでありながら(いや、セレナe-POWERはけっこうイイ)、ACCが用意されているからだ。 だが、もしもあなたが「いや、やっぱりトヨタはいろいろ安心だから」という理由でヴォクシーを買いたいというのであれば、あえて止めるつもりもない。トヨタ ヴォクシー HYBRID ZSとは、そういう車だ。 全日本国民車評議会(通称:国民車会議)議長としての勝手な評価まとめは以下のとおりである。 【トヨタ ヴォクシー HYBRID ZS(7人乗り/FF)=328万6440円】 【 トヨタ ヴォクシーのその他の情報 】 国民車とは今、「新時代の国民車」が待たれている。いや、それを待っているのはわたしだけという可能性もあるわけだが、筆者が考える新時代の国民車とは以下のようなクルマだ。 「安価だが高機能かつ低燃費で、それでいておしゃれ感もある、程よいサイズの実用車」 100万円台でまるっと買えるのが望ましく、それが難しい場合でもせいぜい200万円台前半ぐらいまで。自動車オタクが求めがちなマニアックな諸性能はどうでもよく、どんな状況でも普通か普通以上ぐらいに気持ちよく運転でき、燃費が良くて維持費も安く、人と荷物をある程度積載できて、邪魔くさくないサイズで、それでいて大のオトナが乗るにふさわしい質感とデザインも備えているクルマ。 ……そんなある意味ぜいたくな一台を探し出すため、筆者はこのたび「一般社団法人 全日本国民車評議会」を(脳内で)設立し、実地調査に乗り出すことにした。 【国民車調査バックナンバー】 ■第2回 スズキ ジムニー、ジムニーシエラ ■第3回 日産 オールラインナップ ■第4回 スズキ スイフトスポーツ ■第5回 トヨタ カローラ スポーツ ■第6回 ホンダ シャトル ■第7回 ホンダ N-BOX ■第8回 スズキ ソリオ ■第9回 トヨタ シエンタ ■第10回 スバル XV ■第11回 ダイハツ ブーン ■第12回 スズキ クロスビー ■第13回 スバル インプレッサスポーツ ■第14回 マツダ デミオ ■2018年「国民車会議」振り返り ■第15回 トヨタ プリウス ■第16回 ホンダ フリード ■第17回 スズキ スペーシア ギア ■第18回 スズキ ワゴンR |
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